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B2中地区首位に浮上した茨城 変わり種指揮官が語るチーム変貌の理由

大島和人スポーツライター
写真=B.LEAGUE

首位FE名古屋に2連勝

茨城ロボッツの急浮上は率直に言って驚きだ。前半戦の30試合を終えた時点で14勝16敗だったチームが、現在32勝21敗。4月14日、15日のホーム戦ではファイティングイーグルス名古屋に連勝し、中地区首位に浮上している。

3月17日の青森ワッツ戦からは11連勝が続いている。補強があったわけでないから、純粋にチームの力が上向いているのだろう。

茨城は2017-18シーズンのB1ライセンスも取得しており、別の昇格条件である「3月末までのホーム戦観客数が平均1500名以上」もクリア済み。残り7試合で中地区首位に留まれればB2プレーオフの出場権を獲得し、B2の「2強」に入れればB1自動昇格が決まる。つまり「自力」のB1昇格が視野に入ってきた。

指揮を執るのは岡村憲司スーパーバイジングコーチ(SVC/監督)だ。ライセンスの関係でヘッドコーチは岩下桂太氏が務めているが、16-17シーズンの半ばからは岡村監督が指揮を執っている。44歳の彼は選手兼任で、15日のFE名古屋戦も約7分間コートに立った。29歳で当時の所属チームから契約を切られ、そこから10年以上も営業マン生活を送った末に、長いブランクから復活した変わり種でもある。

厳つい体格にスキンヘッドの風貌とは裏腹に、岡村監督は人当たりの良さ、聞き手の気持ちをそらさない話術の持ち主だ。選手や会社員として様々な「修羅場」を踏んだんだろうな…というハラの座り方を感じる人物でもある。

彼は3月31日の仙台戦後に話を聞いたとき、躍進の理由をこう説明していた。

「序盤から大きく変えた点は特にない。平尾充庸と高橋祐二と眞庭城聖がしっかり軸になってきた」

「言い過ぎず、言わなさ過ぎず」

ポイントガード平尾はB2奈良バンビシャスから、シューティングガード高橋は山形ワイバンズからの新加入だ。岡村監督は彼らの意識改革を強調する。

「平尾、高橋はあまりシュートを打ってなかったり、アシストも無かったり、当たり障りの無いプレーをずっとしていた。でも後半戦に入ったら彼らはコートで発言するし、練習でも同じように発言をしてくれる。試合で点数に絡むためにどう動かなければいけないかとか、彼らが考えて行動してくれるようになった。それが前半戦との一番の違いです」

ただ選手が自発的に「考えて行動する」ように習慣づけることは容易でない。そのプロセスには時間もかかる。岡村監督はこう説く。

「言われたことをただやるだけ――。プロでもそういう選手は多いです。『言い過ぎず、言わなさ過ぎず』が大切です。コーチが全部言うとやるけれど、結局自分でできなくなる。自分で気づいてやることが、自分でできるようになる方法だと思います。いかに気づきを与えて、自分で気づいてもらってやらせるかが大切です」

茨城はコートサイドで自ら熱狂的な応援を送る堀義人オーナー、山谷拓志社長と強烈な“2トップ”を擁している。岡村監督はこんなことも口にする。

「前半戦に勝てなかった時、上からのプレッシャーは凄かったですよ。でも俺はそんなすぐは結果を出せないと思った。ポンと勝ったチームはポンって弱くなるんです。すごく我慢して下地作りをやって、ようやく結果に結びついて本当に良かった。ただこんな早く結果が出るとは思わなかった」

4月15日に茨城がFE名古屋を下した首位攻防戦の大一番では、平尾が28得点5アシスト、高橋が20得点7アシストを記録。彼らが完全な「主役」になった。

岡村監督はこう説明する。「今までで一番積極的だったし、確率も一番良かったと思いますが、それは気持ちだと思います。自分はシュートに関して絶対(打つなと)言わないようにしています。とにかく『ノーマークなら打ちなさい』『打つのが仕事』だと言っている。高橋も平尾も打ち続けた結果、徐々に率が上がってきている。そうやって前向きにプレーしてくれることが一番です」

