もはや継続試合導入しかない! ノーゲーム続きの夏の甲子園
雨に泣かされ続ける夏の甲子園は、またもノーゲームが発生した。2試合目である。19日には、天候回復後、ノーゲームのあとの試合を、順序を入れ替えて開催するという前代未聞の「裏技」まで発動した。異例続きで致し方ないが、懸命に投げた投手は、記録が抹消されるのに、「球数制限」にはカウントされるという骨折り損で、これはもう不公平以外の何ものでもない。
近江の本塁打も幻に
この日は朝8時の開始前には小康状態だったが、近江(滋賀)が1-0と日大東北(福島)をリードして迎えた5回裏、突然の激しい雨であっという間にグラウンドがプールのようになり、中断に入った。近江が2死満塁で3番打者の攻撃。フルカウントという、勝敗を左右しかねない1球の前での大雨だった。結局2時間22分の中断のあと、ノーゲームが宣告された。近江の1点は、1番・井口遥希(3年)の本塁打によるものだったが、これは幻となる。
試合順を入れ替えて開催
驚いたのはこのあとだ。第2試合の西日本短大付(福岡)と二松学舎大付(東東京)を順延し、天候の回復を期待して、午後3時から第3試合と第4試合を開催するという発表があった。本来なら、第1試合が不成立の場合は、残り試合もすべて中止で順延される。今大会は一般客の入場がないためにできた特別措置で、東西の東京大会では採用されているらしい。つまり、中断時間が長く、選手の健康状態に影響を及ぼすということで、試合は再開せず、ノーゲームとする。第2試合に登場する両校は、室内練習場での待機時間が長すぎるため、この日の試合開催を見送り、負担の軽かったチームが戦う2試合をはめ込んだ次第。実際、この日は夏にしてはかなり肌寒く、びしょ濡れになった選手たちに負担がかかっていたことは確かだろう。
1回戦が終わっていないのに2回戦
間の悪いことに、近江と日大東北は1回戦最後の試合で、2回戦の方が先に行われるという異例の事態。また、この試合の勝者と対戦する大阪桐蔭は2日前に試合を終えていて、それだけでもかなりのアドバンテージがある。振り返れば、宮崎商の出場辞退で、2日前に智弁和歌山が1試合もせず3回戦進出を決めていた。もうこれは、コロナと長雨のダブルパンチで発生した異例中の異例な現象で、おそらく今回限りになるだろう。ノーゲームやコールドゲームが計3試合もあることなど、きわめて稀である。ただし、これによって大きな問題が顕在化してきた。
ノーゲームでも球数はリセットされない矛盾
それは一人の投手が一週間に500球以内という「球数制限」との兼ね合いである。ノーゲームは、記録が全て抹消され、リセットしての再試合となる。近江の井口の本塁打も、選手たちの甲子園での安打も消える。消えないのは、「球数制限」にカウントされる投手の球数だけだ。近江の山田陽翔(2年)の63球と、日大東北の吉田達也(3年)の94球はきっちり加算される。試合をしたことにならないが、投げたことにはなるという大きな矛盾が生じるのだ。
当該校の不公平感が顕著に
これは、球数制限を導入する際、セットで考えるべきであった。ここ数年の間に、選手(特に投手)の健康を守るという観点から、「タイブレーク」を導入して再試合をなくし、一人の投手の負担を軽減するということで「球数制限」を導入した。これ自体は時代の流れに合っているのだが、ルールの導入が性急すぎて、現実にそぐわなくなっている。はからずも今回、2試合がノーゲーム。しかも、うち1試合が最も日程的負担の大きい対戦に当てはまったので、客観的に見てもかなりの不公平感がある。
「継続試合」の導入に含み
これを解消するには、サスペンデッド(一時停止試合=日を改めて続きを行う)しかない。高校野球では、一般的なサスペンデッド、つまり今回のような天候不良による一時停止試合は採用しないことになっている。高校野球のルールとしては「継続試合」で、これはセンバツ主将トークでコンビを組む毎日新聞運動部の安田光高記者に、ルールブックを見せてもらって説明を受けた。また、この日の会見で、日本高野連の小倉好正事務局長(63)からも、「継続試合と呼んでいる」との発言があった。実際、運営側が手をこまねいていたわけではなく、昨年も導入に向けた議論があったようで、「選手権が終わってから検討したい」と小倉事務局長も、今後の導入に含みを持たせた。
延長なら1回で終わる可能性も
導入に今一つ前向きでなかった理由を、筆者も高野連の竹中雅彦・前事務局長(故人)に質したことがある。それは「タイブレーク」導入前のことで、今回のような天候不良を念頭に置いたものではない。「翌日、16回から再開(当時は15回までで引き分け→再試合)はできないものか」と尋ねた。竹中氏は、「そうすれば、極端な話、1回で終わってしまうかもしれない。1回のために試合するのは…」という返答だった。言われてみればその通りで、例えば甲子園の決勝でそうした事態になれば、ベンチに入っても試合には出られない(前日に途中交代していれば当たり前である)。応援団やファンも詰めかける。でも試合は10分ほどで終わってしまう。これではあまりにもあっけない。
球数制限ある以上避けて通れず
ただ、こうしたいわば興行優先の観点に立っての議論は、「選手ファースト」の時流にはそぐわない。異例ずくめの今大会は、実質7試合(ノーゲーム含む)戦わないと決勝進出できないチームが発生した一方で、4勝で優勝のできるチーム(智弁和歌山)も存在する不公平な大会になってしまった。これは今大会限りだろうが、継続試合導入は球数制限が存在する以上、避けて通れない。特に地方大会を一人のエースに頼るような公立校にとって、「継続試合」導入は大きな救いとなるはずだ。高校野球は甲子園だけではない。待ったなしと考える。