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義理チョコより「みんながハッピーになれるチョコ」を!? バレンタインの愛、イラクの子ども達へも

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
日本イラク医療支援ネットワークの募金チョコを見せるイラクの少女。筆者撮影。

 「日本は義理チョコをやめよう」―高級チョコブランドのゴディバが今月1日に日経新聞に掲載した広告は、賛否両論、大きな反響を呼んだ。「義理」のために女性達は出費を強いられ、男性側もホワイトデーのお返しに出費がかかるため、義理チョコに否定的な人々はむしろ多数派のようだ(関連情報)。一方、「みんながHappyになれるチョコ」もある。日本イラク医療支援ネットワーク(JIM-NET)が毎年冬季限定で行っているユニークなキャンペーン、チョコ募金だ。

〇チョコでイラクやシリアの子ども達を支援

JIM-NETは毎年、チョコ募金を募集している。同団体のサイトから。
JIM-NETは毎年、チョコ募金を募集している。同団体のサイトから。

 チョコ募金は、JIM-NETが2006年から始めた募金キャンペーンで、募金をした人へお返しにチョコレートを送るというもの。募金は、イラクの小児がん医療支援や、シリア難民・イラク国内避難民支援などに使われている。

チョコ募金 2018

https://www.jim-net.org/support/choco_donation/

*上記での申し込みでは、14日の受け取りは間に合わないので注意。開催中のイベントや提携店で募金チョコを購入することができる。詳しくは上記リンクと本記事末尾を参照。

 イラクでは米軍が使用した劣化ウラン弾など、戦争によって様々な有毒物質が長年にわたりばらまかれたことや、血縁が近い親戚同士の結婚が多いためからか、小児がんを患う子どもが多い。また、IS(いわゆる「イスラム国」)とイラク軍の戦闘で破壊しつくされたイラク北部の都市モスルからの避難民達は生活が厳しいため、小児がん患者の死亡率が高い。そのため、JIM-NETは、抗がん剤などの医薬品の他、入院している患者家族の滞在場所などの生活支援も行っている。

がんサバイバーのスースさん。手に持っているのはJIM-NETのチョコ。筆者撮影。
がんサバイバーのスースさん。手に持っているのはJIM-NETのチョコ。筆者撮影。

 筆者は、昨年秋、JIM-NETの活動を、イラク北部クルド人自治区アルビルやその周辺で取材した。その際に出会ったのが、スースさん(20歳)とロリーンさん(16歳)だ。イラク南部バスラ出身のスースさんは10歳の時に、小児がんを発症。周囲の人々から「ああ、あの子は死んでいくんだね」と憐みの目で見られたり、髪の毛が抜けるのを気味悪がられたりなど、つらい経験をしながらも、JIM-NETの支援で治療を続け、治癒した。現在は、がんサバイバーとして、JIM-NETのキャンペーンに協力。募金用のチョコの缶のイラストを提供したり、小児がんに関する啓蒙活動を行っている。筆者の取材中も、スースさんは難民キャンプを訪れ、「がんは伝染する病気ではない」と、小児がん患者を差別したり、いじめたりしないよう、子ども達に教えていた。

シリア難民のロリーンさん。筆者撮影。
シリア難民のロリーンさん。筆者撮影。

 ロリーンさんは、シリア北東部カミシリの出身で、11歳の時、白血病を発症。イラク北部のクルド人自治区はこの地域としては治安が良く、医療設備が整っているため、ロリーンさんは家族と共にクルド人自治区へと移住した。当初、ロリーンさんの病状は非常に重く、一時は医者もサジを投げたが、JIM-NET事務局長の佐藤真紀さんはあきらめずに治療を続けるよう励まし、医薬品を支援した。その後、ロリーンさんは奇跡的に回復。現在は健康を取り戻しているという。

〇先細るイラクへの支援、日本からの募金が頼みの綱

 多くの子ども達が、JIM-NETの活動の恩恵を受ける一方、イラク情勢の混迷が続く中、現地の人々も翻弄され続けている。昨年9月、イラク北部のクルド人自治区政府が、イラクからの独立を問う住民投票を行った(関連情報)。これに激怒したイラク中央政府は、クルド人自治区への制裁を行い、わずかながら病院に供給されていた薬も届かなくなったのだという。

スースさんはロリーンさんの姉とも仲良し。スマホの自撮りは中東女子達も大好きだ。筆者撮影。
スースさんはロリーンさんの姉とも仲良し。スマホの自撮りは中東女子達も大好きだ。筆者撮影。

 それでなくても、国際社会の関心の低下から、イラクへの病院支援は先細り状態になり、特に小児がん患者支援を行っている国際支援団体はJIM-NETだけという状況になっている。そのJIM-NETも、イラクでの支援活動に必要な資金の調達に苦戦しているのだという。前出の佐藤事務局長は「今年は例年になく、厳しい状況。はっきり言ってピンチです。どうか、一人でも多くの方から、ご支援いただけるよう、願っています」と語る。

〇義理チョコでも、友チョコでも、本命チョコでも大歓迎

「チョコレートのうた」は、JIM-NETの活動を応援するため、筑波学院大学の学生達が制作した動画。

 JIM-NETの募金チョコが入った缶には、イラクの子ども達やシリア難民子ども達が描いた色鮮やかなイラストで彩られている。チョコも北海道の人気菓子メーカー・六花亭の製品で、味は保証付きだ。「うちの募金チョコ、プレゼントとしてもすごく喜ばれるんですよ。義理チョコでも友チョコでも、むしろ、もっと多くの方々が、みんなで募金チョコを配り合っていただければ嬉しいです」(佐藤事務局長)。義理チョコの是非は、各自の好き嫌いに任せるとして、どうせバレンタインデーでお金を使うなら、「みんながHappyになれるチョコ」にお金を使ってみるのも、また良いのかもしれない。

(了)

*JIM-NETは、明日まで、銀座のギャラリーで、「イラク15(フィフティーン)〜イラク戦争を振り返る15年展」として、イラク関連の写真や、子どもたちの描いたイラストなどを展示。会場でもチョコ募金を行うことができる。

日時: 2月9日(金)~2月14日(水)

   11:00~19:00(最終日16:00まで)

会場: ギャラリー日比谷(入場無料)

    東京都千代田区有楽町1-6-5

    03-3591-8948(会場直通) ※会期中のみ

    http://g-hibiya.com/?page_id=7

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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