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トルコがアゼルバイジャンに派遣したシリア人傭兵に初の死者、BBCが現地の傭兵にインタビュー

青山弘之東京外国語大学 教授
24.ae、2020年9月30日

カフカス(コーカサス地方)のアルメニアとアゼルバイジャンが戦闘状態に入って4日目となる9月30日、トルコがナゴルノ・カラバフ自治区に派遣したシリア人傭兵が死亡したとの情報が流れた。また、BBCアラビア語放送が現地の傭兵にチャットでインタビューを行い、その内容を記事として配信した。

シリア人傭兵は、トルコが占領するシリア北部のアレッポ県アフリーン郡(トルコが言うところの「オリーブの枝」地域)で活動するシリア国民軍の戦闘員。

TFSA(Turkish-backed Free Syrian Army)、すなわち「トルコが支援する自由シリア軍」として知られる。

シリア人権監視団:シリア人傭兵の数は850人

英国を拠点とする反体制NGOのシリア人権監視団は9月30日、トルコの民間軍事会社複数社によって、トルコ占領下のシリア北部からアゼルバイジャンに派遣されたシリア人傭兵(国民軍戦闘員)の数が850人に達していることを確認したと発表した。

同監視団は9月29日、アルメニアとの戦闘状態に入ったアゼルバイジャンにトルコが派遣したシリア人傭兵の数を4,000人とする一部報道を否定し、その数を320人と発表していたが、事実であれば、シリア北部から新たに530人が到着していたことになる。

シリア人傭兵に死者

一方、ニュースサイトのSyria 24は9月30日、Facebookを通じて、アゼルバイジャンに派遣されているシリア人傭兵に初の死者が出たと伝え、氏名と顔写真を公開した。

死亡したのはムハンマド・シャアラーン・アブドゥッラッザークという名の傭兵で、国民軍に所属する武装集団の一つであるハムザ師団のメンバーだという。

Syria 24、2020年9月30日
Syria 24、2020年9月30日

シリア人権監視団も、ナゴルノ・カラバフ自治区での戦闘で、シリア人傭兵3人が死亡したと発表した。

3人も国民軍の戦闘員だという。

BBCアラビア語放送が現地の傭兵にインタビュー

こうしたなか、BBCアラビア語放送は9月30日、現地に派遣されたシリア人傭兵にチャットでインタビューを行い、その内容を記事として配信した。

インタビューに応じたのはアブドゥッラー(仮名)という男性。9月23日にシリア北部からアゼルバイジャンの戦闘地域に派遣された17歳から30歳のシリア人数百人のなかの1人だという。

アブドゥッラーは、シリア北部で暮らす多くの住民と同じく、困難な経済・生活状況に苦しんできたという。

反体制組織の「シリア対応調整者」によると、同地の住民の81%は収入が月50米ドル以下で、78%が必需品すら十分購入できていないという。

アブドゥッラーは、自分と家族の生活のため、月収2,000米ドルでアゼルバイジャン行きを承諾したが、同地で何が彼を待ち構えていたかは承知していなかったと述べている。

BBC Arabic、2020年9月30日
BBC Arabic、2020年9月30日

アブドゥッラーはチャットで次のように綴っている。

国民軍ハムザ師団司令官のサイフ・アブー・バクルが先週、私に、アゼルバイジャンに行き、月2,000米ドルで国境の軍事拠点を守ろう、と提案してきた。まだ、戦闘は起きていなかった。私たちはシリア北部からフール・カラス村(アレッポ県北部)に移送された。そこで国民軍は私たちから持っていたお金、電話、衣服を取り上げた。我々が誰か特定されないようにするためだ。

アブドゥッラーは家族と連絡するために電話を一度は取り返したが、家族といつ再会できるか分からないという。

アブドゥッラーは続けている。

その後、我々はトルコ南部のガジアンテップ空港に連れて行かれ、そこから4時間かけて空路、イスタンブールに移動した。それから、アゼルバイジャン航空でアゼルバイジャンに移送された。私たちは自分たちが国境の軍事拠点に配備されていることに気づいた。そのときはまだ戦闘は起きていなかった。我々は戦闘訓練も受けていなかった。

アブドゥッラーはまた、9月27日にアゼルバイジャンとアルメニアとの間で戦闘が発生した時のことを振り返って、こう綴っている。

彼らは私たちを兵員輸送車に詰め込んだ。私たちはアゼルバイジャンの服を着せられた。各人が自分の武器(カラシニコフ)で武装した。ここにいるほとんどが、貧しい民間人で、お金が欲しかっただけだ。軍人ではない。

車が止まり、我々は発砲があって驚いた。敵がどこにいるかも分からなかった。敵が我々に砲撃してくると、若い連中は怖くて泣き始め、もといた場所に戻りたいと言った。それから、私たちの脇に砲弾が落ちて、シリア人4人が死に、3人が負傷した。

アブドゥッラーは、自身が駐留している軍事拠点でシリア人10人の遺体を目にしたとしたうえで、70人が負傷したが、十分な治療を受けられていないと付言したという。

アブドゥッラーとのチャットは、通信状態が悪化して、しばらく途絶えたが、その後、次のようなメッセージが送られてきたという。

戦闘が始まってから、私たちはここにいる司令官にシリアに戻りたいと伝えようとした。だが、阻止された。前線に戦いに行かなければ長期間投獄すると脅迫された。我々はほぼ流罪の身だ。

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(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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