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『葬送のフリーレン』『薬屋のひとりごと』日テレアニメ大ヒットとTBS『七つの大罪』の挑戦

篠田博之月刊『創』編集長
『葬送のフリーレン』(c)山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」

日テレが『葬送のフリーレン』で大きな挑戦

 2023年秋の改編で大きな話題と言えば、日本テレビが金曜23時台に新たなアニメ枠を設けたことだ。この10年ほど、各局ともアニメはゴールデン帯から撤退し、配信を前提にした深夜枠や土日のキッズ向けに分かれる流れが続いていたのだが、日本テレビは今回、新たな取り組みに踏み込んだことになる。しかもいろいろな仕掛けが当たって、放送が始まった『葬送のフリーレン』が大ヒットとなっている。もうひとつ、土曜枠で放送している『薬屋のひとりごと』もヒットしており、日本テレビのアニメ事業が注目を浴びている。

 一方、テレビ界でそれと対峙するのはTBSで、同局も2023年から日曜夕方にアニメ枠を新設するなど大きな取り組みを開始した。日本テレビのアニメ戦略とそれに対抗するTBSの取り組みについて、今回、それぞれの当事者に聞いた。

 この11月、月刊『創』(つくる)1月号(12月7日発売)のテレビ局特集の取材で、キー局全局を回ったが、テレビ界のこの1~2年の激変ぶりにはすさまじいものがある。テレビ界はいま、歴史的な転換点を迎えていると言える。そしてそのひとつの端的な表われが、アニメをめぐる各局の激しい闘いだ。

そしてアニメ事業では先を走っていると言われてきたテレビ東京の現状もあわせてレポートしよう。テレビ東京放送の『SPY×FAMILY』も間もなく劇場版が公開されるが、これも今、大きな盛り上がりを見せている。

 こうしたテレビ局の取り組みの背景には、日本のアニメが海外の配信市場で大きな注目を浴び、コンテンツとして期待が寄せられている現実がある。

日本テレビのコンテンツ戦略とアニメ事業

「金曜23時台のアニメは『FRIDAY ANIME NIGHT』、通称『フラアニ』と呼んでいますが、これまでスタジオジブリの作品などを放送してきた『金曜ロードショー』の後に続く放送枠で親和性は高いと考えています」

 そう語るのはコンテンツ戦略本部グローバルビジネス局担当局次長の佐藤貴博スタジオセンター長だ。このスタジオセンターは23年6月にアニメ・映画・ドラマなどストーリーコンテンツ製作陣を集結させてできた部門だ。しかもそれがグローバルビジネス局、つまり、海外市場を視野に入れたビジネス展開を推進する局の中核に置かれたことが、日本テレビの進もうとしている方向をうかがわせる。

 佐藤さんは、これまで映画やアニメの製作に関わり、近年は配信やデジタル事業に関わってきた人だが、今回、スタジオセンター新設とともに、センター長に就任した。日本テレビはコンテンツ中心主義を掲げ、コンテンツをどう戦略的に展開していくかに注力してきたが、今回の組織改編でそれは新たな段階に至ったと言えるのかもしれない。海外市場への展開では、今はアニメの存在が大きいが、今後はドラマの海外展開も積極的に進めていくという。

「新設された『フラアニ』枠で10月にスタートしたのが人気アニメの『葬送のフリーレン』です。9月29日には『金曜ロードショー』の枠を使って初回2時間スペシャルでスタートするという試みを行いました。金曜ロードショーで今回のような形でアニメを流すのは初めてです。日本テレビとして勝負を懸けた取り組みでしたが、視聴率もアニメの評価も高く、大きな成功を収めています。

 10月6日からは23時台の『フラアニ』枠でレギュラー全国放送していますが、アニメをテレビで見る面白さを改めて提案出来ているのではと思っています。この何年か、深夜枠を中心にアニメは配信が前提で、ユーザーにとってもテレビのプレゼンスは下がっていたと思います。今回の23時台全国放送は、もう一度、テレビでアニメを全国の多くのユーザーと同時に観て盛り上がるテレビならではの愉しさを訴えたかったので、まずは良いスタートが切れたと思っています。『フラアニ』の試みはアニメ界でも非常に注目されていて、何年か先までラインナップも決まりつつあります」(佐藤センター長)

