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米朝首脳「中身ゼロ」会談でもう決まりか。私たちは今後10年間キャッシュディスペンサーに!

山田順作家、ジャーナリスト
一銭も払わなくていい。日本と韓国が払ってくれる。(写真:ロイター/アフロ)

 トランプ大統領の自己満足だけの“茶番”で終わった「米朝首脳会談」(シンガポール・サミット)を受けて、13日午前に会見した、菅義偉官房長官は、なんと北朝鮮の「非核化」(denuclearization)の費用を日本が払う用意があると発言した。もちろん、非核化が進んで国際原子力機関(IAEA)の査察が行われることを前提としていたが、これを聞いて、まともな日本人なら悲しみにくれるほかないだろう。

 なぜなら、この発言は、トランプの前日の“衝撃発言”を受けてのものだったからだ。

 では、トランプはどう言ったのか?

 

 記者「北朝鮮に対する経済制裁が続くなかで、非核化にかかる費用についてはどう賄うのか金委員長と話したのですか?」

 トランプ大統領「韓国と日本が大いに助けてくれるだろう。だから、私たち(アメリカ)が助ける必要はない。アメリカはこれまでもいろいろなところでコストを負担してきたが、韓国は北朝鮮のほぼお隣さんだし、日本だってそうだ。彼らが北朝鮮を助け、寛容な対応をし、彼らを助けるうえで素晴らしい仕事を成し遂げるだろう」

 普通の日本人なら、これを聞いてひっくり返るが、日本のメディアはそうでもない。朝鮮半島に平和が訪れるというムードに酔っているばかりで、その水面下にある現実的な問題(つまりおカネの話)をしたがらない。

 しかし、平和実現には莫大なコストがかかる。そのコストを誰が負担するかは最重要な話だ。

 今回の米朝首脳会談ではっきりわかったのは、トランプが聞きしに勝る“いい加減”“自分勝手”男だということだ。カナダでG7をぶち壊し、シンガポールで東アジアの安全保障までぶち壊してしまったからだ。

 あれほど言っていた「CVID」(complete, verifiable, irreversible denuclearization:完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)なしに、北朝鮮に「体制保証」を与え、合意文書に署名してしまったのである。

 その合意文書で述べられている非核化は、たったこれだけである。

“Reaffirming the April 27, 2018 Panmunjom Declaration, the DPRK commits to work toward complete denuclearization of the Korean Peninsula.”(2018年4月27日の板門店宣言を再確認し、北朝鮮は朝鮮半島の完全非核化を目指す)

 つまり、具体性はゼロである。「CVID」のうちの「C」(complete)だけが「D」(denuclearization)に付いているだけだ。ところが、トランプは記者会見では、上記したように、これに具体性を与えて、費用は韓国と日本に支払わせると言ったのだ。これは、先日(6月7日)の安倍首相の訪米会談後の発言と同じである。つまり、発言がコロコロ変わるトランプだが、この点だけは変わっていない。しかも、あのときトランプは、費用負担に関してはすでに「(日韓に)準備しておいてくれと言っている」と述べていた。

 驚いたことに、トランプは記者会見の質疑で、金正恩を" a very talented man"(とても才能のある男)と言い、ホワイトハウスに絶対に(absolutely)招待するとまで言った。さらに、当面は経済制裁を続けるとは述べたが、記者から「北朝鮮の非核化が後戻りできない時点になるのはいつか?」と質問されると、「20%ほど進めば後戻りできなくなる」と答えたのだ。本当に目が点になるとは、このことだ。

 すると、次の米朝会談(もしあるとしたら)では、日本と韓国の費用負担(いくら払わせるか)が決まるのだろうか?

