最盛期の京都で「宇治抹茶ができるまで」を体験!茶摘みから茶葉が抹茶になるまでを追う
抹茶ラテ、抹茶アイスクリーム、抹茶スイーツ、と、国内はもとより海外でも人気の抹茶。
しかし、抹茶がどうやって作られているのか?や抹茶と煎茶の違いは実はあまり知られていません。
今回は、5月中旬の最盛期の「碾茶(てんちゃ)」を生産している茶園で茶摘みを体験!
摘まれたお茶の葉がどのように抹茶になるのかをレポートします。
抹茶について知りたい方は必見です!
いざ、宇治へ!
5月中旬のある日、早朝に起床して新幹線で京都へ!
関東地方は晴れており静岡県を通過する新幹線の中から富士山と茶畑という素晴らしい風景も見られました。
さて、京都駅に着き、JR奈良線に乗り換え20分ほどで宇治へ。
在来線の車窓からもところどころに茶畑が見えてワクワク!
宇治駅に到着すると宇治のゆるキャラ「チャチャ王国おうじちゃま」が出迎えてくれます。
そして駅を出たところにある茶壷型の郵便ポストも宇治の名物。
宇治に来た!という実感を味わいつつ、今回の研修の集合場所へ。
宇治駅から貸し切りバスで宇治市の白川(しらかわ)地区へGO!
※今回の研修は昨年秋に取材させていただいたご縁で日本茶・抹茶をテーマとしたカフェブランド「ナナズグリーンティー」さんの社内研修に他の取材の方と同行させていただきました(過去記事はこちら)。
宇治の白川地区の茶園で茶摘み!
バスに乗り20分ほどで白川地区の茶園に到着。
こちらの茶園では抹茶の原料となる「碾茶(てんちゃ)」を生産しているそう。
抹茶の原料となる碾茶(てんちゃ)は覆下園(おおいしたえん)と呼ばれる、寒冷紗(かんれいしゃ)という黒い布状のものや藁で覆いをした茶園で茶摘みをします。
ちょっと近づいてみましょう。
覆下園の中に入ると日光が遮られ少し暗く感じます。
お茶農家の山下さんによると、こちらでは茶摘みまで40日間ほど遮光をしているのだそう。
被覆栽培とも呼ばれ、茶園ごと覆って遮光することにより、うま味成分のアミノ酸である「テアニン」が多く含まれた葉になります。
テアニンは日光を浴びると苦渋味の成分でもあるカテキンに変わるので、抹茶に必要なうま味のために遮光することは必須なのです。
また、遮光をすると日光を浴びようと葉の中のクロロフィルが増え、緑がより濃く鮮やかな茶葉になります。
抹茶の鮮やかな緑色とうま味は覆下園で育てられることにより生まれるものなのです。
ここが煎茶と大きく違う点です。
ちなみに碾茶と玉露の違いは、被覆栽培された葉を摘み、蒸すところまでは同じですが、揉みながら乾燥させると玉露になり、揉まずに乾燥させると抹茶の原料の「碾茶」になります。
碾茶用の新芽を摘む
先日は神奈川県内の茶畑で煎茶用の新芽を摘みましたが(詳しくはこちらの過去記事をご覧ください)、今回は抹茶の原料となる碾茶用!
碾茶用の覆下園は全国的に見ても大変貴重で希少なものです。
比較的安価な抹茶の原料は機械で摘みますが、茶道のお茶会で使われるようなハイクオリティの抹茶の原料はこのような「自然仕立て」の覆下園での手摘みです。
自然仕立ての茶園は機械で摘まないため、かまぼこ型ではなく見た目はちょっとボサボサ。
しかし実はこれが平安時代末期から鎌倉時代初めにかけて中国から茶とその文化が伝えられた当時からの800年続く本来の茶園の姿で、人の手で一つ一つ確認しながら摘んでいくものなのです。
覆下園の歴史も古く、16世紀の千利休の時代には確立していたそうです。
宇治茶の歴史について詳しく知りたい方は文化庁の日本遺産ポータルサイト(外部サイト)も参考になります。
抹茶が高価なのはこのように手間ひまかけて育てられるのと、葉にうま味を蓄えるため肥料も多く適切なタイミングで撒き、年間を通して様々なケアをして生産されているからなのです。
茶摘みスタート!
