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高齢ドライバーのアクセル踏み間違い事故多発 免許更新時に試験導入を!

柳原三佳ノンフィクション作家・ジャーナリスト
アクセルとブレーキの踏み間違いは、高齢ドライバーの特徴的な事故と分析されています(ペイレスイメージズ/アフロ)

<アクセルとブレーキペダルの踏み間違い事故 高齢ドライバーに特徴的な事故の防止に向けて>

 そんな見出しのついた冊子が私のもとに届いたのは、つい先週のことでした。

 交通事故総合分析センターが定期的に発行している『イタルダインフォメーション』。毎回、交通事故をさまざまな角度から分析し、その結果を一般向けに分かりやすく公表してくれる興味深い媒体です。

 1ページ目には、【第1当事者が四輪車の年齢層別のペダル踏み間違い事故割合】というグラフ(下記)とともに、運転免許証を保有する高齢者(65歳以上)がこの10年で約2倍に増えたこと、また、アクセルとブレーキペダルの踏み間違い事故は、特に75歳以上のドライバーでその割合が高くなっていることが指摘されていました。

『イタルダインフォメーション No.124』(交通事故総合分析センター)より抜粋
『イタルダインフォメーション No.124』(交通事故総合分析センター)より抜粋

 さらに、高齢ドライバーによる踏み間違い事故は、一般交通の場所(高速道路等のサービスエリア、店舗の駐車場、コインパーキングエリア)で増加率が大きくなっており、駐車場所から発進するときや、バックするときの急発進によって大事故が起こっていることも明らかにされていました。

今週も高齢者による「アクセル踏み間違い事故」が多発

 この分析結果を読みながら、

「高齢ドライバーが運転する駐停車中のクルマに近づくときには、十分に注意しなければいけないな……」

 そんなことを考えていた矢先の2月18日、東京都内で発生した痛ましい事故のニュースが流れてきました。

 元東京地検特捜部長の石川達紘弁護士(78歳)が運転する車が、急発進して店舗に突っ込み、歩道を歩いていた37歳の男性が巻き込まれて死亡したというのです。

 同日の「朝日新聞」によると、

『石川さんは調べに対し「知人を乗せようと停車していたが、車が急発進した」と話しているという。同署は石川さんが誤ってアクセルを踏んだため、停車位置から約200メートル暴走し、慌ててハンドルを右に切って歩道に突っ込んだとみている』

 とのこと。

 まさに歩行者にとっては避けられない事故です。

 翌2月19日には、『<静岡・ビルに車>「踏み間違え」運転84歳女性ら3人軽傷』(毎日新聞)という見出しで、高齢ドライバーがビルに突っ込んだという記事が、また2月20日には、『赤磐児童死傷事故で70歳女起訴 運転処罰法違反罪で岡山地検』(山陽新聞)という記事が出ました。これは先月、岡山県で発生した集団下校中の児童が5人死傷したという多重事故の続報ですが、最初の事故を起こした70歳の女性ドライバーも、事故直後に「ブレーキとアクセルを踏み間違えた」と供述していたそうです。

アクセルペダルの踏み間違いは「股関節」の硬さも一因?

『イタルダインフォメーション』では、ペダル踏み間違い事故における高齢化の影響として、次の点を挙げています。 

 ・視覚機能の低下

 ・注意力、集中力の低下

 ・情報処理の遅れや誤り

 ・体が思うように動かない(動作の遅れや不正確さ)

 ・体の柔軟性の低下(関節が固くなり可動範囲が狭くなる)

 また、以下のような図とともに、高齢ドライバーが後方を目視しようと身体をひねった際に、股関節をあまり動かさない方法でペダル操作をしがちなため、ブレーキペダルを踏んだつもりがアクセルペダルを踏みこんでしまうことが考えられるというのです。

『イタルダインフォメーション No.124』(交通事故総合分析センター)より抜粋
『イタルダインフォメーション No.124』(交通事故総合分析センター)より抜粋

