釜山国際映画祭レポート(その2) 韓流スターの主演作が続々!
今年も華やかに開催された釜山国際映画祭。レポートの2回目は、注目の出品作をご紹介したいと思いますー。日本での公開が近いものもありますので、さっそくチェックしてみましょう。
●パク・ユチョンの『海霧』
なんといっても注目はポン・ジュノ監督のプロデュースによるこの作品。元東方神起のメンバーで俳優としても快進撃を続けるパク・ユチョンと、『チェイサー』『10人の泥棒』たちなどで「第二のソン・ガンホ」的な存在感を見せるキム・ユンソク、W主演のスリラーです。
物語は食い詰めた漁船の船長が船員たちを養うために、一度だけのつもりで朝鮮系中国人の密航に手を貸すことから始まります。ところが。海上警察の目が光る中、慣れない仕事にトラブルも続出し、果てはものすっごい恐ろしい事件が起こってしまうのです。そこにたちこめる深い海霧によって、船は一歩も動けぬまま夜の海に閉じ込められてしまいます。誰ひとり逃げ出せない極限状態で歯車が狂った船内は、やがて狂気に飲み込まれていきます。
ユチョンが演じるのは、その中で一人正気を保つ新人船員ドンシク。前半、密航者の女の子に恋心を……っていうか、ムラムラしちゃったりして、ドラマ「成均館スキャンダル」でもそうでしたが、この人、こういうむっつり系の演技がものすごく上手いんですねえ(褒めてます)。役作りか、それともただ単に油断して食べ過ぎちゃったのか、いい具合に太って、田舎町の朴訥とした青年を好演しています。
悪役がすごく大事な映画ですが、恐怖で船内を支配する船長役のキム・ユンシクが何しろすごい演技を見せています。この人が背負うやむにやまれぬ思いがなければ、ただ怖いだけの映画になってしまったかもしれません。監督は『殺人の追憶』の脚本家シム・ソンボで、怖さとかラストの余韻とか、なんとなく似ているかも。ポン・ジュノクオリティ健在です。
●キム・ナムギルの『海賊 海に行った山賊』
この夏、韓国で国民的な大ヒットを記録した『鳴梁』を相手に、800万人動員と大健闘したキム・ナムギル&ソン・イエジン主演の海賊もの。ひょんなことからクジラに飲み込まれてしまった、明国から与えられた国璽(国のハンコ、明に認められたという証明です)を巡り、山賊海賊権力者が入り乱れるアドベンチャーアクションは、このポスタービジュアルからは想像できませんが爆笑コメディです。
韓国版『パイレーツ・オブ・カリビアン』――とまでは行きませんが、海に向かった山賊チャン・サンジョンを演じるキム・ナムギルの初のコメディ演技、海賊の女親分ヨウォルを演じるソン・イエジンの初のアクション、アイドルグループf(x)のメンバー、ソルリの映画デビュー作と、様々な話題もあり韓流ファンならば十二分に満足できる作品です。
これまでのシリアス一辺倒なキム・ナムギルには、個人的に「自己陶酔型ナルシスト」というイメージで苦手だったのですが、この映画ではそのイメージを覆す壊れっぷり。特に韓流ドラマで同じみの脇役ユ・ヘジンとの絡みは笑いは抜群です。もちろんキメるところはキメてくれますよー。
●ヒョンビンの『王の涙 イ・サンの決断』
この作品の邦題がなんか微妙だなーと思うのですが、原題は『逆鱗』。竜の体に一枚だけあって、触れると怒り狂うと言われる逆さに生えた鱗のこと。この映画での竜とは言うまでもなく、李朝朝鮮の正祖イ・サンのことです。
イ・サンは、そのものを主人公にした「イ・サン」をはじめ、様々な韓流ドラマに登場しています。「成均館スキャンダル」や「風の絵師」の王様もそうだし、「トンイ」の息子もイ・サンです。彼は政敵に何度も何度も命を狙われながら名君として生き延びた王で、その人生はドラマに事欠きません。それら様々な陰謀の黒幕が、死んだ先代の王、祖父・英祖の年若い妻、大妃(テビ)なのです。
映画はこの悪女が企てたイ・サン暗殺計画の1日の動きを、彼を守る臣下たち、狙う刺客たち、敵の中にもある様々な思惑などを描きながら追っていきます。笑いが少ないので韓国ではなかなか評価されなかったようですが、すごい見応えのある骨太なドラマで、もしかしたら日本の男性にはすごく受けるんじゃないかなー。
