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開発好明インタビュー 個展開催中の東京都現代美術館の近所に住んで、毎日、通う

新川貴詩美術/舞台芸術ジャーナリスト
会いに行けるアーティスト、開発好明 photo takasix(以下同)

 東京都現代美術館で開発好明(かいはつ よしあき)の個展が開催中だ。題して、「ART IS LIVE―ひとり民主主義へようこそ」。アート活動を始めて30年以上に及ぶ開発の作品が一堂に揃う。

 開発は、毎日作品の制作を続けるアーティストである。1990年代初期から現在まで、日々、自画像を撮影し、日記のようにレシートを集める。本展では、それらを皮切りに、絵画や彫刻、映像、パフォーマンスなど、さまざまな作品でにぎやかである。どのように作品を選んだのか、次のように開発は語る。

開発 作品のセレクトはすべてキュレーターにお任せしました。ぼくなら絶対に選ばない作品も発掘して選んでくれて、「ああ、これに共感してくれるんだ」ってうれしさがありますね。見せ方や構成もすべてお任せでした。だいたい、会場に入って真っ先に自分の顔写真があるけど、自分じゃそんな構成、絶対にしない。恥ずかしいというか、入口でお客さん帰っちゃいそうだし。

未来に向けて手紙が書ける《未来郵便局 東京都現代美術館支局》。書いた手紙は約1年後に届く 
未来に向けて手紙が書ける《未来郵便局 東京都現代美術館支局》。書いた手紙は約1年後に届く 

売れないアーティストに言いたい。売れないと、回顧展の時に便利

──それにしても、物持ち、いいですね。

開発 売れないアーティストに言いたいんですけど、売れないと回顧展の時に便利ですよ。全部、自分のところにあるから。「購入者のあの人から借りなきゃ」とか「あれはどこに行ったっけ?」とか考えずに済むし。ただ、たまに「売れる作品はつくらないんですか?」と聞かれることがあって、いや違う、こっちは売る気まんまんですよ。

──本展には約30年のキャリアが詰まってますけど、振り返ってみて、どう思いました?

開発 濃厚に振り返りましたよ、濃厚に。自分の老いを感じながら自分の顔写真の編集作業をしましたからね。それに、忘れてた記憶を思い出したりもしましたね。

カードに書かれた質問に回答し、ふせん紙を壁に貼る《投票 YES/NO in MOT》
カードに書かれた質問に回答し、ふせん紙を壁に貼る《投票 YES/NO in MOT》

ブロンズ製の開発好明の手とコミュニケーションができる《握手》
ブロンズ製の開発好明の手とコミュニケーションができる《握手》

路上や屋外で主に活動を展開、今回、美術館で個展を行う心境は?

 活動当初から開発は、路上でアート活動を多く展開してきた。最近は野外で開催される芸術祭に参加する機会も多い。そんな開発が美術館で個展をすることについて、本人はどのように考えているのか。

開発 ぼくは、もともと美術館でも作品発表がしたいと思ってた。断ってたわけじゃない。でもなぜか、美術館に興味がないと多くの学芸員に思われてるみたい、こっちは興味あるのに。ぼくは、かたくなに美術館に反発してるつもりもなくて、オープンにいろんなところで自由にやりたいと思ってる。

 ぼくが活動を始めた90年代初期は、美術館ですら現代美術を見る機会が少なかった。だから、美術館より野外を選ぶ人が多くて、「(美術館の)中じゃないよね、外もありだよね」って時代で。そのうち、「大地の芸術祭 越後妻有トリエンナーレ」とか野外で開催される芸術祭が始まって、美術館ではない場所での展覧会も増えた。こういう芸術祭がターニングポイントとなって、美術館やギャラリーでは活動の機会が少ないアーティストたちが芸術祭に呼ばれるようになった。ぼくは美術館も野外もバランスよくやっていきたいと考えてて。

巨匠たちの作品を発泡スチロールで再現した《発泡ミュージアム in MOT》
巨匠たちの作品を発泡スチロールで再現した《発泡ミュージアム in MOT》

多くの人々を巻き込み、今回はこのインタビューも巻き込まれた

 本展には、画像で紹介してるように、観客の参加によって成り立つ作品が多い。また、日替わりゲストによるワークショップも毎日開催。これも開発の特徴のひとつで、かねがね彼は鑑賞者や数多くの人々を巻き込んでアート活動を展開してきた。

 何を隠そう、実は当インタビューも巻き込まれて、本展の一部となった。インタビューを申し込んだところ、開発は公開インタビューを希望し、開催初日前日の内覧会で実施されたという次第だ。

 さらに、開発は、ほぼ毎日、会場に現れる。

開発 ART IS LIVE、つまり生きてるから、いまこの場で来場者と話もできるし、コミュニケーションができる。会場に通って自分の作品がもっと面白くなるように日々努力したい。3ヶ月、美術館のそばに住みますから。でも、そのことを知り合いのアーティストに言ったら「ウソだあ」とか「ありえない」とか言われて。なんかね、昔からおまけをつけないといけない性分なんですよ。おまけがないと、サービスが足りないような気がして。

公開インタビューの模様
公開インタビューの模様

開発好明 ART IS LIVE―ひとり民主主義へようこそ

会期:2024年8月3日(土)~11月10日(日)

時間:10時~18時

   8月中の金曜は21時まで

休館:月曜(8/12、9/16、9/23、10/14、11/4は開館)、8/13、9/17、9/24、10/15、11/5

会場:東京都現代美術館 企画展示室 3F

料金:一般1500円、大学生・専門学校生・65歳以上1100円、中高生600円、小学生以下無料

   本人に限り会期中何度でも入場できる「開発好明展パスポート」2800円

トークやライブ・パフォーマンスなど関連プログラム多数あり

美術/舞台芸術ジャーナリスト

出版社に勤務した後、執筆活動を開始。国内外の現代アートをはじめ演劇やダンスなど舞台芸術に関して、雑誌や新聞、ウェブメディアなどに執筆。主な著書に『残像にインストール 舞台美術という表現』(光琳社出版)、主な編書に『蓬莱山 蔡國強と大地の芸術祭の15年』(現代企画室)などがある。早稲田大学第一文学部卒業、同大学院情報通信専攻修了。多摩美術大学演劇舞踊デザイン学科非常勤講師。プロフィール画像撮影:松蔭浩之

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