 加齢による身体機能の衰えについては個人差がありますので、各自が自身の身体の柔軟性などについてしっかりと確認しておくべきでしょう。

 ちなみに、私の母は今83歳。2年前に高齢者講習を受けて免許の更新をしました。

 現在はハンドルをほとんど握っていませんが、悪びれることなく、

「体が痛くて後ろを向けないからバックできないの。それにバックのときはハンドルをどっちに切ったらいいかわからないし……」

 と言います。

 それでも、ちゃんと免許証を所有しているのです。

「いったい、教習所でどんな高齢者講習を受けたの?」

 と聞いてみると、

「教官と一緒にコースをひと通り走ったけれど、バックでの駐車や縦列駐車のチェックはなかったわよ」

 そんな答えが返ってきました。

合格率数%、バイクの限定解除試験に12回落ち続けた私の体験

 私は20代の頃、大型二輪免許(限定解除)の試験を受けました。

 今でこそ、大型二輪は教習所でも取れるようになりましたが、当時、400ccを超えるバイクに乗るためには、「中型限定」を解除する超難関の試験を受けなければならなかったのです。

 限定解除試験に合格するため、仕事の合間を縫って必死で運転免許試験場に通いました。が、12回も実技試験に落ち続け、何度もあきらめかけながら、13回目にやっと合格。晴れてナナハンライダーとして公道を走れるようになったのです。

当時は女性が「限定解除」の試験に合格したというだけで雑誌に取り上げられるような時代でした(笑) 『別冊モーターサイクリスト』1988年9月号より
当時は女性が「限定解除」の試験に合格したというだけで雑誌に取り上げられるような時代でした(笑) 『別冊モーターサイクリスト』1988年9月号より

 夫などは高校時代に限定解除に挑戦したのですが、目に見える失敗もなくコースを完走しても、実技試験で19回落とされ、20回目にようやく合格したそうです。

 現在、彼は全ての種類の運転免許を取得しているのですが、「二輪の限定解除が一番難しかった」と振り返っています。

 きっと、途中で脱落した人もかなりいたでしょう。おそらく1980年代の限定解除試験合格率は数パーセントだったはずです。

 なぜ、これほど大型二輪の実技試験は厳しかったのか……? その背景には、若者によるバイク事故の増加がありました

 高性能な大排気量のバイクに、事故率の高い若者を簡単に乗せるわけにはいかなかったのでしょう。

高齢者の免許更新時にもう少し厳しい実技試験の導入を

 日々報道される交通事故のニュースを見ながら、私は、高齢ドライバーの免許更新時に、その昔、実際に存在した大型二輪の限定解除のような厳しい実技試験の導入もそろそろ検討されるべきではないかと思っています。

  一般公道でハンドルを握る以上、年齢や運転歴に対する斟酌は必要ありません。

 免許更新時に、試験に挑戦する意志を持ち、さらに課題をクリアできるあたりまえの運転技術と情報処理能力を持つ人だけが、その後も免許証を取得するという考え方です。

 懸命に働き、家族や世の中のために貢献してきた人生の締めくくりに、重大事故の加害者になるというのはあまりに悲しいことです。

 なにより、一瞬の避けられない事故によって人生を断ち切られたり、狂わされる被害者をこれ以上生んではいけない……。

 私自身にとっても、他人ごとではありません。自戒を込めてそう思うのです。

●イタルダインフォメーション<アクセルとブレーキペダルの踏み間違い事故 ~高齢ドライバーに特徴的な事故の防止に向けて>は、ネットでも読むことができます。

http://www.itarda.or.jp/itardainfomation/info124.pdf

ノンフィクション作家・ジャーナリスト

交通事故、冤罪、死因究明制度等をテーマに執筆。著書に「真冬の虹 コロナ禍の交通事故被害者たち」「開成をつくった男、佐野鼎」「コレラを防いだ男 関寛斉」「私は虐待していない 検証 揺さぶられっ子症候群」「コレラを防いだ男 関寛斎」「自動車保険の落とし穴」「柴犬マイちゃんへの手紙」「泥だらけのカルテ」「焼かれる前に語れ」「家族のもとへ、あなたを帰す」「交通事故被害者は二度泣かされる」「遺品 あなたを失った代わりに」「死因究明」「裁判官を信じるな」など多数。「巻子の言霊~愛と命を紡いだある夫婦の物語」はNHKで、「示談交渉人裏ファイル」はTBSでドラマ化。書道師範。趣味が高じて自宅に古民家を移築。

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