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日本茶マニアが大注目!宇治「売茶中村」でしか体験できない揉みたての煎茶の魅力と新茶の特徴を学ぶ

日本茶ナビゲーター Tomoko日本茶インストラクター
宇治の平等院近くにお店を構える「売茶中村」の中村栄志さん。

京都、宇治と言えばその歴史と知名度で国内外でも有名な茶どころ。

宇治では茶摘みの最盛期の5月中旬。

煎茶についての研修先として訪問したのは、今、日本茶マニア達が大注目しているお店「売茶(ばいさ)中村」です。

お茶の老舗が多い宇治で2年半前の2022年10月にオープンした新しいお店。

初めてこちらのお店の存在を知ったとき、えっ?お茶でこんなことできるんだ!ととてもとても驚きました。

若い感性と革新的なアイディアで他には無い唯一無二のお店

今回は研修内容を含めて、お店の魅力もレポートします。

※抹茶についての研修レポートは一つ前の記事をご覧ください。

こちらの研修は日本茶・抹茶をテーマとしたカフェブランド「ナナズグリーンティー」さんの社内研修に他の取材の方と同行させていただきました。

お茶の名産地宇治にある「売茶中村」

JR宇治駅や京阪宇治駅からもほど近い、観光名所の平等院や宇治橋からもすぐのところに「売茶中村」はあります。

お店のロゴは「一枚の生の茶の葉が揉まれて煎茶になりお茶をいれるとまた一枚の葉に戻るところ」をデザインしているのだそう。
お店のロゴは「一枚の生の茶の葉が揉まれて煎茶になりお茶をいれるとまた一枚の葉に戻るところ」をデザインしているのだそう。

一見、ちょっと通り過ぎてしまいそうな落ち着いた佇まい。

お蕎麦屋さん?

いえいえ、こちらが宇治でも新進気鋭、新たな取り組みをしていると話題の「小さな製茶場と喫茶を併設したお茶の専門店」なのです!

「売茶中村」のお店の入口
「売茶中村」のお店の入口

売茶中村は日本茶マニアにとっては全国的に見てもここだけの魅惑のお茶スポット!!

お店の中をのぞくと、一般の方にはなじみのない見慣れぬ機械が整然と並んでいます。

この日も既に製茶が始まっていました!

壁に書かれた「我逢人(がほうじん)」とは「出会いを大切にする」という意味の禅語だそう。左手前が焙炉(ほいろ)、奥の右側から中揉機(ちゅうじゅうき)、揉捻機、精揉機(せいじゅうき)と並んでいます。
壁に書かれた「我逢人(がほうじん)」とは「出会いを大切にする」という意味の禅語だそう。左手前が焙炉(ほいろ)、奥の右側から中揉機(ちゅうじゅうき)、揉捻機、精揉機(せいじゅうき)と並んでいます。

「わー!これが噂の(ミニ製茶場)!!やっとお店に来られたー!!!」

この道20年のお茶マニアの私も初めて見るミニ製茶ラインに大興奮。

実は昨年2月に旅行で宇治へ来たとき、お店の前を通るも定休日で、訪問することができなかったのです。

これまで売茶中村さんの茶葉は何度か購入して飲んだことがありますが、お店を訪問するのは初めてです!

ミニ製茶場の左手前に見える四角い台が焙炉(ほいろ)と呼ばれる作業台。

上には和紙が張られており下からガスなどの火で熱し、蒸した茶葉から煎茶を手揉みで作る際に使われます。

この日は機械での製茶の見学のため、手揉み茶は作っていませんでしたが、定期的に店内でワークショップを開いているそうです。

手揉み茶を見せていただきました。
手揉み茶を見せていただきました。

こちらが手揉みの煎茶。

茶葉が松葉のようにピンとまっすぐなのがわかります。

手揉み茶は大変な手間がかかるためとても希少で高価なものです。

現在では機械化が進み、手揉み茶は品評会に出品するために作ることがほとんどで、一般にはほぼ流通していません(流通していたとしても大変高価で貴重なものです)。

「売茶中村」が唯一無二な理由

普通の茶工場は大きな建物の中にトラック1台分はある機械がいくつも置かれ、1回につき100キロ、200キロのお茶の葉を加工します。

こちらでは特注で作った2キロサイズの超小型の機械を設置し、一度に仕上がる茶葉の量は最終的に400グラム程度になるとのこと。

随分と少ない量ですが、このサイズだからこそ微調整ができて小回りが利くのだそう。

一年中フレッシュな茶葉を煎茶に加工!

