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妊娠中に寿司や刺身は食べて良い? 注意点は? 産婦人科医による解説

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:アフロ)

妊娠すると、ホルモンや身体の変化が起こり、普段の食事にも気を遣うようになります。

今回は、日本で好きな人も多い「寿司」や「刺身」について、妊娠中に食べても良いのかどうか、科学的な視点やエビデンスを交えて解説します。

妊娠中の生理的変化とは

まず、妊娠すると生じる基本的な生理的変化をおさらいしましょう。

妊娠すると、女性の身体には赤ちゃんを育むために多くの変化が起こります。ホルモン分泌の変動により、胃や乳房、腰などに違和感や軽い痛みを感じたり、気分が不安定になったりすることがあります。

また、「つわり」は多くの妊婦さんに生じるもので、吐き気や嘔吐、食欲不振に悩まされます。主に妊娠初期に生じ、妊娠16週頃までに自然に治まることが多いです。

加えて、感覚の変化によって、妊娠前に好きだった味や香りが苦手になったり、感覚過敏でストレスを感じやすくなったりすることがあります。

妊娠中に注意すべき感染症

妊娠中は感染症に対する抵抗力が弱まりやすいと考えられています。加えて、「胃腸炎や急性感染症などになった際に使用できる薬が限られている」という点も重要です。さらに、「胎児への悪影響がある感染症」には最も注意を払わなければなりません。

したがって、食材の衛生管理や調理方法には十分に気をつけましょう。

以下に、代表的な「食事を介して感染し、胎児にも影響を及ぼしうる感染症」を紹介します。

1. リステリア

リステリアは様々な食品の中で見つかる可能性があります。リステリア菌に汚染された食品を食べることで感染するリスクがありますが、健康な成人が感染しても多くの場合に重い症状は出ません。

感染すると、初期に倦怠感や軽い発熱が出ることがあります。稀ですが、重症化すると髄膜炎や敗血症(全身に菌が回って臓器障害を起こす状態)となることもあります。

リステリア菌による感染症は、妊娠中の女性や胎児にとって危険性が高く、リステリア感染が重症化してしまうリスクが一般成人の数十倍ともいわれています。流産や早産の原因となることがあり、感染すると約2割で流産・死産、新生児死亡などの結果を迎えてしまいます。無事に出産できた場合にも、新生児リステリア症によって重症化してしまう可能性があります。(文献1)

2. トキソプラズマ

トキソプラズマは原虫という寄生虫の一種で、ヒト・牛・豚・馬・鶏など多くの動物に感染・生息しています。病原体が感染した肉を食べることで、人間も感染します。生焼けの肉や生ハム、非加熱処理のレバー・パテなどは感染のリスクがあります。

妊娠前6ヶ月〜妊娠中の女性が感染すると、先天性トキソプラズマ症という生まれつきの疾患を引き起こすリスクがあり、赤ちゃんが脳症や頭蓋内石灰化、網脈絡膜炎など重い障害を抱えてしまう危険性もあります。(文献2)

妊娠中に寿司や刺身を食べて良いの?

寿司や刺身に使われる魚は、妊娠中の栄養補給にとって有益なオメガ-3脂肪酸やタンパク質を豊富に含んでいます。

しかし、すべての寿司や刺身が安全だというわけではありません。特に、生魚には寄生虫や細菌などの病原体が潜んでいる場合があり、食材の新鮮さや衛生状態によって感染症のリスクがかなり高まる可能性があります。

そのため「妊娠中は加熱調理済みの寿司だけにする」がベターと言えるでしょう。

新鮮で、完璧に衛生状態の問題がない生魚であれば寿司や刺身でも摂取して問題ないと(理論上は)考えられますが、現実的にそれを確かめることは困難ですよね。

なお、米国産婦人科学会(ACOG)の解説ページでは以下のように記載されています。(文献3)

妊娠中は生魚や加熱が不十分な魚は避けるべきですが、多くの種類の魚は十分に加熱すれば食べても安全です。寿司や刺身を含む生魚は、完全に加熱調理された魚よりも寄生虫や細菌が含まれている可能性が高いのです。

なお、魚を摂取する上で「水銀」にも注意が必要です。

例えば、メバチマグロ、マカジキ、ミナミマグロ、金目鯛、メカジキなど、ある種の魚に多く含まれている水銀は多量に摂取すると赤ちゃんの先天異常の原因になると言われていますので、食べ過ぎには注意しましょう。

妊娠中に注意するべき他の食事や栄養素

妊娠中は、栄養バランスが整った食事を摂ることが重要です。妊娠前からバランスのとれた食事が大切であることは言うまでもないですが、妊娠中、特に意識して摂るべき栄養素があります。

例えば、葉酸、鉄、カルシウム、ビタミンD、コリン、オメガ-3脂肪酸、ビタミンB群、ビタミンCなどです。これらは、妊婦さんや赤ちゃんにとって、身体の大事な素材になったり、赤ちゃんの脳の発達などにとても重要なものです。

また、カフェインやアルコールは控えるべきです。これらは胎児に影響を及ぼす可能性があります。ただ、カフェインは許容範囲が示されており、200mg〜300mg/日(レギュラーコーヒーで3〜4杯程度)であれば問題は通常生じないとされています。

詳しくは、以下の記事も参考になさってください。

妊娠中の食事で積極的にとりたい栄養素や食材を解説 サプリメントからとってもいいの?

参考文献

1) ACOG. FAQ. Listeria and Pregnancy.

2) 産婦人科オンラインジャーナル. 食べ物からお腹の赤ちゃんにうつる感染症(1)トキソプラズマ.

3) ACOG. FAQ. Can I eat sushi while I'm pregnant?

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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