アーティストにとって「子育てとは?」と問う展覧会が開催中
一般的にギャラリーは場所を備える。作品を展示し、見る人と結びつける場所である。
だが、gallery ayatsumugiは例外である。特定の場所を持たず、展覧会のたびに古民家とかビルの一室などを借りる。すなわち、流浪のギャラリーなのである。
そんな独特な活動スタイルを続けるgallery ayatsumugiだけに、展覧会の企画内容も独自性が高い。
その一例が、目下、東京・広尾で開催中の「あたらしく、うまれる - 子を育てるアーティストの日々の創造」展である。タイトルどおり、子育てとアーティストたちの関係をめぐる展覧会だ。
子育てがアーティストの制作環境に及ぼす影響とは?
8名のアーティストたちが参加。たとえば、水川千春はあぶり出しによる絵画を発表。かねがね水川はあぶり出し絵画を手がけてきたが、妊娠を機に制作するのが困難となった。だが、水川はそれを否定的に考えず、「制作できなかった数年間のおかげで、今の絵が、描けるようになった」と前向きに振り返る。
このように、出産と子育てはアーティストの制作環境に大きな影響を及ぼす。考えてみれば当たり前の話なんだけど、これまで子育てとアーティストに目を向けた展覧会はあまり例がなかった。
では、男性はどうか。この展覧会には、8名中2名の男性アーティストが参加している。そういえば、「男性アーティスト」なんて言葉を使ったのは初めてだ。
稲吉稔は《さまよう看板》を発表。かつて稲吉が空間作品兼生活拠点としていたビルの看板に手を加えた一作だ。つまり稲吉は、作品が生まれる場で子どもたちと暮らしていたのである。子育てを含めた生活と、創作活動とが一体化した一例である。
また、かねて油彩画の制作を続けてきた加茂昂は、子どもを授かった頃から畑での野菜栽培を始めた。そして今回は、堆肥を素材とした平面作品を発表。つまり子育ては、画材の幅を広げることもあるのだ。
それから、刺繍によって画面構成を手がけてきたokada marikoは、2歳児を育てながら今も制作を続ける。「なかなか、まとまった制作時間がとれなくて」と語るけれど、刺繍の場合、たとえ30分であってもそれなりの成果があるから「恵まれてるほうかも」と微笑む。このように、制作手法と子育ての関係も興味深い。
離乳食無料! 子育て世代にオープンで親切な美術館も
話は変わるけど、最近は子育て世代にオープンで親切な美術館も増えつつある。たとえば、東京都現代美術館は授乳室をはじめ、ベビーカーの無償貸し出しや子ども向けのアート書籍が揃う「こどもとしょしつ」もある。おまけに、館内のレストラン「100本のスプーン」は、離乳食を無償で提供するほどだ。
かつて、美術館は静かな鑑賞環境を重視してきた。よって、赤ん坊連れは歓迎されない客だった。だが、今ではこうも変化を遂げたのである。
話は戻って、今回の展覧会について。
子育てはアーティストに何をもたらせるのか──このことは、子どもの成長に即して中・長期的にぜひ知りたいので、この企画の第二弾を5年後とか10年後のタイミングで、同じメンバーで実現してほしいものである。
「あたらしく、うまれる - 子を育てるアーティストの日々の創造」
会期:2024年3月8日(金)〜24日(日)、月曜休み
会場:アートルーム企画室(東京都渋谷区広尾2-13-6)
時間:12:00〜18:00(金曜と土曜は19:00まで)
料金:無料
参加者:あべさやか、稲吉稔、okada mariko、蠣崎誓
加茂昂、幸田千依、豚星なつみ、水川千春