ヒョンビンが無駄に脱いで兵役明けの筋肉をばりっと見せていますので、もちろん女子的にもOK。『キング2ハート』でブレイクしたチョ・ジョンソクがイ・サンを狙う刺客役で出ていますが、ヒョンビン狙いで見てこちらに落ちた!なんていう人も、絶対にいるはず。ドラマ「イ・サン」でイ・サンの思い人を清楚に演じたハン・ジミンが、極悪の大妃を妖艶に演じているのも、韓流ドラマファンにはお楽しみのひとつです。
●ハ・ジョンウの『群盗 民乱の時代』
『テロ、ライブ』が最高だったハ・ジョンウの最新作は、兵役明けのカン・ドンウォンとのW主演。民から搾取する汚職官僚たちを相手に暴れまわる義賊集団と、史上最悪の権力者の戦いを描きます。
ハ・ジョンウ演じるドルムチは、朝鮮時代の最底辺の階層、白丁(ペクチョン)と呼ばれる屠畜人。その地の権力者、カン・ドンウォン演じるチョ・ユンに雇われて殺しを請け負うものの失敗。家族を皆殺しにされ、自身も処刑されることになるのですが、その寸前に助けてくれたのが、かの義賊集団。ドルムチは復讐を心に誓って、仲間に加わります。
笑いあり涙ありの痛快活劇、エンタテイメントど真ん中の作品です。特にキャラ立ちした二人の対決は、ファンならずとも絶対に楽しめるはず。時に長髪をハラリ、とかさせながら華麗な刀捌きを見せるカン・ドンウォンは、冷たい美しさが悪魔のように残酷な(実はちょっと悲しい)悪役にぴったりで、対する坊主頭のハ・ジョンウはゴツい肉切り包丁の二刀流で、仕留めた両班のちょんまげを切り落とすのが楽しみという豪放な面白男。
『ベルリン・ファイル』のプロモーションの時、来日しないのは「新作で坊主頭だから」と聞いていたのですが、まあ確かに『ベルリン・ファイル』のカッコよさとは全然違いますけれど……これも十分魅力的です!18歳という設定(!)にはそうとう無理がある気がしますけれども!
荒野を馬で駆け抜ける義賊たちを西部劇に見立てて描いたといいますが、むしろ70年代プログラムピクチャーのような感じがしました。
監督は大ヒットした『悪いやつら』のユ・ジョンビン。そうしてみると、群盗の面々は『悪いやつら』の渋い脇役だらけです。『鳴梁』のチョン・ジヌン、『一対一』のマ・ドンソクなどなどいい味で、笑いに涙にドラマを盛り上げています。
●キム・ギドクの『一対一』
作品を発表するたびに、物議をかもすキム・ギドクの最新作。
性と宗教を描き続けてきたキム・ギドクも『メビウス』で描き切っちゃったのか、今回はガラッと趣向を変え、ある事件の加害者たちを次々と血祭りにあげていく謎の自警団の暗躍を描きます。
自警団のメンバーは、暴力男から逃げられない女性や、学歴はあるのに就職できない若者、借金で明日の食事もままならない男など、ままならない社会の中で踏みつけにされながら生きている人たちです。今年の釜山は、強烈な階級社会の底辺で生きる人たちの悲しいドラマがすごく多かった印象がありますが、この作品はそんな社会へのプロテストとして暴力に訴えることは、はたして正しいのかという問題を投げかけていきます。
――と書くとなんか大真面目な感じがしますが、そこはキム・ギドク。暴力男と女の濡れ場を妙にねっちょりと撮ってみたり、それぞれのメンバーに対する加害者を全部同じ俳優が演じるというシュールな演出があったり、思わず吹いちゃうアホな笑いがそこここに挟み込まれたりして、らしさも十分。
主演は様々なドラマで独特の存在感を見せるマ・ドンソク。確か元格闘家だかなんかでガタイのいい人で、『悪いやつら』ではチェ・ミンシクの義弟を、『群盗 民乱の時代』では群盗のメンバーで怪力男チョンボを演じています。
●ホン・サンスの『自由が丘8丁目』
釜山国際映画祭といえば、私にとってホン・サンス作品は欠かせませんー。
今回は日本の加瀬亮さんとのコラボ作品。まだ未見なのですが、近々見る予定ですのでその時にアップするということで、とりあえずはこちらのトレイラーをどうぞ。