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マイメロ騒動から考える コンテンツの変化とは?

河村鳴紘サブカル専門ライター
「おねがいマイメロディ」のサイト

 サンリオの人気アニメ「おねがいマイメロディ」シリーズに登場するマイメロディのママの「名言」を使った商品が発売中止になると報じられました。「名言」に「女の敵は、いつだって女なのよ」などという性別についての言及があり、ネットで賛否両論になったというものです。背景を考えてみます。

【関連】「女の敵は女」物議のマイメログッズが発売中止に サンリオが決定「今後の商品企画に活かしていく」(J-CAST)

◇批判も「表現の自由」だが…

 近年、マンガやアニメなどのいわゆるサブカルチャー発のコンテンツで、一部の人たちからの「厳しい批判」をネットで見かけます。

 共通するのは、法的には問題ないのに、大勢の人への配慮を求められていることです。NGの線引きはあるものの、人によって判断が割れるところ。特に「差別表現」「性的なもの」などと攻撃されると、追い込まれたりするのです。

 もちろん、批判も表現の自由です。しかし、それが人々の“分断”を生んでいるように思えます。

 表現の自由については、啓蒙思想で知られるフランスの哲学者・ボルテールは「私はあなたの意見には反対だが、あなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」と言ったとされます。相手の意見が不快であっても、許容することの大切さを説いているのですね。しかし残念ながら、現在のネット社会では、相手を攻撃して屈服させることがトレンドになっているようです。

 いまや、個人がツイッターなどのメディアを持ち、意見を発信できます。そして注目を集めたネタは、メディアが(お手軽に)記事にする時代で、「個人によるネットの情報発信→話題or炎上→メディアが記事化して拡散」のサイクルが確立されています。メディアとしては手間をかけずに、手軽にPVを稼げる記事を作れることが背景にありますが、結果として、個人の発言力が大きくなっています。

 これが既存メディアを介してのコメントであれば、いくぶん違いました。テレビや新聞、雑誌であれば、番組制作者や編集の目もあり、避けるべき表現・用語も存在するなど、ワンクッションありました。その結果、過激な発言が出づらくなる側面もありました。

 しかしSNSは、個人の考えがストレートに出ます。そしてネットで注目を集めるのは、斬新でユニークな視点か、異論の出そうな極端な発言です。前者は難しく、後者は(批判に耐えられたら)容易です。

 また炎上は、少数の意見でも起きることが指摘されるようになりました。さらに近年はその炎上が、コンテンツの展開を阻止する結果になることもあります。

【参考】総務省 情報通信白書 (1)誰が炎上に加わっているのか

◇価値観の変化と見極めの難しさ

 ネットでの批判というのは、消費者の予想以上にコンテンツ制作側の耳に届きます。情報収集とコンテンツの品質向上のため、ネットの声に耳を傾けようとするからです。しかしそれが原因で、制作者が意欲を失う、迷走することがあります。この時点で、第三者の意見がコンテンツに影響を及ぼしているとも言えます。

 誤解を恐れずに言えば、アニメやマンガ、ゲーム、小説などの創作コンテンツは多少の差はあれ、エロスや皮肉など何らかの「毒」があるもの。むしろツッコミどころがあり、それも含めての楽しさだと思うのですが……。人にはさまざまな考えがあり、自分の価値観に沿って発信するメディアを持っているのですから、止めるすべはありません。

 そして批判をされた制作側の言い分を代弁すれば、万人を納得させるのは極めて難しく、反論しない方が無難です。今回のグッズ発売中止も、コンテンツを大切に考えればこその、やむを得ない対応なのかもしれません。

 ただ、明らかに「ダメ」というケースでも、関係者のチェックが行き届かず批判を浴びることがあります。先日、「進撃の巨人」のグッズが批判を浴びて発売を中止し、アニメの製作委員会は謝罪しました。一方でアニメ「鬼滅の刃」の遊郭編は、遊郭を舞台にしたことが批判を浴びましたが、そのまま放送されています。

【関連】進撃の巨人、関連商品の販売中止 「差別の象徴」と謝罪(共同通信)

【関連】鬼滅の刃「遊郭編」の炎上報道で考える、軽くなるメディアの「炎上」記事が生むリスク(徳力基彦)

 要するに多数の価値観と合致しないケースと、少数の価値観に合致しないケースがあるのです。コンテンツ制作のかじ取りが難しい時代ですが、コンテンツも意外にタフで、時代の価値観に合わせて変化しています。

 アニメ「ドラえもん」で言えば、昔であればジャイアンの行動や発言は理不尽でしたが、以前よりはおとなしいですね。アニメ放送の初期には一部からかなり批判を浴びていた「クレヨンしんちゃん」も、今ではずいぶんマイルドになりました。

◇多様な価値観を認める寛大さを

 それにしてもコンテンツに何かの落ち度があったとしても、もっと穏便な意見の方法があると思うのです。今では公式サイトなどのチャンネルがあるのですから、配慮してフォームなどで意見を送ればすむはずです。

 しかし近年のコンテンツの批判では、即反応する形で攻撃し、かつ相手の言い分やコンテンツの意味・背景を飛ばして、表層を切り取る傾向にあります。「ドラえもん」で言えば、ジャイアンはいじめっ子のキャラだから「子供に悪影響を与える」と言うと、どう思うでしょうか? 映画でのび太を助けるジャイアンの雄姿を知っていれば、その批判が「ドラえもん」というコンテンツへの理解が不足していると分かりますね。

 マイメロディのママも、毒舌キャラで知られていますが、それはマイメロの一部でしかありません。そしてママの発言を活用した商品は過去にも発売されて、注目を集めこそすれ、特に問題にはされなかったのです。

 毒舌キャラはあらゆるコンテンツに登場します。チェックしていけば、今はふさわしくない表現はあるでしょう。その気になれば、多くのコンテンツを批判できることを意味します。コンテンツの一部を見て批判するのでなく、長所を含めて見て総合的に判断するのが前向きではないでしょうか。

 またネットで批判するときにも、相手にもおもんばかって言葉を選ぶべきではないでしょうか。このままでいくと、自分の価値観に合わないものに対しての落ち度やスキを探す、批判合戦にもなりかねません。そして攻撃されたからといって、同じように強い言葉で反撃すれば、同じことです。

 今の一部の人たちの言動は、ターゲットにした相手に近づいて走行進路を阻止する「あおり運転」のようで、さらに「あおり運転」で応戦しているように見えるときがあります。例え運転する側にイライラさせる「落ち度」があるとしても、注意の仕方があるのではないでしょうか。

 ネットという公の場で相手をたたくと、全面対決になりがちですし、恨みを残して後の憂いとなる可能性もあり、それは不幸の連鎖でしかありません。相手の態度が言葉の使い方一つで変わることは、実際の社会でも「あるある」です。異なる価値観を互いに認めて、寛大さを示すことは、決して損にはならないと思うのです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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