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「平野歩夢は審判の見る目と空気を変えた」大逆転劇の“絶叫”解説が話題の韓国俳優を直撃!

金明昱スポーツライター
スノーボード男子ハーフパイプで金メダルを獲得した平野歩夢(写真:アフロスポーツ)

 北京五輪のスノーボード男子ハーフパイプで金メダルを獲得した平野歩夢。彼の圧巻の滑りを韓国から絶叫しながら解説していたのが、俳優のパク・チェミン氏だ。

 今大会にはKBS解説委員に加わり、ハーフパイプの解説を担当。平野の3回目の滑走で「マジマッ!(最後) マジマッ!(最後) フォーティーン」、金メダルが確定した瞬間には「ワー! トゥディオー! トゥディオー!(ついにー! ついにー!)」と叫んでいた。

 自国選手を応援するような解説ぶりが、日本のSNS上でも拡散されて話題になっていた。

【参照】「平野歩夢の圧巻の滑りに「マジマッ!マジマッ!」スノボ人気薄の韓国で解説者が絶叫したワケ《なぜかソウル大卒の俳優が解説》」

 彼の本職は俳優(ドラマ「王女の男」、「朝鮮ガンマン」など)。元スノーボード選手で、4年前の平昌五輪でもスノーボード解説を務めていた。

 それだけでも驚きだが、国立のソウル大学校卒で、国際スキー連盟(FIS)スノーボード国際審判、韓国3×3バスケットボール連盟理事、2026年パリ五輪で正式種目となったブレイキン(ブレイクダンス)国際審判の資格など数々の肩書きを持つ。

 平野の金メダルを韓国の視聴者に“絶叫”解説で伝えた背景や魅力などについて聞いた。

「自国選手でなくてもしっかり伝えることが大切」

――平野歩夢選手が金メダルを獲得した3回目の滑走を叫びながら解説する映像が、日本ではツイッターを通して拡散されました。

 私の解説を日本でも見てくれている人がいるのはとてもうれしいですね。平野歩夢選手の滑走を見ながら、人間は限界を超えていけるんだと、美しい姿を見ることができましたし、金メダルは本当に自分のことのようにうれしかったです。

――普段から“絶叫”解説をするのでしょうか?

 そうですね(笑)。私が解説中に興奮せずにいられないのは、五輪のために4年間を費やしてきた選手の努力が自分のことのように映像からも伝わるからです。(平野)歩夢選手は、一度、肝臓を負傷する大けがをしながらも、その技術を習得するために一生懸命やってきました。事前に色々と調べていると、その選手に親近感が湧いてくるんです。私は彼に会ったことはありませんが、自分の親友が試合に出ているように感じるのです。感情移入するので、そこは興奮します。私も元スノーボード選手だったので、首の骨や親指を折ったり、脱臼した経験もあるので、歩夢選手がどれだけ難しく、勇気のいるチャレンジだったのかが痛いほどわかりますから。

――母国選手だけではなく、どの選手にも熱い解説をされているのですね。

 韓国でスノーボード中継をするから、他国の選手は適当でいいとは思いません。それは私が思い描いている解説の方向性ではないんです。たとえ、韓国の選手でなくても、日本の歩夢選手が金メダルを取ったことを心から祝い、彼の凄さを解説して伝えることで、スノーボードという種目がもっと盛り上がるだろうし、楽しく見えると思っています。私の解説がきっかけで、スノーボードに関心を持つようになってくれるのであれば、それ以上に嬉しいことはありません。

韓国KBSの中継でスノーボード解説を務めたパク・チェミン氏。平野歩夢の金メダルに感動しきりだった(写真・本人提供)
韓国KBSの中継でスノーボード解説を務めたパク・チェミン氏。平野歩夢の金メダルに感動しきりだった(写真・本人提供)

「審判の見る目と空気を変えた大技だった」

――平野選手の魅力はどこにあると感じますか?

