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鎮魂の3月、ドラマとドキュメンタリーで「3.11」をリマインドしたNHK

碓井広義メディア文化評論家
東日本大震災から6年 各地で追悼の祈り(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

2011年以来、「鎮魂の月」となった3月も終わります。今月、NHKはドラマとドキュメンタリーで、「3.11」をリマインドしました。特集ドラマ「絆~走れ奇跡の子馬~」と、2本のNHKスペシャル「シリーズ東日本大震災」です。

静かな力作、特集ドラマ「絆~走れ奇跡の子馬~」

3月23日と24日の2夜連続で、NHKが特集ドラマ「絆~走れ奇跡の子馬~」を放送しました。東日本大震災で牧場と家族を失った福島の一家が、震災の日に生まれた子馬を競走馬として育てていこうとする物語でした。

2011年3月11日、実家の牧場で働く松下拓馬(岡田将生)は、震災の中で馬の出産に立ち会い、子馬を守る形で亡くなります。

「地元からG1馬を生み出したい」という拓馬の夢を、何とか実現しようと奔走する父・雅之(役所広司)。看護師として働きながら牧場を支えてきたものの、息子の死に打ちのめされる母・佳世子(田中裕子)。そして東京から戻って父を助けることになる、拓馬の妹・将子(新垣結衣)。力のある役者が集まり、現地の人たちの6年間を誠実に演じていました。

雅之と将子は、北海道の有力な生産育成牧場に子馬を預けようとします。しかし、「あの馬、被ばくしていないと言い切れるのか」と断られてしまいます。また、新たな牧場を作ろうとした土地も、あの無数の黒い袋、除染廃棄物の置き場となってしまい、使えません。

当人たちの力では、どうにもならないことばかりの悔しさ、苦い現実、そして再生への勇気が、静かに描かれていました。

全体として抑制の利いた、ストイックともいえるドラマです。しかし、寡黙に徹した役所広司が被災者の憤りを、そして「あの子馬を見ると、息子を思い出してつらい」ともらす田中裕子が被災者の悲しみを、しっかりと代弁していました。新垣結衣の「立ち止まるのは簡単。苦しくても前に進む。そう決めたんです、父は」というセリフも印象に残ります。

2本立てのNHKスペシャル「シリーズ東日本大震災」

NHKスペシャル「シリーズ東日本大震災」が、2本続けて放送されたのは3月11日の夜です。どちらも重要な”問題提起”を行っており、見応えがありました。

1本目は「“仮設6年”は問いかける~巨大災害に備えるために~」。現在も3万5000人が仮設住宅で暮らしています。

しかし、この施設での長期生活には無理があり、亡くなる高齢者も多いそうです。番組は、この事態を招いた原因として、「災害救助法」を挙げていました。制定されたのが昭和22年と古いこともあり、仮設暮らしが長期化するような大規模災害には対応できないのです。

かつてこの法律の見直しが検討されたことがあります。でも、応急救助の厚生省と再建支援の国土省の折り合いがつきませんでした。そこにあるのは“災害救助法の壁”と“省庁の壁”。番組が、2つの壁の存在と問題点を明らかにした意義は大きいと思います。

2本目のNスペは「避難指示“一斉解除”~福島でいま何が~」です。3月末から4月にかけて、国の判断で福島県4町村の避難指示が一部解除されます。しかし住民は、放射線量への不安、山積みの除染廃棄物、打ち切られる補償といった悩みを抱えたままです。

一方、自治体は村や町の存続への危機感から避難指示解除を急いできました。そのギャップが行政と住民、住民同士、そして家族の間での“分断”を進行させているのです。番組を見ていて、これは“二重被災”ともいうべきものであると実感しました。

6年を経た今、あらためて「誰のための復興なのか」を強く問いかけた1本でした。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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