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トルコがアゼルバイジャンに派遣したシリア人傭兵をめぐって錯綜する情報とプロパガンダ

青山弘之東京外国語大学 教授
Enabbaladi、2019年10月11日

カフカス地方(コーカサス地方)ではアルメニアとアゼルバイジャンが9月27日、ナゴルノ・カラバフ自治州をめぐって戦闘状態に入った。戦闘は28、29日も続き、死者数は民間人を含めて100人を超えたという。

今回の戦闘では、トルコが2018年初めから占領下に置くシリア北西部のアレッポ県アフリーン郡(トルコが言うところの「オリーブの枝」地域)で活動する「トルコの支援を受ける自由シリア軍」(Turkish-backed Free Syrian Army:TFSA)こと、国民軍の戦闘員を、アゼルバイジャンに傭兵として派遣し、アルメニアとの戦闘に参加させているとの情報が流れた。拙稿「アルメニアとアゼルバイジャンの戦闘開始に合わせるかのようにトルコは自由シリア軍を派遣:その真相は?」ではその真相について明らかにしたが、以下ではその後(9月28日、29日)の情報とプロパガンダを整理してみたい。

現地入りを認めるシリア人傭兵

ロイター通信は9月28日、トルコ占領下のシリア北西部で活動する国民軍の戦闘員2人が、トルコによるアゼルバイジャンへのシリア人傭兵派遣を事実だと認めたと伝えた。

ロイター通信が先週取材したという2人のうちの1人は、アフリーン郡で活動する国民軍の担当者と任務についての調整を行ったことを明かした。

また、もう1人は、自身が国民軍特殊部隊の隊員であるとしたうえで、アゼルバイジャンに派遣されるシリア人が1,000人近くに達する旨を知らされていると語った。

2人は9月25日にアゼルバイジャンに派遣される予定だが、戦闘に参加する予定はないと語っていたという。

なお、ロイター通信は、2人の他にも複数のシリア人戦闘員が、匿名を条件に、700人から1,000人がアゼルバイジャンに派遣されると証言していると伝えた。

トルコからシリア人傭兵に与えられる報酬は月額1,500米ドルだという。

アルメニア:シリア人傭兵4,000人が戦闘に参加している

一方、アルメニア国防省のシュシャン・ステパニャン報道官は9月28日、アルツァフ共和国(アゼルバイジャンのナゴルノ・カラバフ自治州)のアライク・ハルチュニアン大統領から得た情報として、シリア人傭兵が、トルコの支援を受けるアゼルバイジャン軍とともに、アルメニアに対する攻撃に参加していると発表した。

アルメニア国営のアルメンプレスが同日、アルメニア情報センターの情報として伝えたところによると、シリア人傭兵の数は約4,000人で、9月27日早朝からアゼルバイジャン軍とともに攻撃を開始したという。

アルメニア統一情報センターによると、アルメニア軍はこれまでの戦闘でシリア人傭兵81人を殺害したという。

また、ロシアのインターファクス通信も9月28日、ヴァルダン・トガニャン在ロシア・アルメニア大使の話として、トルコがシリア北部からアゼルバイジャンに戦闘員4,000人を派遣したと伝えた。

アゼルバイジャン:シリアなどからアルメニア人傭兵が参集している

これに対し、アゼルバイジャンのヒクメト・ハジイェヴ大統領補佐官は9月28日、ロイター通信に対して、「シリアからアゼルバイジャンに戦闘員が派遣されたという噂は、アルメニア側からの新たな挑発で、まったくのナンセンスだ」と否定した。

また、アゼルバイジャン国防省報道官を務めるヴァギフ・ダルガフリ大佐は報道声明を出し、「シリア、中東諸国からの傭兵がカラバフでアルメニア側について戦っている」と発表した。

大佐は「インテリジェンスによると、敵はシリアをはじめとする中東諸国出身のアルメニア人傭兵多数を失った。だが、彼らはアルメニアにおいて公式に記録されていない」と主張した。

なお、トルコ国営のアナトリア通信は9月27日、トルコがシリア人傭兵をアゼルバイジャンに派遣したとの報道を早々に否定した。

シリア人権監視団:シリア人傭兵の数は320人で大多数がトルコマン人

英国を拠点とする反体制系NGOのシリア人権監視団は9月29日、アゼルバイジャンに派遣されたシリア人傭兵の数を4,000人とするアルメニア政府の発表に関して、その数は現時点で320人に過ぎないと発表した。

同監視団によると、320人はSADAT国際防衛コンサルタントなどのトルコの民間軍事会社によって、トルコ占領下のアレッポ県北部からアンカラを経由して、空路でアゼルバイジャンに移送されたという。

また、傭兵の大多数が、トルコ系シリア人(トルコマン人)で、「民族主義的な大義」を口実として、アゼルバイジャンへの派遣に応じる一方、アラブ系の戦闘員のほとんどはアゼルバイジャン行きには応じなかったと付言している。

欧州委員会報道官の発表:情報の確認はとれていない

欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会のピーター・スタノ報道官は9月29日、シリア人傭兵のアゼルバイジャンへの派遣に関して次のように述べた。

EUは、トルコが、シリア人戦闘員をアゼルバイジャン側で戦闘に参加させるために移送したとの報告があることを承知している。

改めて両国(アゼルバイジャンとアルメニア)の紛争への外部介入を控えるよう呼びかける。

シリア人戦闘員が現地に派遣されたとの情報の確認はとれていない。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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