このように歴史ある宇治の覆下園で茶摘みできるとあって、日本茶マニアの筆者は大興奮!(20年越しの夢叶う!)
しかし今回は研修に同行させていただいているので、暴走しそうなくらいの興奮を抑えながらお茶農家の山下さんの説明をしっかり聞きます。
抹茶の原料となる碾茶用の茶葉はもっと下でぽきっと折る「折り摘み」で摘みます。
煎茶用の茶葉の茶摘みは手摘みの場合一芯二葉(いっしんによう)といい先端の芯とその下の二つの葉の下で摘みますが、煎茶と抹茶は栽培方法だけではなく摘み方も違うのです。
覆下園で日光を遮られた中で伸びた新芽は茎までとても柔らかく、茎が緑色の部分であれば簡単にぽきっと折ることができます。
横一列に並び、しゃがんで茶の木の下の方の芽から順に摘んでいきます。
隣の人との境目に摘み残しがないように摘むのが良いそうですが、初心者にはなかなか難しく感じました。
この道うん十年のベテランの「お茶摘みさん」はものすごいスピードで丁寧かつ正確に、一人で一日に10キロぐらい摘むのだそうです!
短時間なのに膝に負担が・・・とか言ってると怒られそうです。
今回は体験として茶摘みをさせていただきましたが、いつか本気の茶摘み(労働)にもチャレンジしてみたいものです。
「売茶中村」さんで煎茶の製茶を見学!
白川地区を後にし宇治駅近くへ戻り、徒歩で平等院方面へ。
途中、宇治橋を通っていると、あれ?これはお茶の木では?と気が付きました!
宇治橋のたもとには今話題の紫式部の像もあり、こちらも有名な観光スポットでにぎわっています。
こちらを通り平等院近くの道沿いにある「売茶(ばいさ)中村」さんへ。
こちらでは特注の小型製茶機が店内に並び、新茶の時期に摘み取り蒸した茶葉を冷凍保管したものを、小ロットでその都度製茶しているそう。
今回の研修を企画したナナズグリーンティーさんのカフェで出している茶葉は売茶中村さんでオリジナルで作っているとのこと。
こちらでは、茶葉が煎茶になるまでの製茶の工程を実際の製茶機が動くところを見ながらご説明いただきました。
そしてナナズグリーンティーさんで6月から提供される今年の新茶の試飲もさせていただきました。
売茶中村さんでの製茶については後ほど別の記事にて公開する予定ですので、お楽しみに!
「山政小山園」の抹茶工場見学へ
続いて、JR宇治駅から奈良方面へ1駅の小倉駅で降り、徒歩で「山政小山園」さんへ。
山政小山園さんは宇治で文久元年(1861年)創業の製茶問屋です。
筆者は20年以上前からこちらの抹茶をよく飲んでおり、以前も抹茶について取材させていただいたこともあります(過去記事はこちら)。
しかし訪問は初めてとあって、またしても興奮をなんとか抑えつつ到着!