新主将の眞庭が31歳で大ブレイク

今季からチームの主将になり、B2では日本人最多となる得点数を記録しているのが193センチのシューター眞庭城聖。15日のFE名古屋戦では流れの悪かった第1クォーターに3ポイントシュートを3本連続で成功し、流れを引きもどす貢献を見せた。まもなく32歳になる彼が、ベテランに差し掛かる年になって大ブレイクを果たしている。

岡村監督は眞庭の台頭についてこう語る。

「眞庭は去年から一緒にやっていますが、好不調の波があってミスも多かった。すぐに引っ込んだり、相手によってスタートで使ったり使わなかったりという感じでした。でも自分が監督をやるようになったとき、軸を決めないとチームは強くならないと思った」

岡村は腹を据えて眞庭をチームの中心に据え、基礎から彼を鍛え直した。

「最初は自分がウエイトトレーニング、体幹を強制的にやらせたんです。体幹が強くなって、眞庭はシュートがめちゃくちゃ安定しています。彼はもっとやらなければいけないと気づいて、一人でやるようになった」

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写真提供:茨城ロボッツ

彼はこう続ける。

「眞庭をエースに仕立てるために、そういうタイプじゃないけれど敢えて(今季から)キャプテンに指名した。多くは語らないし、俺の理想とするキャプテンとしては程遠いかもしれないですが、彼は大きく変わりました。31歳でキャリアハイを取る選手ってなかなかいないと思うんです。眞庭に関しては『俺がうまく育てたな』って(笑)」

眞庭もこう述べる。

「僕がクールにやるタイプだったのを、岡村さんに火をつけてもらったところから始まりました。アドバイスを色々してくれますし、体幹や筋トレも含めて細かい部分も指導してくれる。岡村さんが監督になってからプレータイムもかなり伸びています。僕がここまで成長できているのが岡村さんのおかげなのは間違いない」

外国籍のインサイドプレイヤーはシーズン当初からの茨城の強みだ。リック・リカートは211センチの長身とシュート力を兼備するチームの「稼ぎ頭」だが、35歳と年齢的な不安もある。

岡村監督は言う。

「リックはとにかく点を取ることに専念してもらいたい。外でもノーマークなら打っていいというのは伝えている。彼のキャリアの中で今年ほど3ポイントを打ったことは無いと思います。DFのことはあまり言いません」

「チュウ」の愛称とドレッドヘアで親しまれるチュクゥディエベレ・マドゥアバムは、驚異的な跳躍力を持つが、スキルはあまり高くない。岡村はチュウの活かし方についてこう述べる。

「彼は怒るとめちゃくちゃ頑張ります。特にDFは彼がいないと厳しい感じになってきました。リックは年齢的な部分があってちょっと戦えないところを、チュウがすごく戦ってくれる」

クラブが見せるコート内外の成長

クラブが存続の危機に陥ったのはつい3年半前のことだ。「つくばロボッツ」として活動していた2014年秋にはクラブの経営が行き詰まり、選手に対する給与不払い問題も起こった。山谷現社長が新法人を設立してチームを引き継いだが、14-15シーズンはわずか6勝。つくばカピオアリーナの観客数が200人台、300人台だった試合もざらにある。また15年9月にはつくば市の住民投票で総合運動公園の整備が否決される事態も起こり、チームはホームを水戸市に移してBリーグ初年度を迎えた。

しかしクラブはコート外も含めて着実に成長を果たしている。15日のFE名古屋戦はつくばに戻って開催された試合だったが、同会場では史上最多となる1604名の観客を集めた。昨季は平均1047名だった1試合の平均観客数が今季は1544名。16-17シーズンは1億7千万円ほどだった年間予算も、今季は3億円程度となる見込みだ。茨城県は2019年の国体開催地だが、それに合わせて水戸市内にB1規格の東町運動公園体育館が完成する。コートを取り巻く環境を含めて、B1で戦うだけの「足腰」ができつつある。

B2のレギュラーシーズンは残り7試合。中地区の首位争いは茨城とFE名古屋が32勝で並び、3位群馬クレインサンダースは30勝で迫るという激戦だ。しかも茨城は難敵との対戦を残している。ただこの成長と勢いを見ると、茨城が「最後の山」も乗り越えそうな予感もある。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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