もう一つここにしかない革新的なところは、新茶の時期に蒸してすぐの状態で急速冷凍し保管した茶葉を、その都度小ロットで揉むところから煎茶を製造し、できたてを販売しているところです。

つまり、一年中新茶と同様のフレッシュな茶葉を小ロットで煎茶に加工することが可能なのです。

様々な試行錯誤の末たどり着いたのが超小型の製茶機。

このサイズでないと難しいことなのだとか。

他には真似できないアイディアと唯一無二の挑戦。

なかなかできることではありません。

売茶中村さんのインスタグラム(外部サイト)には営業日や製茶日のスケジュールが掲載されているので、製茶日に訪れると実際に製茶の様子が見られるそうですよ。

お茶の超小型製造ラインを順番に解説!

研修では中村栄志さんの解説付きで煎茶の製造について学びました。

茶葉を蒸すところまでは抹茶の原料となる碾茶(てんちゃ)も同じですが、煎茶の場合はその後揉みながら乾燥させていく工程に入ります。

5月上旬に神奈川県内の茶工場の様子を取材した記事があるので、こちらをご覧になると機械の大きさを比較できます。

1.粗揉(そじゅう)

熱風を送り込みながら葉を揉む工程です。

既にこの工程は終わっていたので、機械の内部も見せていただきました。

5月上旬に神奈川県の茶工場を取材した際は60kgの茶葉が入るトラックくらいの大きさの機械でしたが、売茶中村さんの機械は2kgの茶葉が入るサイズなで30分の1のミニチュア版。
5月上旬に神奈川県の茶工場を取材した際は60kgの茶葉が入るトラックくらいの大きさの機械でしたが、売茶中村さんの機械は2kgの茶葉が入るサイズなで30分の1のミニチュア版。

蓋を開けて中をのぞくと、このように羽根が付いていて、この羽根が回転しながら竹の板部分に茶葉を押し付けるため、手で軽く揉んでいるのと同じような状態になるのだそう。

底から奥の面にかけて竹の板が貼られていて、熱風を送り込みながら金属の羽根が回転し軽く茶葉を揉んでいくそうです。
底から奥の面にかけて竹の板が貼られていて、熱風を送り込みながら金属の羽根が回転し軽く茶葉を揉んでいくそうです。

2.揉捻(じゅうねん)

お茶を製造する中で唯一熱を加えずに揉む工程です。

圧力を加えて揉むことで茶葉の中の水分量が均一になり、お茶をいれた時に成分が抽出されやすくなります。

研修ではちょうどこの工程から見ることができました。

お店の中に青々としたフレッシュな香りが漂っていて癒されます!

小さいテーブルくらいの大きさの揉捻機がクルクルと回って茶葉を揉んでいます。今回研修用に使用した茶葉は昨年度産の和束でとれた「さやまかおり」という品種。こちらは「やぶきた」から生まれた品種です。
小さいテーブルくらいの大きさの揉捻機がクルクルと回って茶葉を揉んでいます。今回研修用に使用した茶葉は昨年度産の和束でとれた「さやまかおり」という品種。こちらは「やぶきた」から生まれた品種です。

3.中揉(ちゅうじゅう)

揉捻機でやや絡まっている茶葉に80度ほどの熱風を送り込み、ほぐしながら揉んで乾燥させていきます。

茶葉の温度は人肌くらいをキープして20分間揉み続けます。

これは手揉みの場合ももちろん同じですが、手揉みだと休む暇なしで大変です。

150年くらい前までは全て手揉みで行っていたそうです。

大きな工場の機械も、こちらのミニ機械も構造は同じですが、小さい方が微調整がきくとのこと。

各機械には制御盤が付いていて、温度や回転速度、時間などを調整できます。
各機械には制御盤が付いていて、温度や回転速度、時間などを調整できます。

4.精揉(せいじゅう)

