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モンハン公開。日本の人気ゲーム、ハリウッド実写映画化で、成功/失敗の分かれ目は?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
3/26(金)に日本で公開となる『モンスターハンター』

日本の作品が、ハリウッドで多額の製作費とともに映画として再生される。この流れは今や常識となっているが、成功作はあるものの、どちらかと言えば失敗作が目立つ傾向。特に日本が誇る、コミック、アニメのハリウッド実写化では『スピード・レーサー』(マッハGoGoGo)、『DRAGONBALL EVOLUTION』(ドラゴンボール)、近年でも『ゴースト・イン・ザ・シェル』(攻殻機動隊)、『アリータ:バトル・エンジェル』(銃夢)、『Death Note/デスノート』など、総じて期待ハズレとなった作品が多い。ハードルが高くなるので仕方ないのだが……。

トランスフォーマー』のように日本発のロボット玩具を基にした大ヒットシリーズもあるが、もうひとつ、ハリウッド実写化の格好の題材になっているのが「ゲーム」だ。日本では3/26に『モンスターハンター』が公開され、この後も『メタルギアソリッド』などが完成を控えている。『ロックマン』のプロジェクトも進行中だ。日本発ゲームの実写化はしばらく途切れそうにない。

『モータルコンバット』『トゥームレイダー』といった、日本以外のゲーム実写化は別として(『モータル〜』は浅野忠信、真田広之の参加でリブート版が完成したばかり)、日本のゲームの実写化では「残念」な評価や、興行的失敗となるパターンに事欠かない。

マリオの映画は日本で大宣伝が行われたが…

時代をさかのぼると、1993年の『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』がそもそもの始まりだ。当時すでに世界的に人気だったゲームの、マリオ&ルイージの双子兄弟を、俳優(ボブ・ホスキンス、ジョン・レグイザモ)が演じ、ニューヨークを舞台にした一大アドベンチャーに仕立てたわけだが、結果は惨敗。ゲームの生みの親である日本では、異例ともいえる大々的な宣伝を行ったにもかかわらず、配収3億円(現在の興収換算で約6億円)にしか届かなかった。ゲームキャラのかわいさが、生身の人間になって気味悪さに変換されてしまったうえに、ゲームとはまったく別世界になったことが大きな要因だった。

やはり同時期の1994年、『ストリートファイター』がスクリーンに登場。対戦型格闘ゲームの人気シリーズから「ストリートファイターⅡ」をベースに、アクションスター、ジャン=クロード・ヴァンダムを主演に映画化。日本公開版(1995年公開)ではCHAGE&ASKAのエンディングテーマが流れたりしたが、こちらも配収2.5億円と、物足りない数字に終わり、全米でも大ヒットにはならなかった。格闘技のゲームなのに銃撃メインだったりと、ゲームファンにとっての「これじゃない」感が圧倒的だったのである。

こうした、日本のゲーム→ハリウッド実写化の黒歴史を一変させたのが、2002年の『バイオハザード』である。ヒロインを中心に恐るべき世界を生き延びるという設定が、映画向きだったうえに、アクション映画として新たに盛り込んだ要素も効果的。何より、監督のポール・W・S・アンダーソン、および主演のミラ・ジョヴォヴィッチの、オリジナルゲームへの愛が、作品の魂にのりうつったと言っていい。この1作目は全米でメガヒットの基準である1億ドルを突破。そして日本でも興収23億円を記録(以下、すべて興収の数字)。驚くのはその後で、『バイオハザード』はシリーズの日本での興収が、2作目が27億円、3作目が29億円、4作目が47億円、5作目が38.1億円、そして最終6作目が42.7億円と、回を重ねるごとに伸びをみせて安定の大ヒットコンテンツとなった。つまり観客に「愛された」ゲーム実写化なのである。

ただ、その後は『サイレントヒル』のように評価は悪くなかったが、大ヒットにはつながらなかったり、『鉄拳』シリーズのように、一般的に大きな話題にならなかった実写化のケースばかり。2015年には、パックマンドンキーコングといった、日本が誇る80年代の人気ゲームキャラが総登場し、実写の世界で大暴走する『ピクセル』もあったが、全米では1億ドルに届かず、日本でも10.5億円と寂しい結果だった。

