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見る者の心を打った白鵬の復活優勝 賛否を巻き起こす大横綱と新横綱に期待する品格

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
写真:日刊スポーツ/アフロ

こんなにも勝利への執念を見せる横綱が、いまだかつていただろうか。手に汗握る大一番。心臓が大きく高鳴る。決着後は、思わず放心状態になってしまった。

横綱・白鵬 執念で勝ち取った優勝

大相撲名古屋場所千秋楽。結びの一番は、ここまで14戦全勝の横綱・白鵬と、大関・照ノ富士の対戦だった。進退をかけるとしながら、順調に白星を重ねてきた横綱と、来場所で横綱への昇進が確実とされた照ノ富士。どちらが勝ってもおかしくない。それでいて、どちらにも負けてほしくない。そんな一番だった。

行司軍配が返る。両者、立ったまましばらくにらみ合いが続く。先に腰を下ろし、手をついたのは照ノ富士だった。ゆっくりと横綱が蹲踞し、仕切り線に手をつく。

立ち合い。白鵬が左手を出して立つと、右から強烈なかちあげを食らわす。それでも、照ノ富士は左の前まわしを取って、低く前に出ていく。が、まわしが切れて両者体が離れた。そこに、白鵬が容赦なく張り手を繰り出す。照ノ富士も負けじと張って応戦。そして、四つに組み合った。白鵬が左から投げを試みる。そのまま腕を抱え、力ずくで投げた。腕がきまって耐えられなかった照ノ富士は、白鵬の小手投げに、前へ倒れた。白鵬45回目の優勝の瞬間。大横綱は、気迫のまま吠えた。

大横綱と新横綱の「品格」

14日目での立ち合いの”奇襲”や、連日の張り差し、千秋楽のかち上げと張り手、そして土俵上でのガッツポーズなど、その振る舞いがたびたび賛否を巻き起こす横綱。これらが美しいかといわれれば、美しくはない。見る者の心になんだか影が差すような言動は、角界の看板を背負う横綱という力士がとるには相応しくない――、とはいえるが、これらは「ルール違反」ではないため、とがめることはできないとも個人的には思う。

さらに、そんな暗雲を吹き飛ばすかのような、あのすさまじい強さと勝利への執念。結びの一番でのかち上げや張り手は、冷静な照ノ富士から冷静さを奪うための作戦だったのではないかと筆者はにらんでいる。強いと認めた相手に対し、横綱もそれほど必死だったのだ。荒々しい相撲ではあったものの、やはり横綱は強いんだと、見る者の心を打つ一番ではなかったか。大横綱の見事なまでのカムバックに、大きな感動が体中を駆け巡った。

一方で、千秋楽で敗れたものの、連日圧倒的な強さを見せつけた照ノ富士にも、大きな拍手を送りたい。今場所は、照ノ富士なしには語れないだろう。来場所での横綱昇進も確実とされた。令和初の横綱誕生である。

復活と共に、冷静さを身につけてきた照ノ富士。根は明るくやんちゃな青年であるが、精神的にも大きく成長した新横綱には、大横綱にも求められている「品格」を期待したい。

来場所は、白鵬と照ノ富士の2横綱の場所。色の異なる二人の横綱が、どんなドラマを展開するのか。想像しただけで、いまから興奮が止まらない。

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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