岡山県美作市の茶畑が6月公開の映画「風の奏の君へ」のロケ地に!伝統的な製法の「美作番茶」にも注目
岡山県でもお茶を作っているの?
岡山と言えば桃やマスカットのイメージかもしれませんが、実は岡山の美作(みまさか)市は古くから続くお茶の産地。
今、地方の伝統的な食文化やお茶文化に注目する人たちの間でも話題となる美作番茶について、製造から販売までを行っている小林芳香園の小林将則さんを取材しました!
6月7日公開の映画「風の奏の君へ」のお茶にまつわるシーンを監修した小林さんに、この映画の舞台となっている美作の魅力についてもお聞きしました。
岡山県のお茶文化
西日本出身の私は元々「美作」という地名はなじみがありましたが、美作番茶を知ったのは日本茶インストラクターになってから。
その後も美作番茶は希少なため実際に飲む機会はこれまでほとんどありませんでした。
しかし、いろいろなお茶を飲む中で、低カフェインでくせがなく麦茶のように温でも冷でもたくさん飲める日常使いのお茶を探していたところ、3年ほど前に美作番茶にたどり着きました。
岡山県といえば桃やマスカットなどのぶどうが有名でお茶のイメージはあまりないと思いますが、岡山市の後楽園には茶畑もあり、江戸時代にはここで摘まれた茶葉が岡山藩主のお茶として利用されていたという歴史もあります。
後楽園では毎年5月の第三日曜日に茶摘みイベントが行われ、小林芳香園さんも協力しているのだそう。
岡山はお茶とは縁が深い地域なのです。
岡山の煎茶と美作番茶
美作番茶は煎茶よりずっと古く、この地に伝わる伝統的な製法で何百年も前から作られてきました。
それに加え、江戸時代後期に宇治で現在のような煎茶の製法が生まれるとそれを学んだ人たちにより煎茶も生産されるようになります。
ちなみに、初めて岡山県で煎茶製造を行ったのが小林芳香園の初代「小林源三郎」氏なのだそう。
そんな由緒ある小林芳香園さんの煎茶も上質でおいしいです。
すっきりとした爽やかな香りにうま味や甘味も感じられ、静岡の山の方で作られるお茶に似ている印象のとてもおいしいお茶で驚きました。
そして美作番茶も飲んでみたところクセがなく刺激の少ないお茶で、麦茶のような感覚でたくさん飲めるお茶でした。
「番茶」というのはそもそも「日常使いのお茶」であり、古くから庶民が飲むお茶としてその地方独特の番茶が各地に残っています。
美作番茶もその一つで全国的には大変珍しく貴重なものです。
1862年から製茶業を営む小林芳香園の小林さんは美作番茶の普及活動も精力的に行われており、都内や大阪の日本茶イベントなどにもよく出店されています。
昨年秋、渋谷ヒカリエで開催された日本茶AWARDの「TOKYO TEA PARTY2023」では地方番茶のブースも担当され、美作番茶のワークショップも開催されていました。
小林さんに美作番茶について詳しくお話を伺いました。
美作で2軒のみ!美作番茶の生産者
美作番茶は高齢化も進み生産者は減る一方だそうで、なんと今では小林芳香園さんを含む2軒だけになってしまったそうです。
独特な手間のかかる製法で作られており、伝承者がいなくなってしまうのをなんとかするべく、生産者である小林さん自ら様々なイベントに出店したり美作番茶のワークショップを開いたりして広める努力をしているとのこと。
数か月前は都内で、つい先日は関西の百貨店でも日本茶イベントに出られていました。
出店やワークショップの情報は小林芳香園さんのInstagram(外部サイト)に掲載されています。
真夏の炎天下で行う美作番茶の製造
小林芳香園の小林さんはほぼお一人で美作番茶を生産から製造、販売まで行っているそうです。
それでは、美作番茶がどのようにして作られるのか追ってみましょう。
1.茶摘み
