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価格の手頃さだけではない。湾岸・豊洲の住人が、足立区のタワマンに惹かれるリアルな理由

櫻井幸雄住宅評論家
足立区のタワマンは、眺望が開ける。「シティタワー綾瀬」のモデルルームで筆者撮影

 「シティタワー綾瀬」は、東京メトロ千代田線とJR常磐線が利用できる綾瀬駅から徒歩1分で分譲中の超高層マンション、いわゆるタワマンだ。

 住所が足立区となるため、東京23区内のマンションとしては地味な立地のマンションと思われがちだが、じつは湾岸・豊洲エリアのタワマン居住者から「買替え先の候補」として名前が挙がりやすい物件でもある。

 今から5年ほど前、同じ足立区で綾瀬駅の隣駅・北千住駅の近くで分譲された「千住ザ・タワー」も湾岸居住者の検討が多かった。

 湾岸でも人気が高い場所・豊洲のタワマンに住んでいると、足立区のタワマンが魅力的に見えてきてしまう理由がある。それは、豊洲のタワマンが備える弱点を解消したり、豊洲からの買替えにちょうどよかったりするからだ。

 なぜ、足立区が都心湾岸エリアに住む人たちから熱い視線を集めるのか。その3つの理由を解き明かしたい。

1つ目の理由は、「開けた眺望」

 東京カンテイが2023年1月に発表した調査データによると、日本には1500棟近いタワマンがあり、東京都にはその3分の1にあたる470棟が所在しているそうだ。

 東京都内でもタワマンが目立つのは23区内。なかでも、湾岸エリアはタワマン集中ゾーンとなっている。

 湾岸エリアにタワマンがつくり始められたのは20世紀の終わり。初期のタワマンが集中的につくられたのは中央区の月島や勝どき。隣接する江東区の豊洲と東雲(しののめ)だ。その後も多くのタワマンが建設されたため、豊洲1丁目から6丁目には現在約15棟のタワマンがある。さらに、隣接する東雲や中央区の月島、晴海までを見渡せば、タワマンに囲まれた場所の印象がある。

 その結果、本来、眺望が広がるはずのタワマンなのだが、バルコニーに出ると、別のタワマンがいくつも見える、という状況が生まれている。

 その点、足立区ではどうだろう。タワマンの数、そして超高層建築物(高さ60メートルを超える建物)の数が少なく、眺望が大きく開ける住戸が多くなる。

 「見晴らしのよさ」が、足立区のタワマンが備える第一の利点となる。湾岸エリアに住んでいると、この見晴らしのよさが大きな魅力になるわけだ。

2つめの理由は「ラッシュ時の電車通勤が楽」

 足立区のタワマンが備える利点はそれだけではない。

 近年、豊洲や勝どきなど湾岸エリアの多くで人口が増加。そのわりに電車路線が少ないため、朝のラッシュ時。電車に乗るのに苦労するという事態が生じている。電車に乗る前、ホームや駅の構内にたどり着くまで長い行列に並ぶことが常態化している。

 電車に乗れば、都心の大手町や銀座エリアまで近いのだが、その電車に乗るのが大変なのだ。さらに、電車の混雑もひどい。

 その点、足立区の北千住駅や綾瀬駅には大きな利点がある。複数路線を利用できるし、綾瀬駅では地下鉄千代田線の上り始発電車が出る、という利点だ。

 湾岸エリアと比べると、ラッシュ時の電車事情が穏やか。これは、湾岸で朝のラッシュにヘキエキとなっている人にとって、憧れの状況となる。それも、湾岸に住む人たちが足立区のタワマンに憧れる理由となる。

最後の理由は「手頃な価格で、伸びしろがある」

 以上2つの利点に加え、足立区のタワマンには、注目すべき長所がある。

 それは、「湾岸エリアより価格が抑えられている」こと。その点はご存じの方も多いだろう。

 綾瀬駅から徒歩1分の「シティタワー綾瀬」の場合、現在販売中住戸が7900万円から1億3500万円。2LDK、3LDKがこの価格なので、1億円前後で購入できる3LDKが多くなる水準だ。

 これは、湾岸の豊洲あたりでマイホームを中古で売却し、3000万円以上の利益を得た人にとって、頃合いの価格となる。

 豊洲でマイホームを売り、もう一度豊洲周辺で新築のタワマンを買おうとしても、現在の新築価格は高すぎる。しかし、足立区の綾瀬であれば、想定している予算内。しかも、綾瀬駅から徒歩1分で、まわりでは新しい街づくりの計画が進んでいる……将来の伸びしろも大きい。

 湾岸エリアでは、10年以上前に安く販売されていたタワマンを買い、それを売却したことで大きな利益を得た人が多い。儲けをもう一度、と夢が広がるわけだ。

 以上の理由で、足立区のタワマンが注目度を高めている。

 足立区は、東京23区内でも新築マンション価格の相場が低い場所として以前から知られていた。だから、「足立区のマンションは狙い目」とする意見は一般の人にも多かった。

 しかし、単に「安い」だけでは人の気持ちは動かない。

 「安い」ことに加え、「眺望のよさ」や「通勤が楽である」こと、「将来の値上がりが見込める」という要素が加わり、足立区のタワマンが注目度を上げはじめたのである。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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