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気になる韓国発の「松本京子さん平壌で入院」情報の信憑性

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
横田めぐみさんの夫の姉と記者会見する崔成龍代表(左)

今から39年前の1977年10月21日夜、「編み物教室に行く」と言って鳥取県米子市の自宅を出たまま行方が分からない松本京子さん(当時29歳)について「現在、平壌の病院に入院している」との情報が昨日、ソウルから伝わって来た。

北朝鮮は松本さんの拉致を否認しているが、日本政府は家族からの告発を受け、調査した結果、2006年11月に拉致被害者として正式に認定している。松本さんの拉致から8か月後の1978年6月に拉致された田中実さん(当時28歳)が前年の4月に政府によって認定されていたが、それに次ぐ17人目の認定者であった。

政府が認定に至ったのはそれまで行方がわからなかった親族から新たな核心に迫る証言を得られたことや失踪直前に現場付近の海上で北朝鮮工作船とみられる不審船が確認されていたこと、さらには脱北者らによる北朝鮮での目撃証言が決めてとなったとされている。脱北者の証言としては2003年に「1997月5月までの間、清津の労働党連絡所で4度見た」との元人民軍偵察局出身の金国石氏の有力証言などがある。

今回の「病院入院」の情報発信者は韓国の拉致被害者家族でつくる「拉北者家族会」の崔成龍(チェ・ソンヨン)代表(64歳)であるとみられている。

韓国には崔祐英(チェ・ウヨン)代表率いる「拉北家族協議会」と崔代表の「拉北者家族会」の二つの団体があるが、日本人拉致被害者に関する情報を頻繁に発信し、話題をさらっているのが崔代表である。父親が北朝鮮に拉致されていることから拉致問題には誰よりも熱心に取り組んでいる。

崔代表の松本京子さんに関する情報は今回が初めてではない。2012年11月にも「2011年12月に平壌に移住させられたとの情報がある」と日本側に伝えていた。

当時崔代表は「北朝鮮消息筋」から聞いた話として松本さんが平壌に移住したのは金正日総書記死去(2011年12月17日)直前で「後継者の金正恩氏の指示による」と語っていた。崔代表にこの情報を提供した「消息筋」の話では、正恩氏は父親の死亡前から外交に関与し始め、拉致被害者の扱いについて「再検討」を指示していたとのことだ。

松本京子さんについては早くから横田めぐみさんの夫の金英男(キム・ヨンナム)さんも勤めていた貿易会社「朝鮮綾羅(ルンラ)888」に勤務しているとの情報が警察庁に寄せられていた。また、2009年の時点で松本さんは日本人男性と結婚したとの情報も流れ、その後、その日本人男性が田中実さんではないかとの噂も出回っていた。

拉致問題に関する崔代表の情報が、それなりに注目される理由はこれまでに北朝鮮から韓国人拉致被害者7人を脱出させた実績があること、2005年11月には「横田めぐみさんの夫とされるキム・チョルジュンなる人物は韓国人拉致被害者(その後、本名がキム・ヨンナムと判明)である」との情報をいち早く入手し、それが後に確認されたことによる。

(参考資料:横田めぐみさんの「教育係」であった拉致実行犯が姿を現した謎

崔代表は当時「この情報は前年の2004年9月に第三国で北朝鮮高官と極秘裏にあった際に得た」とソウルでの記者会見で明らかにしたが、崔代表は拉致被害者を監督する国家安全保衛部など北朝鮮内部に通じる情報源を持っていると以前から囁かれていた。

崔代表は松本京子さんだけでなく、1978年に拉致された田口八重子さん(当時22歳)についてもこれまで再三にわたって日本側に情報を提示してきた。

例えば、2010年7月21日には「韓国人の拉致被害者と結婚し、平壌の万景台区域にある集合住宅に住んでいる」ことを「北朝鮮消息筋」から聞いたと語っていた。

田口さんについては1980年6月に拉致された原敕晁さん(当時43歳)と結婚し、86年に交通事故で死亡したと北朝鮮は日本政府に回答しているが、崔代表は田口八重子さんの夫は横田めぐみさんの夫同様に「韓国人拉致被害者である」との情報を明らかにした。

崔代表の情報を裏付けるかのように翌2011年1月には共同通信(19日付)が「田口さんは平壌市万景台区域倉広通りの共同住宅で暮らし、78年にノルウェーで失踪した元高校教諭の高相文氏ら韓国人被害者の男性2人と共に行動する姿が目撃された。もう1人の韓国人男性は田口さんと結婚している可能性がある」(共同通信1月19日)との情報を配信していた。崔代表の情報よりも、より詳細だが、「万景台で暮らしている」「共同住宅(集合住宅)で暮らしている」という点では全く同じだった。

崔代表は今年8月30日にも2004年8月に中国で失踪した米国人デービッド・スネドン氏について▲中国雲南省から国境を接するミャンマーに連行され▲2004年10月に平壌に移送された▲現地の女性と結婚して2人の子供がいる。▲スネドン氏の朝鮮名は「ユン・ボンス」で英語教師をしながら北朝鮮の首都平壌で生活しているとの「北朝鮮内の消息筋から入手した」情報を伝えていた。

(参考資料:拉致された映画監督の配達されなかった「金正日将軍様」宛の手紙

現在松本京子さんが入院している病院が工作員用の「915病院」でも、横田めぐみさんが一時期入院したとされる「695病院」でもなく、一般患者が入院する赤十字総合病院に入院させることへの疑問も沸くが、帰国した5人の拉致被害者に同行し、来日した2名の北朝鮮の担当者(監視員)が赤十字社職員の肩書を使用していたことから不自然とは言い難い。

韓国には今年に入って国家安全保衛部の局長級幹部や対南工作を担当する人民軍偵察局大佐らが相次いで亡命しているので、韓国側の協力次第では、日本人拉致被害者に関する安否情報が明らかにされる可能性が高い。なお、安否不明者の再調査委員会の責任者は国家安全保衛部の徐大河(ソ・テハ)副部長である。

▲拉致問題はなぜ動かない!対話も圧力も中途半端な日本政府の対応

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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