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年金満額支給70歳時代はいつ来るか。基礎年金は1975年、比例報酬分は87年生まれ辺と過去例から予測

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
フランス人ならばこうなるわけだが(写真:ロイター/アフロ)

 フランスでは年金支給年齢を64歳に引き上げようとするマクロン政権に対して激しい反発が起きています。一方、日本は1994年に基礎年金(後述)を、2000年に厚生年金の比例報酬分(同)を段階的に60歳から65歳まで引き上げると決めて基礎年金に関しては13年から65歳以上から満額支給となって早10年。以後「70歳まで引き上げられるのではないか」との観測が度々なされるも今のところ具体化していません。

 しかし「70歳へ引き上げ」には予兆が既にあり、理由も厳然と存在するのです。そこで過去の歴史を振り返りつつ「70歳」になる時期を推理してみます。

基礎年金≒国民年金と厚生年金の比例報酬分とは

 年金はしばしば「3階建て」に例えられます。1階が基礎年金ですべての国民が対象。20歳から60歳まで月約1万6500円を納めると65歳から満額月約6万5000円が死ぬまでもらえます。自営業者やフリー、専業主婦などが対象で、この場合は「国民年金」と呼称(※注)。

 2階の比例報酬分は会社員や公務員の厚生年金が対象。厚生年金の1階は基礎年金と同額で2階は報酬(額面給与)を段階別(○円~△円)に区切った(1級・2級など)標準月額報酬の18.3%(労使折半)を納めれば所得に応じた年金が受け取れるという仕組みです。1・2階は合算されて給料から天引きされます。

 3階は企業年金や退職等年金給付(公務員)。制度のある企業・団体のみが対象です。

5歳引き上げる理由は

 年金の原則は現役世代≒働き手から高齢者に仕送りする仕組み。現在は高齢者が増えて働き手と予備軍たる子どもの数が減っているため1人あたりの年金額を保証すると働き手の負担は増加する一方です。

 それを防ぐため2004年の年金改革で国民年金は05年から毎年月額280円引上げ17年までに16900円とし、厚生年金は04年から毎年0.354%引上げて17年の18.30%まで。ここで「打ち止め」とし、以後は保険料を上げないで、その範囲内で何とかすると決めました。曰く「100年安心プラン」。

 とはいえ少子高齢化は進む一方。「打ち止め」た以上は働き手減少で小さくなった総額を増えた高齢者が分け合うため1人あたりの金額は減ります。

 ここに「70歳引き上げ」の理由が誕生。打ち止めまでの期間を延ばして(例えば65歳までとか)入りを増やし、5歳上げた分だけ出が減ると。

キーワードは「努力義務」

 次に予兆について。2020年に高年齢者雇用安定法改正が改正されて(21年施行)。70歳までの就業確保措置を努力義務としました。22年には70歳までだった受取開始を75歳まで拡大したのです。

 「会社は70歳まで働けるよう努力しましょう。年金は75歳から受け取ってもいいですよ」とのメッセージのよう。なぜそうしたいかというと年金の満額支給を70歳にしたいからと推測されます。

 根拠は次の通り。かつて定年は55歳でした。1994年から60歳未満定年制=55歳定年禁止が決まり98年に施行。定年60歳時代の到来です。

 同じ94年には「1941年4月2日生まれ」以降から基礎年金支給を61歳へ。以後3年ごとに1歳を加えて「1949年4月2日生まれ」から現行の65歳となりました。

 定年60歳で支給開始を段階的に65歳まで引き上げると「仕事も年金もない」状態が最大5年できてしまう。そこで、やはり94年から65歳までの就業確保を「努力義務」とし、04年からは原則義務化。13年からは希望者をくまなく雇用しなければならないとしたのです。つまり「努力義務」は支給年齢引き上げの号砲ととらえられます。

比例報酬分引き上げは継続中

 今度は比例報酬分。2000年改正で「1953年4月2日生まれ」から60歳を61歳に引き上げ。後は基礎年金と同じく3年ごとに1歳を加え「1961年4月2日生まれ」以降は65歳となります。同年生まれはまだ65歳に達していないから引き上げ中。

基礎年金70歳は現在48歳あたりか

 数字が多くてややこしいため整理します。引き上げ決定は基礎年金だと法改正94年で7年ほど経過してから1歳ずつ引き上げて12年後に65歳へ到達しました。比例報酬分は6年後の同2000年から約13年過ぎて1歳引き上げ、やはり12年後に65歳へ到達予定です。

 基礎年金65歳となった「1949年4月2日生まれ」は74歳~75歳。そろそろ定着してきた雰囲気。

 ここで2020年の「70歳までの努力義務」と1994年の「65歳までの努力義務」を重ねてみましょう。94年の場合は約7年後から上げ始めました。ただ現時点で引き上げ法案は出ていないから3年以内に出るとして今から計10年が経過し、さらに12年後に完了となれば多分1975年(~80年)生まれあたりから「基礎年金満額支給70歳時代」となりそうです。現在約48歳。

 「3年以内の繰り上げ法案提出」と予測する根拠は来年(24年)に5年に1度の「年金財政検証」が行われるから。おそらく悲観的な結果を導くでしょう。そこをテコに総選挙をやり過ごした後に法案提出となるといい感じなのです。

比例報酬分70歳は現在36歳あたりか

 次に比例報酬分。先述の通り1961年生まれはまだ65歳に達していません。到達後直ち(といっても3年後)に66歳へ上げたら大反発を食らうでしょう。直後の62年や63年生まれは大卒入社でも、その時点で社会は55歳定年でした。それが年を重ねるうちに60歳定年となり、今世紀に入って年金65歳支給とされた上に04年からの「毎年保険料値上げ」を17年まで課された気の毒な世代ですから。

 3年後に基礎年金を引き上げる法改正があると仮定すると先例にしたがってそこから6年ほど遅れて計9年。さらに約13年ほどは65歳で据え置き12年かけて70歳とするあたりが最短かと。としたら1987年(~92年)生まれあたりからとなりそうです。現在約36歳。油断大敵です。

※注:したがって1階部分のみ受け取りの方は「国民年金」、厚生年金の方は「厚生年金の基礎年金部分」とするのが正確であるが却ってわかりにくくなるため本稿では「基礎年金」で統一

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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