 歩夢選手の好きなところは、昔、自身のインスタグラムに平昌五輪で銀メダルを獲得したあと、アメリカのショーン・ホワイト選手へメッセージを書いたんですね。「もう一度勝負しよう」と。目標とする相手、ライバルでもある相手にストレートにそう言葉で伝える姿がとてもカッコいいと思いました。ソチ五輪と平昌五輪で銀メダル、北京五輪で悲願の金メダルとなりましたが、限界を克服してく姿に感銘を覚えます。

――スノーボードの国際審判資格をお持ちですが、その立場からみて、平野選手の決勝2本目の91.75点はどのように見ていますか?

 そこで感じたことは2つあります。私も映像からですが「なぜこんなに低いのだろう。もう少し高い点が入ってもよかった」とは思いました。私がテレビ画面で中継を見るのと現場で審判が見るのとでは、見え方が明らかに違う部分があります。現場で直接滑りを見るほうが『高さ』をしっかりと確認できます。国際審判の資格者として、審判の意見を尊重するならば、私が見られなかった部分が点数に影響したのかもしれません。もう一つは、それでも歩夢選手は次に必ず大技を成功させて、越えて来るだろうと思っていました。

――実際に3本目の滑走で大技をすべて成功させた平野選手ですが、どのように見ていましたか?

 3本目の滑りができるのは、正直、世界で歩夢選手しかいません。何度も言いますが、人間の限界を超越しています。危険を顧みない滑走で、ものすごい高さのあるジャンプでしたから。彼が克服すべき相手は、ライバルとなる選手に勝つこともそうですが、もう一つは審判の“見る目”を変えることも戦いでした。歩夢選手は誰もできない構成と大技をすべて出し切って、審判の見る目やその場の空気を180度変えてしまったわけです。だからこそ彼をリスペクトするのです。

2004年からスノーボード選手としても活動し、昨年現役を退いた(写真・本人提供)
2004年からスノーボード選手としても活動し、昨年現役を退いた(写真・本人提供)

「国際審判の資格取得は趣味」

――韓国でのスノーボード人気はどの程度なのでしょうか?

 スノーボードに対する韓国国民の関心はそこまで高くありません。スノーボードは日本と比べて、市場規模がものすごく小さい。実際に選手も少ないですから話題になることもほとんどありません。

――それにしても本職の俳優業のかたわら、スノーボード選手としての活動やいくつもの国際・国内審判資格をお持ちです。経歴のスゴさに驚きです。

 私は友人とお酒を飲みに行ったり、友達と会ったりあまりしないので、時間が足りないことはありません(笑)。みなさんが趣味に時間を費やすように、私もその時間を使うなら、より専門的にやってみようと思いました。俳優業や実際にスノーボード選手として活動したのもそうですし、国際審判の資格取得や解説など、すべての趣味が仕事につながっているので、とにかく毎日がとても楽しいし充実しています。

パリ五輪新種目「ブレイキン」で日本は金メダル候補

――2026年パリ五輪でも解説をする予定があると聞きました。

 私はプロのブレイクダンサーとしての活動もたくさんしてきたのですが、今は大韓ダンススポーツ連盟の理事で、ブレイキン(ブレイクダンス)の国際・国内審判の資格も取得しました。パリ五輪で正式種目となったブレイキンで解説ができればうれしいです。しかも、この種目で日本が金メダルの可能性が高いんですよ。

――そんなに日本は強いのですね。4年後の五輪が楽しみです。

 日本でもブレイキンで五輪出場を目指す選手たちに注目してみてください。その他の強豪国はフランス、ロシア、アメリカ、カナダ、私の母国・韓国もメダル争いに加わってくることでしょう。もし決勝戦で日本と韓国が当たれば、解説しても面白いなと思います。もちろんその時も熱い解説しますよ!

――最後に日本のスノーボードファンや五輪を見ている日本の方たちにメッセージをお願いします。

 全世界の全ての国が同じように競争相手ですが、日韓はお互いに密接な影響を与え合うパートナーでもあると思います。日本にいるスノーボードファン、または選手たちも韓国でスノーボードを楽しむ機会があればいいなと思います。韓国では平昌五輪のスノーボード・パラレル大回転で銀メダルを獲得したイ・サンホ選手が有名ですが、私が歩夢選手を応援するように、韓国にも目を向けてもらえるとうれしいです。スポーツを通じて、日本と韓国はもっと距離が縮まると思っています。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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