新興国の台頭を撥ねつけベネズエラが「ビッグ4」の牙城を守り8回目の優勝【カリビアンシリーズ2024】
「セリエ・デル・カリベ」、マイアミに帰る
とにかく連日すごい熱気だ。決して満員というわけでもないのに、観衆の数に不相応なくらいの歓声が昨年のWBC決勝トーナメントの舞台となったマイアミ・ローンデポパークにこだまする。
中南米のプロ野球、ウィンターリーグの各国チャンピオンが覇を競うカリビアンシリーズ(セリエ・デル・カリベ)。1949年に始まったこの大会は、主催団体であるカリブプロ野球連合(CBPC)を構成するキューバ、パナマ、ベネズエラ、プエルトリコの4カ国・地域対抗のリーグチャンピオンシップとして開始され、紆余曲折を経ながらも今年で66回目となる大会が開催された。
キューバ革命の影響で9年の中断期間があり、その間パナマが離脱したが、ドミニカ共和国を加え、1970年に復活。1971年からはメキシコがCPBCに加入し、以後、長らくベネズエラ、プエルトリコ、ドミニカ、メキシコの4カ国体制が続いた。
開催地は基本的に各国持ち回りであったが、1990年とその翌年はヒスパニックと呼ばれるラテン系住民の多いマイアミで開催された。今年のシリーズは、実に32年ぶりにマイアミでの開催。開催地のローンデポパークは奇しくも1990年大会が行われたオレンジボウルの跡地に建設されたもので、同じ地にラテン野球の祭典が戻ってきたことになる。
著しい新興国の台頭
マイアミでのシリーズ開催に象徴されるように、ラテンアメリカ球界は常にアメリカの影響を受けてきた。北米トップリーグであるMLBの力が増せば増すほど、中南米プロ野球リーグの「マイナーリーグ化」は進み、ベネズエラ、プエルトリコ、ドミニカ、そしてメキシコの「ビッグ4」以外の国ではプロリーグは消滅と再興を繰り返すことになった。
そのような中、1990年代以降、コロンビア、ニカラグア、パナマでウィンターリーグが復活。カリビアンシリーズへの参加を目指すようになる。これら各国のリーグは、メキシコの独立系ウィンターリーグとともに2010年代にはラテンアメリカンシリーズなる国際大会を開催するようになった。
CPBC原加盟国のキューバは、社会主義革命後、国内トップリーグをプロと称することをやめていたが、2006年のWBCの開始をきっかけにプロ参加の国際大会への参加に前向きになり、加盟はしないものの、招待参加というかたちでの復帰を希求するようになった。2014年になってこれは実現し、国内リーグ前年シーズンの覇者、ナランハス・デ・ビジャクララがキューバ代表として実に54年ぶりにカリビアンシリーズの舞台に復帰。翌年にはバキュエロス・デ・ピナールデルリオが、キューバ勢としては55年ぶりの優勝を飾った。
しかし、キューバの参加は2019年大会までと昨年のみで、今大会でも、世界最大のキューバ人コミュニティ、リトル・ハバナを抱えるマイアミにキューバがやってくることはなかった。
キューバが継続的に参加した最後の大会となった2019年大会は、59年ぶりにパナマが復帰した大会でもあった。当初、開催が予定されていたベネズエラが国情不安のため、直前になって開催を返上。代替開催に手を挙げたパナマが復帰を果たし、参加国は6カ国を数えることとなった。
この大会で、パナマは69年ぶり2度目の優勝を飾るが、カリブチャンピオンとなったチーム、トロス・デ・エレーラは、この大会直前に行われたラテンアメリカンシリーズで決勝にすら進めなかった国内リーグの覇者とは全く違うチームだった。特別に認められた補強枠を使い、メンバーをほぼ総入れ替えしたロースターはメジャー経験者で占められていた。
翌2020年大会からはキューバに代わり、コロンビアが参加するようになったが、この大会ではパナマ、コロンビアの両国は「ビッグ4」相手に勝ち星をあげることができず、力の差を見せつけられた。それでも、この2年後にはコロンビアの名門、カイマネス・デ・バランキージャがついに優勝を果たす。
経済的事情から、今大会にはコロンビアは参加しないことになったが、昨年のWBC本戦に初出場を果たしたニカラグアと、今や世界の強豪に肩を並べつつあるオランダの海外領土で、この冬にプロリーグを発足させたキュラソーが参加し、7チームによる大きな大会にカリビアンシリーズは成長した。
