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今夜放送!『ハウルの動く城』の城は「薪」で動く。どれほどの薪が必要か、計算してみた。

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。

マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。

さて、今回の研究レポートは……。

宮崎アニメといえば、印象的なのは「浮遊感」である。

『ナウシカ』のメーヴェも、『ラピュタ』のタイガーモス号も、『魔女宅』のホウキも、風に乗って空を飛ぶ描写がとても心地よかった。

ところが『ハウルの動く城』の「城」は歩く!

この映画には原作があって、その『魔法使いハウルと火の悪魔』(ダイアナ・ウィン・ジョーンズ著/西村醇子訳/徳間書店)という小説によれば、どうやら城は浮遊しながら移動している。

なのにアニメ版では、ギシギシと轟音を立てながら、4本の足で歩くのだ。

スバラシイですなあ。

まことに感覚的な視点だけど、お城にはやっぱり大地を踏みしめて歩いてほしい!

しかも科学的にヒジョ~に興味深いのは、その動力源が明らかになっていること。

荒れ地の魔女の呪いで老女になったソフィーは、旅先でハウルの動く城に出くわした。

寒さに耐えかねて城に入ると、火の悪魔・カルシファーがいて「契約に縛られて、ハウルにここでこき使われてるんだ。この城だって、おいらが動かしてるんだぜ」と訴える。

カルシファーは、暖炉で燃えている炎のような姿だが、目と口と両手があって、ときどき薪を食べていた。

つまり、4本足で歩く城のエネルギー源は薪!

これはホントに面白い。

そして気になる。

動く城はかなりの大きさに見えたけど、そんなモノを薪で動かすなど、できるのだろうか?

◆重さは東京タワーくらい!?

『ハウルの動く城』の舞台は、魔法が当たり前のように存在する世界。

街を蒸気機関車や蒸気自動車が走り回る一方で、若い娘の心臓を食べると噂される魔法使い・ハウルの城が野原を動き回っている。

その外観はとっても異様だ。

鉄で覆われていると思われる本体に、顔、大砲、大小のドーム、煙突などがついている。

そして轟音を立てて4本足を動かすたびに、城の各部がテンデンバラバラに揺れ動く。

城は煙突から湯気を出していた。

これと、カルシファーが薪を食べていたこと、街を蒸気自動車が走っていたことなど考えると、薪を燃やしてお湯を沸かし、水蒸気の力で4本の足を動かしているのだろう。

典型的な蒸気機関である。

城の大きさや重さはどれほどなのか?

明確な数値は設定されていないようなので、魔女の呪いで身長140cmほどにされていたソフィーと比較すると、城の高さは44m、前後の長さは37mくらいと思われる。

左右の幅も前後と同じとすれば、15階建ての大型マンションほどの大きさだ。

重さは、各部に取り付けられたものから推定しよう(サイズはすべて、画面で測定したもの)。

城の屋根には、直径17.5mと14mのドームが2つずつ。

城の前面には顔があり、その鼻は長さ12mの大砲になっている。

後方に長さ17mの煙突が3本。

これらがすべて鉄製だとすると、これらの重量だけでも1450tになる。

本体は、歩くたびに揺れ動く柔構造で、外装はおそらく鉄板、内部は木造のようだ。

強度がものすごく心配だが、木造の基礎構造を鉄板で覆っているのだろう。

鉄板の厚さなど細かい仮定を加えて計算すると、城本体だけで2050t、ドームなどを含めた総重量は3500t。

なんとこれは、東京タワーの全重量とほぼ同じである!

◆歩くのは、エネルギー効率が悪い

東京タワーほども重い城を動かすには、どれほどの薪が必要なのだろうか。

それは、城が歩くスピードによっても変わってくる。

速度が速いほど、同じ時間で長い距離を進むので、薪の消費量は増えるからだ。

アニメの画面で測定すると、城の歩幅は8.2mで、1歩を1.9秒で歩いている。速度は時速16km、普通に漕ぐママチャリくらいだ。

これだけの巨体なのに意外に速い。

この速度と重量から、薪の消費量を考えてみよう。

1969年まで日本で走っていたR形蒸気機関車は、重量58.8t。

1km進むのに、12.6kgの石炭を消費したという。

これを元に計算すると、3500tもの重量物を時速16kmで走らせると、1時間に3.4tの石炭が必要となる。

しかし、カルシファーが食べていたのは薪なのだ。

薪は石炭に比べて火力が弱く、同じ量を燃やしても、石炭の7割しか熱が発生しない。

薪の火力で計算すれば、1時間に4.8tの薪が必要という計算になる。

さらに、ハウルの城は4本足で歩く。

ここまでの計算は、蒸気機関車のように「車輪で転がる」場合であり、「歩く」という動作を考慮に入れると、必要な薪の量は、一気に5倍に増える。

歩行は、車輪で転がるのに比べると、エネルギー効率が格段に悪いのだ。

「車輪は人類の重大な発明」といわれるが、しみじみナットクしますなあ。

――というわけで、4本足で歩くハウルの城は、4.8tの5倍の薪を消費することになって、それすなわち1時間に24t。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

◆どれほどの薪を使うのか?

薪の消費量が求められたのは喜ばしいが、1時間に24tとは尋常ではない。

食べるカルシファーも大変だ。

ソフィーがくべていた薪は、丸太を4つ割りにしたもので、アニメの描写を見ると、底面の半径が10cm、長さが50cmくらい。

よく乾燥した薪なら、1本あたりの重量は1.3kgになる。

これを24tということは、カルシファーは1時間に1万8千本、1秒あたり5本というハイペースで薪を食べまくらなければならない。

モーレツに忙しくて、ソフィーに「契約に縛られて……」などと愚痴っているヒマはない。

モノも言わずに食べ続けなければ!

また、これだけの薪を集めるのも、容易ではないだろう。

1時間に24tということは、1日に576t。

世界の森林面積と木材生産量から計算すると、森林1km²から取れる薪は27tである。

するとハウルの城が1日動くと21km²、品川区くらいの森が消えてしまうことになる!

1ヵ月もウロウロすると、東京23区ほどの面積の森林が丸坊主になる!

うむむむ。城を歩かせるというのは、大変なことだなあ。

効率や環境問題を考えれば、人類の偉大な発明である車輪を使っていただいたほうがよいと思うが……いや、でもやっぱりロマンとしては、城には歩いてもらいたい。

ここはひとつ魔法の力で、薪を使わないで歩かせることはできないものかな。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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