ノート(137) 証人尋問の注意点と情状証人による証言の内容
~裁判編(10)
勾留174日目(続)
尋問の記録方法
弁護側による関係者の供述調書や嘆願書などの朗読が終わり、手続は情状証人の証人尋問に移った。情状証人についてはその選定に難渋した結果、司法修習の同期で同じクラスでもあった弁護士が引き受けてくれていた。
ところで、法廷での尋問内容を記録するやり方には、次の4つがある。
(1) 逐語調書
速記官が作成した速記録や、専門業者が録音から反訳した反訳書を利用するもの。書記官がこれらを証人尋問調書や被告人質問調書に引用して完成させる。
(2) 逐語的記録
(1)の文字形式と異なり、録音テープなどの記録媒体をそのまま訴訟記録に添付するもの。ただし、裁判所が相当と認め、検察・弁護双方が同意した場合に限られるし、判決確定前に検察側や弁護側から請求があったり、控訴・上告の申立てがあれば、書記官が録音内容を書面に記載する必要がある。
(3) 要領調書
書記官が公判調書の中に尋問者の尋問と証人の証言を問答形式で記載するが、逐語的なものではなく、尋問も証言もその趣旨にとどまる。
(4) 要旨調書
(3)をさらに簡易化したもので、問いと答えという形ではなく、端的に証言の要旨のみを書記官が公判調書に記載するもの。ただし、裁判所が相当と認め、検察・弁護双方が同意した場合に限られる。
裁判員裁判だと自白事件か否かを問わず(1)、それも審理・評決時点ではコンピュータによる声音認識システムの利用が基本だが、通常の裁判の場合、自白事件だと(4)が多い。
また、その日のうちに判決を言い渡す即決裁判など、裁判官が1人で審理を担当するごく簡単な自白事件であれば、(2)が活用されている。
一方、否認事件は(1)が多いが、有罪・無罪に関する証人だと(1)、情状証人だと(3)や(4)といった組み合わせもある。(1)の速記録と録音反訳は、それぞれの裁判所における速記官の数や、ほかの裁判と日程が重なっているか否かといった事情により使い分けが行われてきた。
速記録のほうが録音反訳よりも仕上がりが早いし、誤字・脱字が少なく、固有名詞や法律用語などの再現性も高い。尋問に立ち会って目の前でやり取りを見聞きし、即座に速記タイプライターで速記する速記官の手によるものだからだ。
ただ、最高裁が速記官の新規養成を取りやめて久しく、速記官自体の数も漸減していることから、次第に業者による録音反訳が中心となりつつある状況だ。
僕の裁判の場合、確かに被告人質問は(1)が見込まれたが、否認ではなく全面的な自白事件だったから、情状証人については(3)か(4)になるだろうと考えていた。しかし、意外にも情状証人の段階から速記官が入り、証言を速記していた。
裁判所がこの裁判を重く見ており、控訴や上告まで想定しているからだろうと思われた。
証人尋問の際の注意点
――やはり慣れていないな。
宣誓後、証言台からやや離れた位置で椅子に座った同期の弁護士を見て、率直にそう思った。刑事弁護の経験はあっても、自ら証人として証言することなど初めてだったからだ。
証人尋問では、証人にとってもいくつか注意すべき点がある。
この記事は有料です。
元特捜部主任検事の被疑者ノートのバックナンバーをお申し込みください。
元特捜部主任検事の被疑者ノートのバックナンバー 2020年2月
税込1,100円(記事3本)
2020年2月号の有料記事一覧
※すでに購入済みの方はログインしてください。