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令和に突如現れた『禁酒令』への大いなる違和感

山路力也フードジャーナリスト
日常となりつつある「緊急事態」(写真:アフロ)

酒を出す店には休業要請する実質上の「禁酒令」

 もはや「緊急事態」が日常になりつつある。4月25日より3度目の「緊急事態宣言」が発出された。対象は東京、大阪、京都、兵庫の4都府県。東京で前回の緊急事態宣言が解除されたのは3月21日のこと。そして今月12日からは「まん延防止等重点措置」が適用されていた。そんな中での「緊急事態宣言」に緊急性を感じないのは私だけではないだろう。

 今回の緊急事態宣言で、政府は大型連休に合わせて短期間に集中的な対策を講じる方針で、酒やカラオケを提供する飲食店などには休業を要請し、酒を提供しない飲食店には20時までの時間短縮営業を要請する。「遅い時間に飲食店で酒を飲む」ことを制限することが、感染拡大防止に効果的であるという判断なのだろう。確かに20時以降となれば酒量も増えており、開放的な気分になって感染拡大防止の意識が低くなる可能性は非常に高い。

 新型コロナウイルスの感染拡大防止に対して、内閣官房は「ポイントをおさえた会食」のスタイルを提言している。これは先に公表されている「感染リスクが高まる『5つの場面』」に沿ったものであり、このこと自体に異を唱えるつもりは毛頭ない。換気が良く、距離も確保出来、深酒をせず、大声を出さず、最大4人までで過ごす。この点に気をつけて会食することで、感染リスクを減らすことが出来るということは、昨年提言された「新しい生活様式」の時から何も変わっていない。私たち客側が出来ること、すべきことはシンプルなのだ(参考資料:内閣官房特設サイト)。

コロナ前のように振る舞う客たち

春先はあちらこちらで宴会の光景が見られた
春先はあちらこちらで宴会の光景が見られた写真:アフロ

 仕事柄、日々飲食店に足を運ぶ生活を今も続けているが、平気で向かい合わせで大声を出しながら喋っていたり、お酒の回し飲みや料理の回し食いをし、まるでコロナが収束したかのような振る舞いをしている人も少なくない。昨年春と今を比べると明らかに今の方が緊張感に欠けた客が多いと感じている。

 特に前回の緊急事態宣言が明けた後の、都内の飲食店での光景は酷いものが多かった。時節柄、歓送迎会のタイミングでもあり、結婚式などのお祝い事などもあったのだろう。十数人の大所帯での会食というよりも、いわゆる「飲み会」を行っているケースに何度か遭遇した。よく若者に危機感がないなどと言われるが、私が出会ったケースでは若者だけではなく、年齢層の高い人たちも見られた。これではいくら飲食店が感染対策をしていても全く意味をなさない。

店側だけでなく客側にも要請を

 本来ならば店側がこういうグループ客の予約は拒否すべきだと思うが、売り上げが少ない今は喉から手が出るほど欲しいであろうし、また客商売である以上、飲食店が来店を制限したり大声を出している客を注意するのもなかなか難しい。ならば行政が主導して、「5人以上の団体客を入れている店には協力金を出さない」などの、実質的な「5人以上の会食不可」の状況を作り出し、声高にアナウンスすべきだ。そうすれば飲食店は行政を「悪者」に出来、グループ客の受け入れを堂々と拒否することが出来る。

 ニュースなどでは飲食店への制限や要請ばかりがフォーカスされ、感染拡大を防ぐために私たち国民がどう過ごすべきかについての言及が弱いと感じざるを得ない。酒を飲み大声を出して回し食いをするならば、昼だろうが夜だろうが感染リスクは上がるのは当然のことで、逆に言えば、しっかりと前述したポイントをおさえて会食すれば、深夜であっても感染リスクは低くなる。この当たり前のことを客の一人一人が認識出来ていないから、時間で区切ったり酒を出さないというルールになってしまうのだろう。

飲食店だけでなく小売店にも制限を

飲食店の閉店後は街角や公園で飲む人が後を絶たない
飲食店の閉店後は街角や公園で飲む人が後を絶たない写真:つのだよしお/アフロ

 さらに、飲食店に対して酒の販売休止や営業時間短縮を要請するのであれば、コンビニやスーパーなどの小売店に対しても同様の要請をすべきである。もちろん家庭で飲むための購入もあるだろうから、飲食店への時短要請と同様に「緊急事態宣言」「まん延防止等重点措置」が出されている自治体にある小売店や自動販売機に対しては、酒類の販売を20時までとすべきではないか。

 時短営業になった飲食店を追い出された客たちの多くは、そのままコンビニなどに向かい酒とつまみを買い、近所の公園や駅前、あるいはコンビニの前などで立ち飲みをして酒宴を続けている。これでは何のための時短営業、酒類販売休止なのかということになる。個人的には私たち一人一人が高い意識を持って自制すれば良いと思っているが、それが出来ないから「緊急事態宣言」なりが発出され、飲食店に対して営業時間や酒類販売の制限が要請されているのだと理解している。ならば、小売店に対しても同様にしなければ万全にはならないと思うのだ。

 行政もマスコミも、飲食店に対して要請をするのであれば、同様に私たち客側に対してもメッセージを強く打ち出して欲しいと願う。いくら飲食店が努力したところで、客の立ち振る舞い一つで水泡に帰す。飲食店が時短営業や休業に応じる理由、願いは「感染拡大防止」であるのだから。その取り組みが万全になるように私たち一人一人が真剣に考えて行動しなければならない。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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