100年前から2度以上も高くなった平均気温 10年ぶりに平年値が新しくなります
手元に、東京天文台が編集した理科年表(※)の復刻版があります。大正十四年(1925)発行・初版本となっていますが、この中に当時の”平均気温”が掲載されています。その頃は「平年」という概念が無かったようで、気温の表題は「本邦各地ノ平均気温」となっています。何年間を平均したのか記載がありませんが、当時の気温は現在と比べて、驚くほど低くなっています。
例えば東京の場合、1月の月平均気温は3.1度で、最低気温の平均は氷点下1.3度でした。現在より2度以上も低く、真冬の場合は最低気温が0度を超える日の方が少なかったのです。一方、8月の最低気温の平均は22.1度で、熱帯夜などほとんどありませんでした。温暖化や都市気候の影響を受けて、この100年間はものすごい勢いで気象が変わってきているのです。
こうした気象の変化を感じ取るのに重要なのが「平年値」です。そしてその「平年値」が、5月19日から10年ぶりに変わります。一般の人にとっては、たいしたことではないように思えますが、気象の世界では大きな出来事です。さらに今回の変更を、気象関係者はいつも以上に注目をしていました。なぜなら近年の極端な気温上昇や集中豪雨の増加が、どのような数字となって現れるのか、大変興味深いからです。
平年値とは
そもそも、平年値とはいったい何を基準にしているのでしょう。
天気予報で「あすは4月並の陽気~」とか「平年よりかなり暑くなるでしょう。」といったコメントをよく耳にすると思いますが、これは、過去30年間の観測データの平均を「平年値」として、日々の予想や結果と比べているのです。ただ、毎年変更するわけにはいきません。気象はその年ごとに揺らぎがあるため、10年に一度ごとに統計を見直します。それが、末尾が~1年になった年(202“1”年)で、その前年までの30年間をもとに算出するというわけです。そして、今回の平年値は2030年まで使われることになります。
これまでの平年値
前述したように今年、5月18日まで使っている平年値は、1981年から2010年までのデータです。つまり、2011年から昨年までの10年間のデータは平年値の中に入っていません。
そこで上の図を見てください。これは夏(6月~8月)の東京における平均気温の推移です。これを見るとわかるように、2000年以降、平年を大きく上回る年が常態化していました。その理由は、1980年代の(気温の低い)10年間が加味されていたためです。このため、毎年のように夏は「平年よりかなり高くて猛暑に~」と言われてきました。我々気象関係者からすると、平年値のルールとはいえ、ここ数年感じていた感覚とは異なる表現を使わざるを得ず、違和感を覚えていました。
それが、5月19日から1990年以降を計算した結果を使うことになります(梅雨入りなど一部すでに新平年値が使用されています)。やっとここ数年の体感に沿うようになるのですが、果たしてどのくらい数値が高くなるのか、気象に携わる者が今回の平年値の変更に注目していた理由がここにあります。
猛暑が平年並みに?
そして5月19日からは、東京の平均気温は上図のように変わることになります。これを見ると、3月と7月の平年値の新旧差が0.7と最も大きくなっています。ここから読み取れることは、春が短くなり季節の進みが早くなっていること、そして夏の厳しい暑さの期間が長くなっていると言えるでしょう。また、表にはありませんが、真夏日(日最高気温30度以上の日)の年間日数は46.4日→51.2日、熱帯夜(日最低気温25度以上の日)に至っては11.3日→17.8日とそれぞれ約6日も増加しています。
日本の気温は百年単位で見ると上昇傾向にありますが、ここ数十年の急激な気温変化は、温暖化の影響が大きいといって間違いないと考えられています。
上記は東京の一例ですが、全国ベースでみても気温や雨の降り方に変化がでています。(参照 気象庁発表 新平年値の特徴について)これまで「今年の夏は猛暑」とか「冬は暖冬」といった表現がされていましたが、今後はそれが当たり前になり、将来は少々気温が高いくらいでは”平年並み”といったコメントになるのかもしれません。異常が異常ではなくなる、そんな時代になりつつあるような気がします。
参考資料
『理科年表 大正14年[復刻版]』(1988年発行) 東京天文台編集 丸善出版株式会社発行
※理科年表とは暦や天文、気象、物理、など自然科学に関するデータブックです。