煎茶などは4月末から5月上旬にかけて茶摘みを行い加工しますが、美作番茶の場合は日光をさんさんと浴びた夏の固い葉を枝ごと刈り取って加工します。
小林さんの美作番茶用の茶畑は昔から植わっている在来種(品種が定まっていないもの)で除草剤や農薬はもちろん肥料も与えずに育てたもの。
一番茶は摘まずにおいておき、固くなった葉を美作番茶に加工しており、栽培も製法も昔ながらのやり方で行っているそう。
茶葉を摘むのは7月下旬から8月上旬の真夏の炎天下、暑い時期は作業も大変です。
2.煮る
刈り取った葉はすぐこのように火を使ってぐつぐつと煮ていきます。
煎茶などは最初に蒸しますが、美作番茶は釜で煮るのだそう。
固い枝と葉なので、1時間煮てもくずれたりしません。
暑い中の作業が続きます・・・。これは大変・・・。
3.天日干し
茶葉の水を切り、広い場所に枝ごと茶葉を広げて、1時間まぜながら天日干しをします。
4.煮汁をかけて干す
茶葉に茶葉を煮た煮汁をかけてまぜながら乾燥させます。
茶葉を入れ替えて5回分くらい繰り返し煮た熱い煮汁を乾燥した葉にかけて天日干しを3回ほど繰り返すことにより、茶葉全体に煮汁の成分が行き渡ります。
煮汁を何度もかけることで煮汁が茶葉をコーティングし照りのある茶葉になります。
太い枝を折ってみてパキッと割れたら出来上がりだそう。
5.保管
このような茶色の紙でできた「大海(たいかい)」と呼ばれる袋に詰めて保管します。
煎茶などと違ってかさばるため、保管場所も広いスペースが必要だそう。
6.仕上げ・焙煎
保管していた袋から出し、出荷前に葉や枝を分けて焙煎するそうです。
手作業の多い工程で丁寧に作られる美作番茶。
何百年にも渡る先人の知恵や工夫が今に伝えられているのです。
美作番茶のいれ方と楽しみ方
渋谷ヒカリエでのワークショップでは、実際に美作番茶のいれ方もご紹介いただきました。
やかんで煮出す際はお湯1リットルにつき茶葉5グラムで3分程度煮出すのだそう。
急須でいれる場合は茶葉5グラムに熱湯を300~500ml注ぎ3~5分抽出するそう。
どちらの場合も温かいままでも、冷やしてもおいしいです。
濃いめにいれてゼリーにしミルクとあわせたりしても、と小林さん。
くせがない分、アレンジもいろいろ楽しめそうです。
美作の茶畑が6月公開の映画の舞台に!
松下奈緒さん主演の6月7日公開の映画「風の奏の君へ」の舞台にもなっている美作市。
美作市の茶畑はこの映画の中でも重要な役割を果たしているそう。
映画の公式サイト(外部サイト)では予告編に美しい茶畑の様子や製茶工場も映っています。
茶畑が映画の舞台になることはあまりないことなので、ストーリーはもちろんのことお茶好きにはたまらない映画ではないでしょうか。
原作・原案の小説家のあさのあつこさんも、大谷健太郎監督も美作市のご出身なのだそうで、美作の見どころがぎゅっと詰まった作品になっているそうです。
そしてなんと、日本茶インストラクターでもある小林さんが出演する俳優さん達にお茶のいれ方や「茶香服(ちゃかぶき:茶歌舞伎とも書く)」(数種類のお茶をどれがどれか当てるゲームのようなもの)の指導もされたとか。
小林さんから映画「風の奏の君へ」についてもコメントをいただきました。
茶畑の美しさ、美作の景色も楽しめる映画となっているようですので、映画館で楽しんでみてはいかがでしょうか。
私も近々見に行く予定です。
美作の魅力とは
映画でも注目の美作の魅力を小林さんに伺ってみました。
美しい茶畑と温泉を楽しむ旅もいいですね!
小林芳香園さんでは初夏は茶摘み、秋は栗拾いなど季節の観光体験もできるそうです(要問い合わせ)。
映画を見てから美作へ行くともっと旅が楽しくなりそうです!
取材協力:「小林芳香園」(外部サイト)小林将則さん