日本相撲協会が協力する紙相撲大会とは? KOSUGE1-16 土谷享「どんどこ!巨大紙相撲」を語る
相撲の聖地と言えば両国だが、このまちが位置する墨田区で、今年も紙相撲の大会が開催される。
KOSUGE1-16・土谷享(つちやたかし)による「どんどこ!巨大紙相撲」だ。
「どんどこ~」とは、2004年の東京都現代美術館を皮切りに、北海道から九州まで各地で繰り広げてきたワークショップ・シリーズである。参加者はダンボールで背の丈およそ180センチメートルの力士を制作、土俵のまわりをどんどこ叩いて競い合う、紙相撲のトーナメントだ。
墨田区では、2019年からアートプロジェクト「隅田川 森羅万象 墨に夢」(通称すみゆめ)の一環として、「どんどこ~」の「北斎すみゆめ場所」を開催してきた。
しかも、他の地域にはマネできない方法で。
日本相撲協会の協力のもと、親方による解説をはじめ、呼出(よびだし)や相撲甚句(じんく)、弓取式(ゆみとりしき)を本職の方々が務めるという、ご当地ならではのプログラムである。つまり、かの日本相撲協会がサポートする紙相撲の大会なのだ。
こうした墨田独自の取り組みについて、土谷はどう考えているのか? 力士制作のワークショップ会場へと訪ねた。
もはやアートでなくても構わない。それより大切なのは場づくり
土谷 相撲のお膝元で、日本相撲協会が逆にタニマチ(積極的な応援者)になってくれて、ありがたいですね。他の地方でも趣味で甚句とかをやってる方々が協力してくれることはあるけど、やはり声量とか技術は本物にはかなわない。だから「北斎すみゆめ場所」は本場所って感じがします。
──もう「どんどこ~」は、アートなのか何なのかわからない広がりを見せるけど、本人としてはどう?
土谷 もはやアートでなくても構わない。それよりも大切なのは、場をつくること。「北斎すみゆめ場所」も子どもたちと一緒につくった場の中に本物の呼出とかが入ってくるのが重要だと思う。大相撲でも「場所」と言い方をするけど、それはイベントというより、自分たちで場をつくる考えがあるんじゃないかと思います。
アーティストが不在でも成り立つ仕組み
「どんどこ~」を始めて、来年で20年。KOSUGE1-16は芸術祭や展覧会への参加の機会も相次ぐが、いまも新鮮に「どんどこ~」に取り組む。なぜ飽きないのか?
土谷 どこでやっても一緒ではないんで。「どんどこ~」は開催される地域ごとにカスタマイズしやすくて、主催者が盛り込みたい要素を入れられる。ぼくがイニシアティブをとる興行にはしたくなくて、主催者がどういうことをしたいのか聞きながら一緒につくっていく感じです。
──それも場づくりってこと?
土谷 そのとおり。できれば、ぼくの手を離れてその地域なりのやり方でやってもらいたいというのがぼくの希望です。だって変な話、ぼくがいなくても実現できるし。
──土谷さん、いらないんだ?
土谷 うん。たとえば仙台のある小学校で「どんどこ~」が10年近く続いてるケースがある。だけど、ぼくは一度も行ったことがない。初めは(文化施設の)せんだいメディアテークでやってみたところ、地域の学校などからうちでも開催したいという声があった。そこで翌年の企画にスタッフとして参加いただき、ノウハウをお伝えしたんです。そしたらその後、校長や担当の先生は何度も変わったのに、ちゃんと引き継がれてて。しかも、素晴らしいのは、毎回、監修料の支払い連絡がある、つまりちゃんとアーティストとして見てもらえてる。
──じゃあ、すみゆめでは毎年立ち会ってるのはどうして?
土谷 アーティストと住民が出会う場づくりも大切というのが主催者の意向のようで。だから毎回、立ち会ってます。
──その他に、別の地域とは違った墨田区ならではの特徴はあります?
土谷 家族単位の参加が多いところかな。毎年、なぜか高倍率の応募を突破する同じ家族どうしが会場で「今年もよろしくお願いします」って挨拶してて、年中行事というかお正月みたいになってきてて。それも本場所感あるよね。
もはやアートでなくても構わないといいながらも、体験を通して人と人との出会いの場をもたらせるのも、アートの役割のひとつだろう。
日時:12月3日(日)13時30分~17時
会場:すみだリバーサイドホール・イベントホール(墨田区役所2階)
※本場所の様子はYouTubeにてライブ配信予定