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中国要人発言の誤報相次ぐ 朝日新聞、王毅外相「三者協議提案」を訂正

楊井人文弁護士
3月18日、北京で会談をしたティラーソン国務長官と王毅外相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

朝日新聞は3月19日付朝刊1面で「対北朝鮮 米中が応酬/中国、3者協議を提案」と見出しをつけた記事を掲載した。その中で、中国の王毅外相が訪中したティラーソン米国務長官と北京で会談し、共同記者会見で北朝鮮の核問題を話し合う「3者協議」の開催を提案したと報じたが、そのような提案がなされた事実はなかった。

朝日新聞2017年3月20日付朝刊第2社会面
朝日新聞2017年3月20日付朝刊第2社会面

同紙は、見出しとともに該当部分を削除するとの訂正記事を20日付朝刊に掲載した。過去の経緯について王氏が説明した内容を、新たに提案したものと記者が誤解したという。

米国務省で公表された米中共同会見記録(英文)によれば、王氏は「米側の要請に基づき3者協議を促し、設立に至ったが、その後、6者協議に拡大した」などと述べていた。(*1)

米中朝の3者協議は2003年ごろに行われ、当時中国側の代表は王氏だった。その後、韓国、日本、ロシアを加えた6者協議の枠組みができたが、2008年を最後に開催されていない

記事は当初、ティラーソン氏が共同会見で、北朝鮮核問題に関して「20年以上、北朝鮮の脅威を抑止する試みは成功しなかった」などと指摘したことを紹介したうえで、王氏の発言を次のように報じていた。

これに対し、王氏は北朝鮮の核問題を話し合う「3者協議」の開催を提案。「3者」は米中朝の3カ国を指すとみられる。「朝米接触を促す条件をつくり出す」ためとし、その後に日韓ロを含む従来の6者協議に拡大する考えだ。その上で「平和的な努力を諦めてはならない」とし、米軍が北朝鮮の関連施設を先制攻撃する「軍事手段」も検討する米側の動きに釘を刺した。

出典:朝日新聞2017年3月19日付朝刊1面「対北朝鮮 米中が応酬/中国、3者協議を提案」

李首相発言 「携帯データ通信料を年内に廃止」の見出しも誤報

朝日新聞は3月5日、デジタル版で「『携帯データ通信料を年内に廃止』全人代で異例宣言」との見出しで記事を配信したYahoo!でも配信)。これは、全国人民代表大会(全人代)での李克強首相の政府活動報告について報じたものだったが、「携帯データ通信料を年内に廃止する」という発言はしていなかった。実際に李首相が述べたのは、「国内の携帯電話長距離料金とローミング料金を廃止する」(中国語原文:年内全部取消手机国内長途和漫游費)だった。

当初、Facebookに配信された朝日新聞デジタルの見出し
当初、Facebookに配信された朝日新聞デジタルの見出し

中国では、電話番号を都市地区ごとに登録する制度となっており、登録地区以外の場所で電話を使うと1分あたり0.6元の「漫游費」(ローミング料金)が発生するという。「データ通信料」は一般にインターネット通信で発生する料金を意味し、中国語では「上网流量費」と呼ばれるため、電話料金の一種である「漫游費(ローミング料)」とは異なる。(*2)

李首相の同じ発言を報じていた毎日新聞は、「携帯料金の一部廃止」という見出しで、李首相の発言を「携帯電話の国内長距離通話料、(省をまたぐ)ローミング料金を年内にすべて廃止する」と訳しており、問題なかった。

朝日新聞は、すでにデジタル版の見出しを「携帯データ通信料を年内に廃止」から「携帯料金の一部を年内に廃止」に[ttps://twitter.com/asahi/status/838374053203206144 上書き修正した]が、訂正記事は出していない。本文では、李首相の発言が「携帯電話料金とデータ通信料のうち、省などをまたぐ長距離の上乗せ料金を年内に廃止する」と引用されたままになっている。

日本報道検証機構は3月8日に朝日新聞社に指摘したが、24日現在、「事実関係を調査している」(同社広報担当者)と説明している。近く訂正が出る可能性がある。

(*1) 米国務省が公表した王毅外相の発言記録。

Upon the request of the U.S. side, China has worked to facilitate and secure the establishment of the Three-Party Talks, which was expanded to become the Six-Party Talks later on. In fact, all these efforts were geared to create the conditions and provide support to the engagement and the discussions between the D.P.R.K. and the United States.

出典:米国務省:米中共同記者会見での発言記録(2017年3月18日)

(*2) 以下の記事などを参照。

弁護士

慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHoo運営(2019年解散)。2017年からファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年『ファクトチェックとは何か』出版(共著、尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。2022年、衆議院憲法審査会に参考人として出席。2023年、Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット賞受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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