「どんどん間違ったほうがいいよ」という自由進度学習の現場を見てきた
子どもたちが自分の学びたいことを自分のペースで学んでいくのが「自由進度学習」である。その実践現場を見たい、とおもった。
|いろいろな自由があった
椅子に座って学習している子もいれば、床に座った姿勢で学習している子もいる。床に腹ばいになってパソコンを開いている子もいた。
同じテーブルを使いながら、それぞれ別のことを学習している子どもたちがいる。何人かで同じテーマを、話し合いながら学習している子どもたちもいた。みんなから離れて、1人だけの場所で学習している子もいる。
それが自由進度学習の光景だった。ヒロック初等部の柱のひとつになっている学習方法が、自由進度学習である。
偏差値(点数)ばかり追いかけている学校では本質的な学びができず、つまらない場になってしまっていると考えた蓑手章吾さんは、14年間勤めた公立小学校教員を辞めて、ヒロック初等部を昨年4月に開校した。
https://news.yahoo.co.jp/byline/maeyatsuyoshi/20230327-00342919
ヒロック初等部で行われている自由進度学習は、学ぶスタイルが自由なだけではない。「子ども自身が学びたいと決めたことを学習しています」と、蓑手さん。
そう言われて子どもたちのパソコンを覗いてみると、算数の問題もあれば英語の問題もあった。韓国語に取り組んでいる子もいる。同じ場所に居ても、学びたいことは同じではない。
考えてみれば、それが普通だ。同じことを同じようにやらせようとするほうが無理である。興味をもてない子にとっては苦痛の時間となる。それが、日本の学校では当然のように行われている。
やっている科目はバラバラでも、科目ごとに使う教材ソフトは同じものを教員が決めているのかとおもい、訊いてみた。それに、蓑手さんは次のように答えた。
「教材ソフトは複数を用意していて、子どもたちのやりたいことに合いそうなものをアドバイスはしています。しかし、強制するわけではありません。どれにするか、決めるのは子どもたち自身です。インターネット上で自分で探してきたもので学んでいる子もいて、それもまったく問題ありません」
学習のすすめ方についても教員が指示しているわけではない。それを決めるのも、子どもたち自身なのだ。
「やってみて、自分で理解できたと判断すれば先に進むし、できなければ戻って学びなおします。自分がどこまで理解できているか、ほんとうに判断できるのは子ども自身だからです。学習の進度を決めるのは子どもたちです」
パソコンで学習ソフトを使っての学びだけが、自由進度学習ではない。なかには紙のプリントで学習に取り組んでいる子もいた。自分の学びに合ったものを自分で選んでいるという。
そんな自由進度学習で、小学校低学年の年齢でありながら中学生レベルの理科を学んでいる子もいれば、高校生レベルの数学に取り組んでいる子もいる。その逆もある。
|自由進度学習での教員の役割
子どもたちに任せるだけで、教員としては何もしないのか。もちろん、そんなことはない。
自由進度学習をしている子どもたちのあいだを、蓑手さんとサポートスタッフは動きまわって声をかけている。そして、アドバイスする。答を教えるのではなく、ちょっとだけ背中を押してあげているのだ。
割り算の問題を解いている子どもたちに「割り算と引き算の繰り返し」とアドバイスしながら、「どんどん間違えたほうがいいよ」と言う蓑手さんの声が聞こえてくる。「間違っていたら、どこで間違えたのか確認しようね」と続いた。正解か不正解かではなく、その過程を重視することで、学びはホンモノになる。
漢字練習をしている子が、「ふりかえり」で「○と○の漢字を忘れていた」と記入していた。普通の学校なら、「忘れないように10回書いて」といった教員の声が飛ぶところかもしれない。しかし蓑手さんは、「忘れたほうがいいよ。覚えて忘れて、もういっかい覚えたほうが脳に定着するからね」と声をかけていた。強制されるより、「覚えよう」という気持ちが湧くのではないだろうか。
できなくても責められるわけではない。偏差値(点数)を上げることを強いられるわけでもない。だから、子どもたちは素直に学びに向き合っている。子どもたちにとって学びは苦痛ではないのだろうな、とおもえた。