『がっこうぐらし!』で、街と学校での「ゾンビ化」はどんなふうに進行したのか?
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。
『がっこうぐらし!』というアニメをご存じですか?
舞台は巡ヶ丘(めぐりがおか)学院高校で、主人公は3年生のゆき。彼女は学校が大好きで、くるみ、りーさん、みーくんといっしょに「学園生活部」を作って、学校で合宿している。
アニメの第1話では、学園生活部で飼っている「太郎丸」という子犬が逃げちゃったので、授業を抜け出して校内を捜し回り……というワチャワチャした学校生活が延々と描かれる。そして20分ほど経過し、筆者が「このアニメを見続けるの、ちょっとツラいなー」と思い始めた頃、ゆきがクラスメートたちと談笑している場面で、いきなり画面のトーンが変わった!
それまで友達と話していたはずのゆきの周囲には誰もいない!
教室の机や椅子が倒れている!
カーテンは引き裂かれている!
窓ガラスはめちゃくちゃに割れ、しかも血飛沫の跡が……!
明るく楽しい学園生活は、ゆきの妄想だったのだ。
本当の校舎は荒廃しまくり。校庭には部活に励んでいる人々がいるように見えたが、それはゾンビになってしまった人たちで、彼らは獲物を探して彷徨っている。
巡ヶ丘学院高校で、生きているのは学園生活部の4人だけ!
彼女たち以外は、全員がゾンビ!
生き残った4人は、ゾンビが侵入してこないように、校舎を徹底的に封鎖して、閉ざされた空間で生活している。
だからこその「がっこうぐらし」だったのだ。うっぎゃ~~~~~~~~~~~~~~っ。
このアニメを初めて見たとき、筆者は本当に驚いた。
実は心温まるエピソードがいっぱい詰まった、とてもいい作品なのだが、かなり怖いのも確かである。
なぜこんな状況になったのか、これから彼女たちはどうするのか。第2話以降ではそれが語られていき、第12話でひととおりのエンディングを迎えるのだが、ネタバレを書いてしまうと面白味が半減するので、本稿ではテーマを一つに絞って考察したい。
それは、巡ヶ丘の街と学校で、ゾンビ化がどのように進行していったのかという問題だ。
◆街の人が総ゾンビ化する時間
その日は突然来た。
朝の玉突き事故に始まり、街では大規模な交通事故や乱闘事件が発生して、電車も止まってしまう。そして夕方には、街も学校もゾンビだらけになっていた……!
劇中、ゾンビという言葉は出てこない。しかし、アニメの描写を見ると、明らかにゾンビである。
さすが死んでいるだけに、ゾンビたちはいろいろ機能不全を起こしているようで、1体1体はそれほど脅威ではない。
それでも、生きた人間を見ると、唸り声を上げながら襲いかかってくる。
そして、ゾンビに噛まれると、自分もゾンビになってしまう。これが恐怖だ!
1体のゾンビが1人に噛みつくと、ゾンビは2体になる。
その2体がそれぞれ1人を噛むと4体になる。
その4体がそれぞれ1人を襲って8体に、さらに16体に、32体に……とゾンビは倍増していく。
ゾンビの恐ろしさは、この「倍々」という増え方で、これによって短時間でゾンビだらけになる。
ゆきたちが暮らす巡ヶ丘市の人口を10万人と仮定して、市民全員がゾンビになる過程を考えてみよう。
最初の1体が1人に噛みつくのを「1段階」とすれば、前述の32体になるのが5段階め。それ以降のゾンビ数を記すと、こうなる。
6段階……64人
7段階……128人
8段階……256人
9段階……512人
10段階……1024人
11段階……2048人
12段階……4096人
13段階……8192人
14段階……1万6384人
15段階……3万2768人
16段階……6万5536人
続く17段階では、13万1072人と、人口10万人を超えてしまうから、この時点で市民の総ゾンビ化は完了することになる。
そして、1段階に要する時間(噛まれてゾンビになってから、別の人に噛みつくまでの時間)を10分とするなら、総ゾンビ化まで、たったの170分=2時間50分しかかからない!
◆学校のゾンビ化はさらに怖い
ここまでは、巡ヶ丘市の状況である。では、ゆきたちの高校はどうなのか?
学校は外との出入りがない「閉鎖空間」だ。
しかも、街より人数も少ない。
それゆえ全員ゾンビ化は街よりも速い気がするが、実はそうではない。
ゾンビが増えると、非ゾンビ人口が減ってきて、噛んでもゾンビが増えないケースが出てくる(ゾンビは「共噛み」もする)からだ。
巡ヶ丘学院高校の生徒と教職員の数が千人だったと仮定しよう。
その場合、巡ヶ丘市が完全ゾンビ化した「17段階」の時点では、学校内でゾンビになってしまった者は993人。
なんと、ゾンビ化を免れた人間が7人も残っている!
そして、以降はこうなる。
18段階……996人(残された人間は4人)
19段階……998人(残された人間は2人)
20段階……999人(残された人間は1人)
なんとなんと、20段階の時点でも、たった1人だけゾンビ化を免れている!
でも、その最後の1人にとってみれば、自分以外は全員ゾンビ!
しかも学校のまわりの街は、もっと早い段階で全員ゾンビになっている!
むえ~っ、オソロシすぎる状況だ~っ。
しかし、アニメにおいて彼女たちに待ち受けているのは、必ずしも絶望だけではなかった。
こんな状況下でも、4人はできるだけ楽しく学校生活を送ろうとするのだ。
その様子がとても温かくて、ヒジョ~に怖いのに、最後まで見ずにはいられない『がっこうぐらし!』である。
まだ見ていない方がいらっしゃったら、ぜひ見てください。怖いけど、いい作品ですよ~。