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菅義偉政権初の国政選挙である衆参補欠選挙と参院再選挙いよいよ告示。計3議席の行方は?

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
当選無効となった参院広島選挙区の河井案里氏(写真:Motoo Naka/アフロ)

 計3議席の投開票は4月25日。告示は参議院が4月8日、衆議院が13日。帰すうは任期満了(10月21日)を目前とし、今秋までに必ず行われる衆議院議員総選挙の解散日程や結果にも大きな影響を与えそうです。

「3勝」を狙う野党と「1勝1敗1不戦敗」でお茶を濁したい自民

 補欠選挙は現職辞任にともなう衆院北海道2区と現職死去に基づく参院長野選挙区。再選挙は19年参院選挙の当選者が無効となった参院広島選挙区で行われます。

衆院北海道2区は収賄罪で在宅起訴された自民党議員(当選時)が辞職したのを受けての事態。自民党は議員の欠けた理由が悪すぎ、かつ非自民勢力も強い選挙区であるのを勘案し惨敗を恐れてか公認・推薦候補を出さず不戦敗を決め込みました。

 野党のうち立憲民主、日本共産、国民民主、社民の4党は統一候補として松木謙公氏(立憲所属)を擁立。松木候補は選挙区がある札幌市出身で衆院4期を務めた元職。前回総選挙では次点で落選しています。

参院長野選挙区は現職の羽田雄一郎議員(立憲所属。当選5回)が昨年死去したのに伴う選挙です。弟の羽田次郎候補を立憲が公認し、共産・社民らが支援する形で擁立。自民は雄一郎氏と前回争って次点(改選議席1)で落選した小松裕元衆院議員(当選2回)を立てたのです。

参院広島選挙区は昨年当選した自民党(当選当時)の河井案里氏が公職選挙法違反(買収)で有罪判決が確定したため当選自体が無効となり「やり直し」です。自民は経済産業省官僚出身の西田英範氏(公明推薦)を、立憲はフリーアナウンサーの宮口治子氏(国民・社民推薦、共産支持)をそれぞれ擁立。新人同士の争いになります。

 自民としては勝ち目なしと踏んだ北海道2区はスルー。長野は頑張るけど元々立憲の議席だから善戦すればよしとし、基礎票で野党を大きく上回る広島の勝利に全力を挙げ政権へのダメージを最小限に食い止めたい意向です。

 野党第1党の立憲は北海道を万が一でも落とさず、長野は「弔い合戦」で必勝。自民所属であった議員の不祥事に端を発する広島でも批判票を取り込んで「3連勝」を遂げれば来る総選挙へ弾みがつくと意気込んでいます。

「必勝」の広島で公明とがたつく自民

 というわけで3選挙は「守る自民、攻める立憲」の構図ですが子細に検討すると次の総選挙にも影響し兼ねないほころびも見いだせます。

 まず自民から。いくら不祥事由来とはいえ政権与党が小選挙区で不戦敗は情けないという不満が地元を中心に渦巻いています。「どうせ今年中に総選挙があるから、そこで奪還すればいい」という声も「甘い」と。対立候補の松木氏は経験豊富で知名度もあり、いったん「現職」となれば総選挙でも優位に立つと警戒しているのです。

 また本当は自民で出たかったという無所属候補が複数出馬。勝利すればひょうたんからコマで万々歳としても現実は厳しい。仮に善戦したら総選挙での公認争いと微妙に関係しそうです。

 広島は一部に「あえて自民が再選挙に持ち込んだ」とうわさされるほど必勝前提の戦いとなります。19年の参院選で自民は改選議席2の独占を狙って2人を公認。合わせた票は当選した野党統一候補の森本真治氏の1.7倍にも及びます。買収批判で目減りしたとしても勝ちきれるという算段の根拠ですが、誤算もちらほら。

 1つは公職選挙法違反で裁判中で議員辞職した河井克行被告(当選時自民所属)の選挙区である衆院広島3区に連立与党の公明党が斉藤鉄夫副代表を擁立すると発表した件。自公で一応合意したものの地元では「自民の議席なのに何で出さないのか」(自民)、「自民公認では戦えない」(公明)と与党内でザワザワ。高じると再選挙の票数にも影響しそう。

 もう1つは立憲が本気を出してきた点です。先述の通り広島選挙区で非自民が2議席独占する体力はなく仮に今回宮口候補が勝てば次期通常選挙で森本・宮口両氏のいずれかが落選する可能性大。そうした選挙に野党は力が入るまいとの読みがありました。

 あにはからんや。森本議員はすべて承知の上で自ら宮口擁立の先陣を切ったのです。潔さに賞賛の声もわき情勢は混沌としてきたのです。

相変わらず「野党統一」「共産嫌い」でゴタゴタする野党統一

 一方の立憲は相も変わらず支持母体の「連合」(日本労働組合総連合会)と共産党との板挟みに悩んでいます。キーワードは立憲の綱領にある「原発ゼロ社会を一日も早く実現します」の文言。共産も「ゼロ」に賛同。ところが連合内の電力総連(電力会社)、電機連合(電機メーカー)、自動車総連(自動車や部品メーカー)などがかねてから反対しており長野選挙区では羽田候補側が共産などとの政策協定で「原発ゼロ社会をめざす」を掲げたのに反発しました。

 立民の枝野幸男立憲代表が神津里季生連合会長に「長野県連の軽率な行動」と陳謝しましたが反対勢力の労組内議員を抱える国民民主党は羽田候補への推薦を取り消したのです(7日に再推薦)。

 構成員の性質上、異論を唱えた労働組合の気持ちはわからないでもありません。しかし党首が謝らなければならないほどでしょうか。背景に連合合流(1989年)以前の総評vs同盟および中立労連の主導権争いや共産への嫌悪感が横たわっているのは明らかです。

 でも、いったいいつの昔話かというレベル。労組内の好き嫌い感覚など多くの国民にはどうでもいい半面、その「どうでもいい」でゴタゴタする立憲に嫌気する有権者は多くいるだろうからマイナスにしかなりません。連合に依存していれば選挙に勝てるというなら話は別ですけど「大企業正社員を守る会」と白眼視されている向きすら大いにあり、そもそも連合組合員の約2割が自民支持、無党派層が36%となっているのが連合自身の調査(2019年)でわかっていて頼りない。

 対して「選挙に勝つ=票」と割り切れば共産票は公明票とともに雨が降っても槍が降っても投票に行く固定票です。しかも自党候補を出さず応援してくれるわけで。本当のライバルたる自民を利する「コップのなかの嵐」の茶番をみせられては有権者はしらけてしまいます。

 北海道選挙区も簡単に「不戦勝」となるか。注目は日本維新の会が立てた山崎泉候補。バックに同党所属で道内に一定の影響力を保つ鈴木宗男氏がついているからです。行き場を失っている自民支持票が流れ込めば思わぬ波乱も起きかねません。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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