一応、ゲームの映画化としての『名探偵ピカチュウ』は、キャラ自体の知名度に支えられてギリギリ、ヒットをクリアしたという印象。また、新型コロナウイルスの影響で公開延期の煽りをくったとはいえ、まったくヒットしなかった『ソニック・ザ・ムービー』など、現時点まで日本ゲームおよびゲームキャラのハリウッド実写化で、日本で大成功したのは、『バイオハザード』くらいである。

その意味で、『バイオハザード』と同じ監督・主演で実写化された『モンスターハンター』が、日本でどう受け入れられるかに注目したい。

ゲームの世界を崩さず、ゲームとは違う映画の醍醐味を

「モンハン」といえば、ゲーム自体の人気や知名度はハイクラスである。しかし過去の例からわかるとおり、ゲームのファンが、その世界を表現した映画に期待し、劇場に足を運ぶかというと、そう簡単にはいかない。ゲームはプレイヤーとして挑むもので、映画は一方的に語られるもの。スポーツと同じで、自分でやることと、スポーツを描いた映画を観ることは、まったく別物の体験となり、スポーツ映画では、その競技の魅力以上に、ドラマの感動や映像での興奮が必要となる。

そう考えると『バイオハザード』はゾンビ映画としてのアクション、世界観を確立したことが成功の要因となった。

2016年、シリーズ最終作『バイオハザード:ザ・ファイナル』で来日した、ポール・W・S・アンダーソン監督と、主演のミラ・ジョヴォヴィッチ
2016年、シリーズ最終作『バイオハザード:ザ・ファイナル』で来日した、ポール・W・S・アンダーソン監督と、主演のミラ・ジョヴォヴィッチ写真:アフロ

今回の『モンスターハンター』で要求されるのが、モンスター(怪獣)映画としての映像とアクションなのは言うまでもない。ゲームオタクのアンダーソン監督らしく、モンスターキャラ、モンスターを狩る道具、そのほか細部のビジュアルに基になったゲームを意識しつつ、余計な方向にはシフトしていかない。もともとモンハンはゲーム自体にストーリー性が希薄であるが、映画はどうしてもストーリーを語りたくなるもの。しかし『バイオハザード』に比べても、今回の『モンスターハンター』は物語がシンプルで、徹底してモンスターとの戦いが見せ場になっている。モンスターの造形や動きにはマニア的なこだわりも感じられた。人間たちのドラマもあるものの、あくまで場つなぎ的で、各人物の背景には深く踏み込まない。そうすることで、ゲーム実写化映画として観やすくなる……と監督が熟知しているようだ(この監督、ドラマに興味がないのは、いつものことだが)。

そしてモンハンの魅力である、ネバーエンディング=終わりが見えないという「雰囲気」を再現したところが、ゲームオタクのアンダーソン監督らしい。

つまり映画版『モンスターハンター』は、日本でもある程度、成功の要因は備えている。コロナによってハリウッド大作の公開が激減し、特大アクションをスクリーンで観たいという観客の欲求にも応える……わけだが、ゾンビ映画以上に怪獣映画(とくに洋画)はハードルが高いのが、日本の映画興行でもある。ゲームの実写化、怪獣映画という難点を、どれだけクリアできるか。モンハン映画のヒットは、まさにゲームを進めるかのごとく予想不能ではある。

『モンスターハンター』は、アメリカではすでに2020年12月に劇場公開され、1482万ドルという興収。コロナ禍を考えればそこそこという数字で、とりあえず海外での公開に望みをつないだが、中国では劇中の表現が問題になり、上映が縮小されるという憂き目に遭ってしまった。なんとか、オリジナルの故郷である日本で、少しでも製作費を回収してほしいところだが……。

映画 モンスターハンター

3月26日(金)公開

配給:東宝=東和ピクチャーズ共同配給

(c) 2020 Constantin Film Produktion GmbH

(c) Constantin Film Verleih GmbH 

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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