今大会、メンバーのほとんどが「国内組」で、メジャーリーガーはおろか、マイナーリーグでプレーしている選手もほとんどいないニカラグアは総当たりの予選リーグ、「ラウンドロビン」で全敗という結果に終わったが、パナマとキュラソーが番狂わせを演じた。
ロースターの半分近くを昨年のWBCオランダ代表が占め、NPBのシーズンホームランレコードホルダーのウラジミール・バレンティン(元ヤクルト)にディディ・グレゴリウス、ジョナサン・スコープといったメジャーの第一線で活躍した経験のあるスター選手をそろえたキュラソーは3勝3敗でドミニカ、プエルトリコと並んだが、対戦成績により決勝トーナメントに進出。バレンティンが2ホーマーを放つなど、打線の強さが目立ったが、決勝進出をかけたラウンドロビン最終戦では、プエルトリコ打線を完封するなど、ディフェンス面の良さも見せつけた。
一方のパナマはまさに快進撃と言って良かった。こちらもメンバーのほとんどが現在フリーエージェント。アメリカでの開催とあってMLB球団のスカウトが目を光らせているとあっては、がぜんモチベーションが上がるのか、ロビンソン・カノを補強選手として追加し、連覇を目指すドミニカを破るなど破竹の勢いでラウンドロビンをベネズエラと並ぶ5勝1敗で通過した。
7チームによるラウンドロビンは「ビッグ4」のうちプエルトリコとメキシコが敗退するという下馬評を覆す結果となった。
ベネズエラ・チャンピオン、ラグアイラがドミニカ・チャンピオンに雪辱を果たして初優勝
準決勝はラウンドロビン1位のベネズエラと4位のキュラソー、2位のドミニカと3位のパナマの対戦となったが、ここは「ビッグ4」勢が意地を見せ、決勝に駒を進めた。
そして、9日間に及ぶ大会の最終日となった9日には、デーゲームで3位決定戦が、ナイトゲームで決勝が行われた。3位決定戦は序盤にリードを奪ったキュラソーを徐々に追い詰めたパナマが、7回にカージナルスに所属する4番イバン・エレーラのホームランで勝ち越し、そのまま逃げ切り3位となった。
中立国での開催となった今大会だが、中南米カリブ地域一帯からの移民の集まるマイアミという町は、興行的には最適の地かもしれない。国際大会にありがちな、開催国以外の試合のスタンドは閑古鳥という事態を回避できるからだ。とりわけ、ドミニカ、ベネズエラ戦ともなると、移民の多さもあり、スタンドは完全にホーム状態になった。決勝が両国の対戦となったのは興行的には大成功となった。
ひっそりと行われた3位決定戦が終わると、両国のユニフォームを身にまとったファンが続々と球場入りしてくる。普段のマーリンズの公式戦では閉鎖されていることも多い最上段スタンドも開放され、試合序盤には3万7000人収容のスタンドは大入りとなった。試合途中に発表された観客数は、シリーズ新記録となる3万6677人。昨年のWBC決勝のそれを上回った。
試合は、4回裏に元ヤクルトのアルシデス・エスコバーの犠牲フライでベネズエラが先制。5回にも2点を追加し、このリードを5人の投手リレーで完封し守りきったベネズエラが実に15年ぶりとなる優勝を飾った。
左派政権樹立以降、今世紀に入ってから長い経済低迷に伴い、「お家芸」の野球でも低迷が続き、2019−20年のシーズンには、アメリカのMLBとその傘下の選手の参加まで制限されるなど、辛酸を舐めてきたベネズエラ球界だが、昨年になって、首都カラカスにできた新球場を主会場にシリーズを開催し野球大国の存在感を改めて示した。しかし、このシリーズ、決勝に駒を進めながら、チームとして最多のカリビアンシリーズ制覇を成し遂げたドミニカの名門、ティグレス・デル・リセイの前に屈し、今年もまたこの舞台に登場したこの古豪をティブロネスが迎え撃かたちとなった。
優勝が決まった瞬間、スタンドはベネズエラコールが鳴り響く中、揺れた。
試合後、表彰式とセレモニーがあり、カリブ野球の祭典は幕を閉じた。
チーム単位とのいう建前で戦うこのシリーズだが、ポストシーズン以降に独特の補強選手制度のあるラテンアメリカでは、カリビアンシリーズの段階になると、各チームともその陣容はナショナルチームもどきになる。スタンドでは、今週開催のプレミア12を見据えて台湾の偵察チームの姿やキューバの指導者らしき人物を見かけた。早春の夜の夢も束の間、このシリーズが終わると、ペナントレース、それに世界野球への戦いはすでにはじまっている。
(写真は筆者撮影)