茶葉の形状を整える工程です。

人の手ですり合わせて葉に「より」を作る工程を機械化しています。

この工程によってピンとまっすぐに伸びた形状の茶葉になります。

葉の形状を整える精揉機。
葉の形状を整える精揉機。

5.乾燥

しっかり乾燥させて茶葉に含まれる水分をさらに少なくします。

茶葉の香りもこの工程で輪郭がはっきりしてきます。

最初は青々とした生の葉の香りでしたが、徐々にフレッシュさの中に甘い香りややわらかなこうばしい香りが生まれてきます。

手前が粗揉機。奥の銀色の機械が乾燥機とのこと。
手前が粗揉機。奥の銀色の機械が乾燥機とのこと。

6.選別

サーキュレーターの風を利用して葉と固い茎の部分を選別します。

お店の中で小型の機械で製茶し、少量ずつ仕上げていくので、ここは完全に手作業なのだそう。

焙炉(ほいろ)を選別の作業台として使っています。
焙炉(ほいろ)を選別の作業台として使っています。

全ての工程を終えるのに5~7時間くらいかかるそうですが、これは大きな機械も小さな機械も同じです。

こちらの小さな機械では、常に確認のため茶葉を触って、その手触りや音で判断したり、その日の湿度や温度で微調整をすることができるため、仕上げまで良い状態を保つことができるそうです。

この後、「火入れ」という工程に入ります。

火入れにより茶葉の乾燥度が上がりると同時に、どういった香りに仕上げるかが決まります。

火入れの違いで茶葉の香りは変わる!

このお茶は火入れが強い、火入れが弱い、と専門家は香りを確認して判断します。

火入れでどう香りが変わるのか?を、お父様の中村淸孝さんのレクチャーで、同じ茶葉を使い火入れの度合いを変えて飲み比べてみました。

茶葉は2024年度産の新茶、ナナズグリーンティーの各店舗で6月1日から6月30日まで期間限定で提供される新茶の茶葉を使います。

京都の和束(わづか)産の「やぶきた」という品種のもので、新茶らしいフレッシュさを味わってもらいたい火入れは弱めに仕上げてあるのだそう。

※売茶中村さんでは日本茶・抹茶をテーマとしたカフェブランド「ナナズグリーンティー」さんのオリジナル煎茶などの茶葉をプロデュースされています。

今年とれたばかりの新茶を淹れてくださいました。
今年とれたばかりの新茶を淹れてくださいました。

最初は火入れの浅いものを試飲します。

今年とれたばかりの新茶はどんな味でしょうか?

新茶を試飲します。
新茶を試飲します。

一口飲むと草原のようなすっきりとした青い香りが鼻に抜けます。

淸孝さんによると、新茶はこの青葉アルコールという新茶特有のさわやかな香気成分が特徴で、それを活かすために火入れは浅めに仕上げているのだそう。

そしてその香りを立たせるには少し熱めのお湯でいれるのが良いとのこと。

新茶ならではの楽しみ方ですね。

火入れは本来は専用の機械を使いますが、今回は研修のため焙烙(ほうろく)を使って軽く熱して火入れをします。淸孝さんが手に持っているのが焙烙です。
火入れは本来は専用の機械を使いますが、今回は研修のため焙烙(ほうろく)を使って軽く熱して火入れをします。淸孝さんが手に持っているのが焙烙です。

次に、少し火入れを強めにした茶葉で比べてみます。

少量の茶葉を使った実験のため、火入れは機械ではなくその場で焙烙(ほうろく)を使って軽く熱して火入れをします。

お茶の色も茶色や黄色が加えられたような濃い色になりました。

火入れを強くすると新茶特有の揮発性の青葉アルコールはなくなってしまうということでしたが、お茶の香りはどう変わったでしょうか?

火入れの強い新茶をいれると若干黄色みが濃くなっています(写真ではわかりにくいですが)。
火入れの強い新茶をいれると若干黄色みが濃くなっています(写真ではわかりにくいですが)。

こうばしい香りが強く、新茶のフレッシュさはほとんど感じられません。

やはり新茶は火入れが浅い方が青葉アルコールの香りが活かされるということがはっきりわかりました。

火入れの加減は茶師がその都度、どんな仕上がりになるかをイメージしながら決めているそうです。

秋になると新茶とは違った火入れで深みを増した味に仕上げるのが一般的です。

春や夏は爽やかなものが、秋や冬はコクや深みのあるものが、食べ物でも飲み物でも好まれる傾向にあります。

煎茶はその季節に応じた火入れで楽しむものなのです。

小型の機械だからこそわかる構造

今回の研修の参加者の多くはカフェのスタッフとして働く方や外国の店舗のスタッフで、製造ラインを初めて見る方がほとんどです。

皆さん興味津々で中村さんのお話を聞きながら機械の動きに注目していました。

私はこれまで一般的な製茶工場の大型の機械は何度か見学したことがありますが、稼働中の工場の機械は内部を見ることはなかなかできません。

見られたとしても大きすぎて全体像がよくわからなかったりするのですが、今回の研修では中村さんのわかりやすい説明と、小型だからこそ内部の構造までしっかり見られるという点で大変勉強になりました。

