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Amazon Prime 米国では8万円超の価値? -特典を増やし続ける戦略-

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー

 米アマゾン・ドットコムは先ごろ、有料会員プログラム「Amazon Prime」の米国年会費を、約2割引き上げ、119ドル(1万3000円)にした。

 これにより、多くの既存会員が、Primeをやめてしまう可能性があると指摘する人もいる。しかし、米JPモルガンのアナリストによると、Primeは119ドルになっても、それをはるかに上回る価値があるのだという。

JPモルガンの試算、約6.6倍の価値

 JPモルガンのレポートは、「(Prime会員は)、その実質的な価格の、ほんの一部を支払っているにすぎないようだ」と報告している(米ビジネス・インサイダーの記事)。

 これは、アマゾンがPrime会員に提供している各種の特典と、アマゾンや他社が提供している同様の有料サービスとを比較し、Prime特典が本来ならば、どのくらいの料金で提供されるものかを試算したもの。

 JPモルガンは、前述した119ドルというPrimeの新料金に対し、実際は784ドル(8万7000円)と、6.6倍の価値があると、指摘している。

「Prime Music」だけでも年間60ドル相当

 例えば、会員向けの音楽聴き放題特典「Prime Music」を見てみる。

 アップルやグーグル、スポティファイなど他社の定額制音楽聴き放題サービスの米国における月額料金は9.99ドルだ。アマゾンも「Amazon Music Unlimited」という同様のサービスを、非Prime会員に月額9.99ドルで提供している。

 このAmazon Music Unlimitedの提供楽曲数は「数千万曲」。これに対し、Prime Musicの米国における楽曲数は「200万曲」。こうしたサービス内容の違いから、JPモルガンはPrime Musicを、月額4.99ドル相当のサービスと試算。これを年間ベースにすると約60ドルになる。

 前述したとおり、米国におけるPrimeの年間料金は119ドル。つまり、音楽聴き放題の特典だけで、その半分を占めるという計算だ。

 同様にして試算すると、最短1時間以内で商品が届く「Prime Now」は年間180ドル相当。通常の配送サービス(即日、翌日、2日便)は同125ドル相当。映画・テレビ番組が見放題になるストリーミングビデオサービス「Prime Video」は同120ドル相当。電子書籍のレンタルサービスは同108ドル相当。

 特典には、このほかにも、オーディオブックや、写真のクラウド保存サービスもあり、これらの料金を加えていくと、合計が、784ドルになるのだという。

2016年から240ドル相当拡大

 アマゾンは、昨年10月、不在時宅内配達サービス「Amazon Key」を始めた。先ごろは、顧客の乗用車の中に商品を配達する「Amazon Key In-Car」も始めると発表。

 このほか、傘下の高級スーパーマーケット「ホールフーズ・マーケット」の商品をPrime Nowで配達したり、店舗の商品を10%引きで販売したりしている。これらは、いずれもPrime会員限定のサービスだ。

 アマゾンはこうして特典を増やし続けているが、JPモルガンによると、Primeの価値は上昇の一途をたどっている。その2016年における金額は544ドルだったが、昨年は28%上昇し、697ドルになった。

 同社のジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)は今年4月、株主に宛てた書簡で、Primeの世界会員数が、1億人を超えたことを明らかにした。

 ビジネス・インサイダーのもう1つの記事は、アマゾンは、特典を増やし続けることで、会員がPrimeをやめづらい状況をつくっていると、伝えている。

(このコラムは「JBpress」2018年5月29日号に掲載した記事をもとに、その後の最新情報を加えて編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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