こちらでは、代表取締役の小山政吾氏のご説明と映像で抹茶の歴史や抹茶ができるまでを学んだあと、実際に碾茶工場と抹茶工場を見学させていただきました。
抹茶工場は一年を通して稼働していますが、碾茶工場は碾茶用の茶葉の茶摘みが行われる5月から6月の数週間のみ稼働しているそうです。
その最盛期に見学できるのは大変ありがたいことです(こちらでは一般の見学は受け入れていないそうです)。
不織布のキャップとガウンを身に着け、工場内へ。
写真撮影がNGでしたので、ここからは簡単に流れを解説します。
抹茶ができるまで
覆下園で摘まれたばかりの茶葉が碾茶工場に続々と届きます。
保管用のコンテナには生の茶葉が蒸れずに新鮮な状態を保てるように送風機が付いています。
これは煎茶の場合も碾茶の場合も同じですが、酸化しないよう摘んだ後はなるべく早く加工します。
1.生葉を蒸す
生の葉は煎茶も碾茶も蒸して酸化を止めるのは同じです。
青々とした香りが漂います。
2.蒸した葉を冷却
蒸した茶葉が重なり合わないよう下から送風し、茶葉を舞い上げて拡散させながら冷却します。
こちらでは7メートル近いネットの中を3回舞い上げることで、茶葉の色と香りを良い状態に留めるのだそうです。
3.碾茶炉で乾燥
碾茶炉と呼ばれるレンガ造りの「碾茶乾燥炉」の中を茶葉がベルトコンベアで運ばれながら乾燥していきます。
徐々に碾茶らしいふくよかな香りに近づいているのがわかります。
4.葉を茎を分ける
茎の部分はまだ水分を多く含んでいるので葉から茎を分離させます。
5.乾燥
葉と茎をそれぞれしっかり乾燥させます。
6.碾茶の荒茶が完成
葉と茎を分離し、葉の部分が碾茶の荒茶となります。
7.審査
茶園ごとや品種、摘採方法、製造の仕方などによりロットごとに風味の特徴が違うため、専門家が長年の経験と感覚で茶葉の状態を審査します。
8.選別
碾茶の荒茶に含まれる骨(茎)や葉脈を取り除き、葉の部分だけにします。
9.仕上げ乾燥
より分けた碾茶の葉の部分を仕上げ乾燥します。
10.仕立碾茶の完成
古い葉などを取り除き葉のきれいな部分のみが残るよう選別してできたものを「仕立碾茶」といいます。
11.保存・熟成
仕立碾茶を低温で保管することで、熟成によりふくよかな香りとまろやかな味になると言われています。
年間を通して安定した品質の抹茶を製造できるのはこうして品質を保った状態で保管できるからです。
12.石臼で挽いて抹茶が完成!
抹茶は一般的に5~20ミクロン程度の細かい粒子であり、とても酸化しやすいため、常にフレッシュな状態で販売できるよう在庫状況を見ながら、都度、仕立碾茶を石臼で挽きます。
山政小山園さんには約300台の石臼があり、1日に約200kgの碾茶を挽いて抹茶を製造しているそうです。
たくさんの石臼が回転し抹茶を挽く様子は圧巻でした!
茶摘みからスタートして、碾茶を石臼で挽いてできあがる抹茶。
今回の研修ではたくさんの人が関わり大切に作られているのがよくわかりました!
茶道のお稽古やお茶会、抹茶カフェでいただくラテやスイーツのおいしさの秘訣は、結局はAIや機械だけに頼るものではなく人間の手によるもの。
これからも大切に、心して抹茶をいただきたいと思います。
研修を終えて
ナナズグリーンティーさんでは社員を中心にお店で働くスタッフの方々もこのような研修を毎年受けられていると伺いました。
私も休憩やランチにお店を時々利用していますが、気軽に立ち寄れる雰囲気で抹茶スイーツやお茶もおいしく、お店はいつも老若男女問わず賑わっています。
今回は、抹茶や煎茶がどうやって作られるのか、どの部分が味や香りの決め手となるのか、体験や見学を通して学ぶことができる研修内容でした。
そういう流れを知っているスタッフの方々がお店にいらっしゃると思うと、これからも安心して利用できます。
今回はシアトルや香港のお店からも研修に参加されており、現在海外店舗もどんどん増えているそうで、国内だけではなく海外でも抹茶の人気はとどまるところを知りません。
日本のお茶にまつわる食文化が海外でも発展していく、今後の展開も楽しみです!
取材協力:「nana's green tea」(外部サイト)、「売茶中村」(外部サイト)、「山政小山園」(外部サイト)
本記事制作にあたってはガイドラインに基づき公平中立に制作しています。