お茶をいれてほっとひと息

今回の研修後にお土産としてできたての煎茶を分けていただきました。

左が今回の研修で作った揉みたての煎茶。品種は「さやまかおり」。奥の手揉み茶と比べると葉の形状がもっと細かくなっていますが、一般的な煎茶よりは葉はしっかりとした形状を留めています。
左が今回の研修で作った揉みたての煎茶。品種は「さやまかおり」。奥の手揉み茶と比べると葉の形状がもっと細かくなっていますが、一般的な煎茶よりは葉はしっかりとした形状を留めています。

帰宅後、家でゆっくりお茶をいれてみると、お店で製茶しているときの香りがふわっと広がってきました。

研修後にいただいた揉みたての茶葉を早速自宅で淹れてみました!ナナズグリーンティーオリジナルの進化系急須「360KYUSU」を使っています。三煎目くらいになると茶葉が綺麗に広がり見た目も美しいです。
研修後にいただいた揉みたての茶葉を早速自宅で淹れてみました!ナナズグリーンティーオリジナルの進化系急須「360KYUSU」を使っています。三煎目くらいになると茶葉が綺麗に広がり見た目も美しいです。

京都の和束(わづか)産の「さやまかおり」という品種の煎茶です。

ほんのり甘味もありすっきりとした味でとてもおいしいお茶でした。

お茶の色は宇治茶の特徴でもある済んだ黄色。お菓子はJR京都伊勢丹で購入した亀屋良長の「旬の烏羽玉」。左がトマト、右があんず、手前が煎茶でお茶によく合います。
お茶の色は宇治茶の特徴でもある済んだ黄色。お菓子はJR京都伊勢丹で購入した亀屋良長の「旬の烏羽玉」。左がトマト、右があんず、手前が煎茶でお茶によく合います。

一煎目はそのまま飲んで、二煎目と三煎目はお菓子と一緒に楽しみました。

お茶の香りに癒され、茶葉の持つほのかな甘味にほっとします。

好みのお茶が見つかるお店

売茶中村さんでは常時20種類以上の茶葉を小ロットで店内で製造し、いつも新鮮な状態で販売しています。

店内には喫茶もあるので、初めての方は喫茶で飲んで気に入ったお茶の茶葉を購入することも可能。

こんな味が好き、こんなイメージの茶葉が欲しい、と希望を伝えるとそれに合う茶葉をおすすめしてくれます。

中村さん親子の素敵ショットその1。笑顔が素敵です。
中村さん親子の素敵ショットその1。笑顔が素敵です。

宇治で長年茶業を生業とする家系でお育ちのお父様が、新たなチャレンジをする息子さんをそっとサポートする姿が印象的でした。

中村さん親子の素敵ショットその2。また伺います!
中村さん親子の素敵ショットその2。また伺います!

今回は研修がメインでしたので、いつかまた再訪して、普段のお店の様子もレポートできたらと思います。

それまでは宇治での貴重な研修内容を思い出しつつ、売茶中村さんの新茶を楽しみたいと思います。

シングルオリジン(単一農園単一品種)の新茶の茶葉「純煎茶やぶきた」は京都府南山城村産。昨年秋にも昨年度産の同じものを飲みましたが、新茶はさわやかな香りで軽やかなお茶に仕上がっています。
シングルオリジン(単一農園単一品種)の新茶の茶葉「純煎茶やぶきた」は京都府南山城村産。昨年秋にも昨年度産の同じものを飲みましたが、新茶はさわやかな香りで軽やかなお茶に仕上がっています。

取材協力:「nana's green tea」(外部サイト)、「売茶中村」(外部サイト)

本記事制作にあたってはガイドラインに基づき公平中立に制作しています。

日本茶インストラクター

【お茶の世界の扉を開く日本茶ナビゲーター】 日本茶専門店で7年勤務、茶道歴25年の経験を活かし、大手百貨店や外国の大学等でのワークショップで国内外2,000名以上の方に日本茶の魅力を伝える。 美味しい日本茶とそれにまつわる伝統工芸品を後世にも繋いでいきたい、日本茶への愛と想いで日本茶情報を発信中。 日本茶の商品開発、カフェ・飲食店での日本茶コーディネートや淹れ方指導も行う。 NPO法人日本茶インストラクター協会認定日本茶インストラクター(2004年取得)。 日本語教師(外国人対象)。

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