土曜枠の『薬屋のひとりごと』も大ヒット

 日本テレビではこのフラアニ枠に加えて火曜深夜と土曜24時55分にアニメ枠があるが、土曜枠で放送している『薬屋のひとりごと』も人気を博している。

「『薬屋のひとりごと』も初回は90分スペシャルにして3話分を一挙放送しました。『葬送のフリーレン』とこの作品の2つは評価が高く、リーチした数の多さやその後の配信数も含めて、今期の全局のアニメの中で2トップをとる勢いです」(同)

『葬送のフリーレン』『薬屋のひとりごと』は、ともに製作幹事社は東宝で、日本テレビが幹事社ではない。いずれ企画製作幹事作品比率を上げていきたいという。

「TOHO animationは今年でちょうどブランド設立10周年を迎え、人気作品を多く手掛けています。日本テレビも以前はアニメ製作幹事が多かったのですが、近年は幹事作品が少なくなっています。今後は自社企画製作幹事作品も増やしたいと思っています」(同)

アニメ、映画、ドラマの連動を積極的に推進

 今回の組織改編でアニメ・映画・ドラマが同じ部署になったことで、日本テレビとしてはその連動をさらに強化し、今後は原作を取りに行く際にもそれを強みにできる。

 近年はマンガ原作の実写映画も多く、日本テレビがこのところ力を入れて取り組んでいるのは、23年に第3弾が公開された『キングダム』だ。7月に公開された『キングダム 運命の炎』は日本テレビと集英社の共同製作幹事で、興収55億円突破と、同年公開の実写映画のトップを走っている。翌年は第4弾が公開予定だ。

「そのほか、この秋に公開された映画『ゆとりですがなにか インターナショナル』も、連続テレビドラマからの映画化です。コロナ禍もあり、映画化するまで5年ほどかかってしまいましたが、今後はもっと早いタイミングで映画化するケースが多くなる予定です」(同)

 先ごろ『君たちはどう生きるか』を大ヒットさせたスタジオジブリが、10月に日本テレビの子会社となった。また細田守監督の「スタジオ地図」も日本テレビの関連会社だ。アニメスタジオでは「マッドハウス」と「タツノコプロ」が同局の子会社。スタジオジブリから独立した「スタジオポノック」も同局と関連が深い。12月には同スタジオ制作の劇場アニメ『屋根裏のラジャー』が公開される。

「今は配信や映画との垣根がなくなってきているので、様々なクリエイターと配信オリジナルも含めたあらゆるプラットフォームに向けた企画開発を続けています。日本テレビが持つHuluはもちろん、グローバルプラットフォームとの共同企画製作も増やしていきたいと思っています」(同)

TBSの新たな局創設と、アニメ事業推進

 この10月以降、TBS社屋を訪れると、日曜夕方に放送中の2つのアニメ番組のポスターがあちこちに目につく。2023年7月、TBSにアニメ映画イベント事業局という新しい局が誕生したのだが、それを踏まえて10月に新たなアニメ枠が設けられた。以前からある日曜午後5時からのMBS毎日放送の“日5”と言われる枠の前に、4時半からの新しいアニメ枠が設けられたのだ。海外市場を見据えたアニメ事業への注力というのは各局の動きだが、TBSもかなり大きな取り組みだ。10月から、その4時半の枠では『七つの大罪 黙示録の四騎士』、5時からは『シャングリラ・フロンティア』が放送されている。

©️鈴木央・講談社/「七つの大罪 黙示録の四騎士」製作委員会
©️鈴木央・講談社/「七つの大罪 黙示録の四騎士」製作委員会

 新設の局名からわかるように、アニメ、映画、舞台・イベントといったコンテンツを連動させていきたいというのがTBSの戦略だ。アニメ映画イベント事業局の渡辺信也アニメ事業部長に話を聞いた。

「局の名称にアニメが入るのはTBSとして初めてのことで、アニメ事業に注力するという会社の意思の表れだと思います。この秋に“TBSアニメ”というロゴも新たに作り、本編の冒頭や広告に入れ始めました。アニメファンにはなじみの深いMBSの“日5”枠に隣接する形で新しいアニメ枠を設け、『七つの大罪 黙示録の四騎士』という大きな作品を放送し始めたのが10月です。同時に、現在、MBSの『呪術廻戦』を放送している木曜23時56分枠も、1月からはTBSのアニメ枠としてレギュラー化します。

 今後はJNN系列で連携を深めていきますが、現在、全国で同時に見られるアニメ枠が4つになります。日曜午後4時半とMBS枠の5時、木曜23時56分、そして金曜深夜1時23分のMBS『スーパーアニメイズム』という枠ですね。

