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このままでは多くの人に壊滅的影響。「現金30万円を非課税世帯中心に」では明らかに足りない理由

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

■ 現金給付30万円というぬか喜び

 日本政府の、新型コロナ関連の支援策に失望と懸念が広がっています。

 満を持した表明がマスク2枚だけ?多くの人を放心状態にさせた支援表明が批判され、先週金曜日、現金給付30万円の案が出てきました。

安倍晋三首相と自民党の岸田文雄政調会長は3日、新型コロナウイルスの感染拡大による影響で所得が減少した世帯などを対象にする現金給付について、1世帯あたり30万円とすることで合意した。

出典:産経新聞

 しかし、直ちに失望に変わりました。

支給の対象は住民税非課税世帯。加えて、一定の所得制限を定め、収入が5割程度下がるなど急減した世帯についても対象とする方向だ。

出典:産経新聞

 今週調整、最終決定されるというので、期待をもって、この施策では何が足りないのか、見ていきたいと思います。

■ 住民税非課税世帯に限定するのはなぜか

 まず、住民税非課税世帯とは、単身者で言えば給与収入が年間100万円以下の世帯ですが、そもそもこうした世帯は生活保護など別の支援の対象であるべきです。そもそもそうした支援制度で保障すべきでしょう。

 こうした世帯に限定して支援するというのは国の政策として根本的に間違っており、抜本的に拡充すべきです。

 加えて、一定の所得制限を定め、収入が5割程度下がるなど急減した世帯も対象ということですが、所得制限がどの程度か、ということが非常に大事です。困っていない人などほんの一握りであり、国民を分断しないためにも、原則一律支給とすべきでしょう。

 また、「収入が5割程度下がるなど急減した世帯」とありますが、安心して休業できるためには、50%程度の収入減などの要件を課さずに一律に給付対象とすべきです。

 収入が下がったことを年額でなく月額で証明するのも大変です。過去の給与明細を律儀にとっていない人は多いでしょうし、既に離職したバイト先だったりすると、収入資料を集めることそのものが大変です。立場の弱い人ほど、困難をきたすでしょう。

 そうした事務に対応するために、各社の経理業務が多忙を極めることになれば、リモートワーク推奨という方向性にも反するでしょう。

 そもそも、ぎりぎりで生活している世帯が多く、2~3万円収入が減っただけでも、家賃や学費、光熱費が払えない、そういう庶民の生活を国はわかっているのでしょうか?50%程度というのはあまりに酷です。

 「どうせ国は補償してくれない」という不信感が募るようでは、皆さん無理して働くでしょう。それによって命を犠牲にしたり、感染を拡大するということは何としても避けるべきでしょう。

■ なぜ世帯単位なのか?

 また、そもそもなぜ世帯単位の支給なのでしょう。1人世帯もいれば10人世帯もいる。明らかに不平等でしょう。

 世帯支給で特に問題になるのはDVなどで妻が避難、別居しているケースです。

 震災関連の給付金でも問題となってきましたが、世帯単位の支給は通常「世帯主」宛に支給されます。

 多くの場合、世帯主は夫、父とされていて、DVや虐待の加害者が支給額を独り占めし、最も弱い人に支援が届かないという問題が発生します。DVを恐れて住民票を置いたままに母子で別居している家庭には支援が届かないことが懸念されます。

 そうした最も困っている人たちに届くきめ細かい支援が求められます。

 そして世帯ではなく、個人単位で支給すべきです。

 前都知事も強く主張しています。

■ 申請の手間と時間やリスク

 一律現金支給でないとすると、申請手続が必要になることも懸念されます。

 とかく行政の申請書類は難解で、手間がかかる。それでは申請を抑制する人も増え、弱者ほど取り残されます。

 申請に対して審査をすると時間はかかるし、審査をする公務員の人件費も莫大にかかるでしょう。そんな時間と金があれば、即時支援に回すべきです。

 また、申請をするとなると、申請窓口に人が溢れて長期間待たされる等して、クラスター化するリスクがあります。

 どうしても申請ベースにする場合でもオンライン申請などの方法を考え、簡素化を徹底すべきです。

 自営業にはこのような朗報もありますが、 

政府が、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急経済対策で、フリーランスを含む個人事業主に最大100万円、中小企業に最大200万円の現金給付を検討していることが3日、分かった。

出典:共同通信

 やはり「申請に時間がかかるのでは?」「どうせハードル高いでしょ?」という不信感もあります。

 ドイツでは、フリーランサーへの助成金が2日で支給されたそうです。

 

フリーランサーの為の助成金、受け取りました。5000ユーロ、現金でポン。本格ロックダウンになって1週間でセットアップ、申し込んで2日で送金。あなた達の機動力に感謝します。

 日本にだってできるはずです。是非迅速なオンライン申請を導入すべきです。

■ 雇用調整助成金について

 雇用調整助成金の特例措置は、従業員一人あたり8330円までと限界があるものの、良い施策なので、ぜひ広く周知してほしいです。

 しかし、風俗営業などが対象外とされるとのこと、夜の仕事で働く、経済的、社会的困難を抱えた女性たちやシングルマザーにはどこからも補償を得られない可能性があり、追い詰められることが懸念されます。東京都は異なる扱いをしており、他県も見習っていただきたいと思います。

■ 緊急事態の前に

 今週、緊急事態宣言が出されるのでは?と報道され、今週には政府の支援策も取りまとめられるとしています。

 東京新聞の報道によれば、

緊急事態宣言が出されると、都道府県知事は学校など公共施設に加えライブハウス、野球場、映画館、寄席、劇場など多数の人が集まる営業施設には営業停止を要請・指示できる。労働基準法を所管する厚労省によると、施設・企業での休業は「企業の自己都合」とはいえなくなり、「休業手当を払わなくても違法ではなくなる」(同省監督課)としている。

出典:東京新聞

 ということで、多くの人が困窮するでしょう。

 誰もが取り残されないような支援策を発表し、迅速に対応することが急務です。

 新型コロナの影響が深刻な諸外国は、歴史的に類を見ない経済的人的ダメージを乗り越えるために、かつてない予算を組み、積極的な支援策を実施しています。

 イギリス政府は、労働者の給料の最大80%、ひと月あたり最大2500ポンド(約33万円)をカバーする新たな計画を発表したとされています。

 IMFや、OECDの公表文書で他国と比較しても、日本の施策は十分とはいえず、諸外国並みの積極的な対策が求められています。

 IMF Policy-Responses-to-COVID-19

 OECD Tackling coronavirus (COVID-19)

 困っている人たちや産業への支援を出し惜しめば、どれだけの人が追いつめられるか、想像を絶します。取り返しのつかない壊滅的なダメージを人も経済も被ることになるでしょう。

 今ならまだ遅くないはずであり、政策の見直しを求めます。(了)

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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