 というわけで、今後、日本人としての最大の関心事は、いったいいくら払わされるかだが、これは半端な額ではない。なぜなら、完全な非核化には10年以上もかかるとされ、それは核兵器、ミサイル、核施設などの解体費用のほかに、それにかかわった技術者たちの生活保障までしなければならないからだ。諸説があるが、昨年、米経済誌『フォーチュン』は、英ユーリゾンキャピタル研究所と共同分析した結果、今後10年間に2兆ドル(約200兆円)かかるとしている。となると、これを韓国と折半なら10年間で100兆円、1年間に10兆円である。

 また、昨年、香港メディアは北朝鮮が中国と極秘に核廃棄交渉をしているとし、その席で北朝鮮は今後10年間に、アメリカ、中国、日本、ロシア、韓国などの5カ国が無償で600億ドル(約6兆円)ずつ援助することを条件にしたと伝えている。とすると1カ国120億ドル(1兆2000億円)で、1年間1200億円である。ただし、これは援助であって非核化費用ではない。

 いずれにせよ、こんな莫大な費用を、なぜ隣国だというだけの理由で負担しなければならないのか? 核とミサイル開発は国際的な取り決めを無視して、北朝鮮が勝手にやったことであり、それを解体するなら、自分たち自身でやるのが当然ではなかろうか。

 また、日本と北朝鮮の間には拉致問題もある。これも、もし解決して国交正常化となれば、戦前に迷惑をかけたという理由(戦時賠償金ではない)で、莫大な“解決金”を支払うことになっている。

 安倍首相は、拉致問題に関しては常に安倍内閣の最重要課題として、解決のために努力していくことを強調している。そのため、今回の米朝会談でも議題としてトランプに取り上げてもらうように懇願した。そして、前日の会見では「この問題はトランプ氏の強力な支援をいただきながら、日本が北朝鮮と直接向き合い、解決していかなければならないと決意している」と強調し、日朝首脳会談への意欲を改めて示した。

 つまり、一刻も早く安倍首相は金正恩に会いたいようなのだが、会ったらカネの話になるのは間違いないだろう。

 話を先の安倍首相の訪米会談に戻すが、このときの記者会見でトランプは、「日本は今後、武器をもっと買ってくれるだろう」と述べている。この発言を記事にしたメディアはほとんどなかったが、これは重要なことだ。なぜなら日本はすでに、アメリカから陸上配備型迎撃ミサイルシステムの「イージス・アショア」、戦闘機の「F35A」、無人偵察機「グローバルホークなどの購入を決め、それを実施してきているからだ。その結果、防衛費は年々増加し、2018年度予算では前年度比660億円増の5兆1911億円に膨れ上がっている。

 北朝鮮・中国の脅威のためにアメリカに武器代を支払い、その一方で具体性のない北朝鮮の非核化のためにその費用を支払う。こんな馬鹿げた話はない。

 最後にもう一つ。

 トランプはカナダでのG7をぶち壊したあげく、自動車輸入関税の導入まで示唆した。もし、これが実施されれば、ドイツとともに日本は大きな被害を被る。すでに、日本は中国と同列に扱われ、鉄鋼・アルミ関税をかけられて十分に苦しんでいる。そのうえ、自動車輸入関税となったら、日本経済はガタガタになりかねない。

 米朝首脳会談は歴史的な出来事であり、トランプというのはこれまでの歴史からは考えられないアメリカ大統領なのは間違いない。なにしろ、同盟国と敵国の区別がついていないのだ。

 私たちは来年、消費税10%時代を迎えることになっている。8%の消費税が2%上がるわけだが、それによって増える税収は4〜5兆円とされている。消費税2%アップで、家庭負担(年収500万円家庭)は、6〜7万円増になると試算されている。

  これらのおカネは、北朝鮮の非核化、アメリカからの武器購入、制裁関税などにより、すべて吹っ飛ぶばかりか、まだまだ足りないのは間違いない。結局、私たちはあと10年間は、キャッシュディスペンサーになりそうである。

 いったい、私たち日本人はなんのために働き、この国にまじめに納税しているのだろうか?

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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