 そのほか木曜25時28分には、『五等分の花嫁』を放送していた関東ローカルのアニメ枠もあります。この秋の日曜夕方枠のスタート時は、地上波でのPRはもちろんのこと、山手線ラッピング広告など大規模な交通広告も展開しました」

原作連載終了後も大人気の『五等分の花嫁』

『五等分の花嫁』は講談社『週刊少年マガジン』の原作連載は既に終了しているのだが、いまだに根強い人気があり、2022年には劇場アニメも公開され、興収20億円超という大ヒットとなった。その後も新作アニメ『五等分の花嫁∽』が製作されたり、年末には原画展も開催、25年春には横浜アリーナで大きなイベントも開催される。24年が最初のアニメ放映から5周年にあたるため、「5th Anniversary」というプロジェクトを始動させていて、原画や横浜アリーナのイベントもその一環だ。関連商品もとてもよく売れているという。

 TBSでは12月に深夜帯で『七つの大罪 黙示録の四騎士』『五等分の花嫁∽』、それと『放課後少年花子くん』と、今年放送された3タイトルを一挙に再放送する。『放課後少年花子くん』は2020年に木曜深夜関東ローカル枠で第1期を放送した『地縛少年花子くん』のスピンオフを軸に新たな要素を加えたショートアニメだ。『地縛少年花子くん』は北米などでも人気の高いアニメで、2期の制作決定を最近発表した。

 このほかTBSは劇場版アニメの製作にも取り組んでおり、24年度後半から順次公開される予定だ。TBSとしてはグループ内に「セブン・アークス」というアニメ制作スタジオやコミック配信会社の「マンガボックス」などを擁し、グループ全体としてアニメ事業を展開させようとしている。

『SPY×FAMILY』劇場版に大きな期待

 テレビ東京といえばアニメに強いというイメージがある。アニメ局アニメ事業部の紅谷佳和部長にも話を聞いた。

「今、テレビ東京で局をあげて推しているのは、12月22日公開の『劇場版SPY×FAMILY CODE:White』ですね。テレビシリーズも十分ヒットしていますが、次は劇場で観たいというファンの期待が高まっているので、それに応えられればいいなと思います。

 10月改編は各局ともアニメに力を入れており激戦になっていますが、『SPY×FAMILY』はやはり根強い人気を誇っています。放送中のSeason2の最終回の前日が劇場版の公開日なので、テレビアニメの方でも劇場版についてはしっかり告知しています」

C:2023「劇場版 SPY×FAMILY」製作委員会 ©遠藤達哉/集英社
C:2023「劇場版 SPY×FAMILY」製作委員会 ©遠藤達哉/集英社

 1月スタートのアニメ作品も既に発表されているが、テレビ東京としても一推しの作品が目白押しだという。

「まず、『チェリまほ』と略称で親しまれていますが、『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』という作品ですね。漫画原作なのですが、テレビ東京で2020年に放送されたドラマがヒットして2022年に映画化されました。ついにそのアニメ版が水曜24時の深夜枠で放送されます。

 それから、今『SPY×FAMILY』が放送されている土曜23時の枠で1月からスタートするのが『ぶっちぎり?!』。テレビ東京で言えば、2022年に放送してヒットした『チェンソーマン』などを制作しているMAPPAのオリジナルアニメです。ヤンキーの男子生徒たちの濃厚な物語ですが、完全オリジナルのとても面白い作品です」(紅谷アニメ事業部長)

 アニメはゲームや玩具、グッズなどと連動してビジネス展開できるのも特徴だ。テレビ東京では10月に『BEYBLADE X』の放送がスタートしている。ベイブレードは世界的ブームになっているが、その新シリーズを漫画化した『コロコロコミック』の連載をアニメ化したものだ。もともとその金曜18時25分の枠は3月まで『妖怪ウォッチ♪』が放送されていた時間帯でターゲット的に親和性も高いし、その後の18時55分からは『ポケットモンスター』が放送されている。

 この秋のテレビ局のアニメ戦争は、小学館や集英社、講談社などから刊行されている原作にも跳ね返っているようで、『葬送のフリーレン』『薬屋のひとりごと』の2作を刊行している小学館は大きく売り上げを伸ばしている。『SPY×FAMILY』についても、集英社は映画公開にあわせて幾つかの雑誌でコラボ展開を行うなど、大きな取り組みを行っている。

 アニメのコンテンツが今や世界市場を獲得し新たなステージを迎えていることが、この秋から年末にかけての大きな動きにつながっているわけだが、この動き、今後どうなるのか。

http://www.tsukuru.co.jp/

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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