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妊娠中の食事で積極的にとりたい栄養素や食材を解説 サプリメントからとってもいいの?

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:アフロ)

「適切なカロリーと栄養素を摂ること」は、生まれてくる赤ちゃんのために、お母さんがしてあげられる重要なことの一つです。

なぜなら、食事は、健やかな妊娠生活を送るためだけでなく、赤ちゃんの器官形成・脳や身体の成長のためにとても重要だからです。

また、適切なカロリー摂取は、お母さんの肥満や痩せを防止することで、妊娠糖尿病・妊娠高血圧症候群などの妊娠合併症の発症や分娩時の合併症を予防したり、赤ちゃんの将来の代謝疾患を予防したりします。

妊婦さんに必要なカロリーや栄養素は、妊娠週数によって多少異なる部分もありますので、どんなことを心がけたら良いのか詳しく見ていきましょう。

必要なカロリー摂取量は?どのくらい体重が増えていけばいいの?

妊婦さんは、妊娠週数が進むと、妊娠前の必要推定カロリー摂取量に加えて、さらにカロリーを摂取する必要があります

厚生労働省によると、各妊娠時期で必要とされるカロリー付加量は、

・妊娠初期(〜妊娠13週6日) +50kcal

・妊娠中期(妊娠14週0日〜27週6日) +250kcal

・妊娠後期(妊娠28週0日〜) +450kcal

が推奨されています。(文献1)

また、アメリカの関連学会によると、双子の場合は600kcalの付加量が必要とされています。(文献2)

摂取カロリーの増やし方は、ヨーグルト・フルーツ・コーンフレーク・チーズなど良質な食事を間食(朝食と昼食の間・昼食と夕食の間)として摂取することが一つの良い方法でしょう。(文献3)

妊婦さんに必要な栄養素は?

妊娠前からバランスのとれた食事が大切であることは言うまでもないですが、妊娠中、特に意識して摂るべき栄養素があります。

例えば、葉酸、鉄、カルシウム、ビタミンD、コリン、オメガ-3脂肪酸、ビタミンB群、ビタミンCなどです。これらは、妊婦さんや赤ちゃんにとって、身体の大事な素材になったり、赤ちゃんの脳の発達などにとても重要なものです。

色鮮やかな野菜・果物、赤身の肉や全粒粉の穀物は栄養が多く、積極的に取り入れる一方で、脂肪や糖分の多い加工食品はなるべく控えるようにしましょう。

また、トキソプラズマなどの感染予防対策としても、生肉を避けることや野菜・果物をしっかり洗うことは重要です。

以下の表で、妊娠中に必要な栄養素の目安を確認しましょう。

画像制作:Yahoo!ニュース
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(文献1,2,4を参考に日本の状況を踏まえて著者作成)

逆に摂らないほうがよい食事ってあるの?

妊娠すると、摂取したほうが良い栄養素がある一方で、栄養素の面で避けたほうがよい食材もあります。

例えば、メバチマグロ、マカジキ、ミナミマグロ、金目鯛、メカジキなど、ある種の魚に多く含まれている水銀は多量に摂取すると赤ちゃんの先天異常の原因になると言われています。

しかし、日本人にとって、全く魚を食べないのもストレスですよね。厚生労働省の「妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項」などを参考に、安全な食事を楽しみましょう。(文献2,5)

栄養素はサプリメントからとってもいいの?

まず「サプリメントとは何か」について知る必要があります。

サプリメントとは、例えば米国では、栄養補助食品健康教育法(DSHEA)で定められた以下の条件を満たすようなものになります。(文献6)

・食事の補助目的であるもの

・一つまたは複数の栄養成分を含んでいるもの(ビタミン・ミネラル・ハーブ・食物由来成分・アミノ酸・その他の成分)やそれらの構成物質であること

・錠剤・カプセル・タブレット・ドリンクとして口から摂取するもの

・商品の前面に栄養補助食品としての記載があるもの

通常、食べ物や薬の安全性は、米国の食品医薬品局(FDA)による厳しい審査のもとで管理されています。

しかし、市販のサプリメントはFDAの監視が行き届かず、サプリメントによる有害事象の報告も義務化されていないため、しばしばサプリメントによる健康被害が起こってしまいます

日本では、日本健康食品規格協会(JIHFS)が品質と一定の安全性を確認したサプリメントにGMP(Good Manufacturing Practice)マークがつけられていますが、これは「妊婦さんが摂取しても健康面で問題ない」と保証する意味ではありません。(文献7)

サプリメントに含まれるハーブやビタミンの成分には、妊婦さんが避けるべきものも含まれている可能性があり、有効性や安全性の保証はされていないのです。

従って、妊婦さんが市販のサプリメントを自己判断で使用することはお勧めできません。

妊娠前〜妊娠初期にかけての葉酸の摂取にはサプリメントも便利

しかし、妊娠中にサプリメントで摂取することも推奨されている成分もあります。

それが葉酸です。

一般的に、葉酸は、妊娠の1ヶ月前から妊娠12週まで1日400μg摂取することが勧められています。

これは、赤ちゃんの二分脊椎という生まれつきの病気のリスクを下げられるためですが、通常の食事だけでは葉酸摂取量は不足しがちのため、サプリメントによる摂取が推奨されているのです。

なお、妊娠中に飲むサプリメントは、かかりつけの産婦人科医など、専門家に安全かどうか確認してから使用するほうが良いでしょう。

妊娠中にお母さんが食べるものは、赤ちゃんの成長・発達に様々な影響を与えます。

神経質になりすぎるのも良くないですが、「どんな食事を摂ったら赤ちゃんが喜ぶかな...」と普段から考えられるような習慣があると良いかもしれませんね。

参考文献:

1. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2020 年版)

2. ACOG. FAQ. Nutrition During Pregnancy

3. CDC. TRACKING YOUR WEIGHT For Women Who Begin Pregnancy with Obesity.

4. US Preventive Services Task Force, et al. JAMA. 2017 Jan 10;317(2):183-189.

5. 厚生労働省. 魚介類に含まれる水銀について.

6. NIH. Dietary Supplements During Pregnancy.

7. 日本健康食品規格協会(JIHFS).

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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