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名物選手の驚異、「いいチーム」の定義に触れる。/リーグワンD1第4節ベスト15【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 これがリーチ マイケルのラグビーだ。2024年最初の公式戦で示した。

 1月6日、神奈川・等々力陸上競技場でのリーグワン1部・第4節へ東芝ブレイブルーパス東京の主将兼ナンバーエイトで出た。昨季王者のクボタスピアーズ船橋・東京ベイを24―20で下して開幕4連勝を果たすまで、精根を尽くした。

 トライラインに迫っていた23分頃には、モールからのパスアウトを皮切りに適宜、位置について突進を2度。走者のサポートを2度。防御にぶち当たった。

 その場面での得点こそなかったが、敵陣ゴール前左で相手ボールスクラムからのこぼれ球へ味方が反応。7―7と同点に追いつくや、リスタートのボールを自陣でもらった8番は迫るタックラーに激突する。足をかき、前方へ背筋を伸ばし、仲間が寄ってきたのを受けて自軍側へ腕を伸ばす。丁寧に球を置く。

 17―10とリードして迎えた後半最初の場面でも、同僚と列をなしディフェンス。突っ込んでくるランナーを掴み上げ、その場に滞留させようとする。

 ハーフ線付近右で地面からやや浮いた敵ボールに反応し、絡みついたのは、その2分後のことだ。さらにその8分後には、自陣10メートル線付近右で人の心を読む。

 連続フェーズのさなか、スピアーズの藤原忍がロックのデーヴィッド・ブルブリングへパスし、その左へ回り再びバトンを受けようとするのに対し、リーチはブルブリングの手元に圧をかけた。結局、リーチの落球を判定され、54分には17―13と詰め寄られるも、この35歳はピンチでこそ躍った。

 24―13としていた73分、左の区画を一気にえぐられる。

 一目散に戻ったスタンドオフのリッチー・モウンガが刺さる。後にハイタックルと判定されたこの動きは、ニュージーランド代表56キャップのこの人が必死にカバーしたからこそ生まれたとの見立てもあった。

 驚くべきは、そのモウンガの背後にはリーチが駆け付けていた。モウンガを弾いたスピアーズのランナーにクラッシュしていた。

 ここから14人で守ることとなるが、惜しくも失点するまでリーチは幾度も接点にチャレンジした。

 日本代表84キャップの国際的戦士。ラグビー選手の格好よさの何たるかを身をもって示したうえで、笑った。

「4戦目になり、調子は上がってきています。身体もフィットしてきて、いい感じに仕上がっています」

 記者会見を終えると、こうも残した。

「今年のリーグワン、面白いです」

 トップ選手の数が増えたのも手伝ってかプレーの強度が増し、当事者としてはもちろん観戦者としても楽しめるという。スピアーズ戦の前日は、埼玉・熊谷ラグビー場でのトヨタヴェルブリッツと埼玉パナソニックワイルドナイツの試合を「チームの皆で観た」という。

 ちなみに当該のゲームでは、ヴェブルリッツが自陣からのラン、またランにより19点リードで前半を終えるも、後半は一昨季まで国内2連覇のワイルドナイツがタックルの質、タックル後の起き上がりをはじめ複数項目を調整。ヴェルブリッツのチャンスを断つ流れで自分たちのチャンスを引き寄せ、43―27で締めた。

 ヴェルブリッツのアウトサイドセンターだったシオサイア・フィフィタは、「パナソニックは、いいチーム」と言葉を選んだ。

 グループとしての感度の高さを評したのだろう。さらに深掘りした。

「僕らは前半に勢いがあったから、後半も自陣からでもアタックした。それで、僕らのシェイプ(陣形)が崩れた時に、簡単なミスがあって。その時のパナソニックの反応が、速い。それで、まだセットできていない僕たちのディフェンスにアタックされて…。それがパナソニックの素晴らしさだと感じました」

 人に注目しても、組織に注目しても楽しめるのがラグビーだ。

リーグワン ディビジョン1 第4節 結果

埼玉パナソニックワイルドナイツ 43―27 トヨタヴェルブリッツ

リコーブラックラムズ東京 41―14 花園近鉄ライナーズ

東京サントリーサンゴリアス 44―36 コベルコ神戸スティーラーズ

三重ホンダヒート 13―62 静岡ブルーレヴズ

三菱重工相模原ダイナボアーズ 35―40 横浜キヤノンイーグルス

東芝ブレイブルーパス東京 24―20 クボタスピアーズ船橋・東京ベイ

(表記はホスト、ビジターの順)

リーグワン ディビジョン1 第4節 私的ベストフィフティーン

1,クレイグ・ミラー(埼玉パナソニックワイルドナイツ)…途中出場からスクラムとタックルで魅する。リザーブの堀江翔太、スターターの福井翔大らとともに防御の質を上げた。

2,堀越康介(東京サントリーサンゴリアス)…バッキングアップからのハードタックル。攻守逆転となるやパスをもらって突進。タフさを示した。

3,パディー・ライアン(リコーブラックラムズ東京)…スクラムで姿勢を保ち、プレッシャーをかけ、勝負の流れを傾けた。

4,ワーナー・ディアンズ(東芝ブレイブルーパス東京)…果敢なキックチェイス、チョークタックル。

5,ワイサケ・ララトゥブア(コベルコ神戸スティーラーズ)…突進、強烈なロータックルの連発で光る。モールでも芯をなす。

6,ピーターステフ・デュトイ(トヨタヴェルブリッツ)…豪快なラインブレイクなどで魅し、劣勢局面でも球出しを遅らせるチョークタックルを重ねた。

7,大戸裕矢(静岡ブルーレヴズ)…相手のミスを誘うタックル、モールでの奮闘。

8,サム・ケイン(東京サントリーサンゴリアス)…身体の軸がぶれないタックルの連発で復調をアピール。別会場で奮闘のリーチ マイケル(前述)との再戦が待たれる。

9,ファフ・デクラーク(横浜キヤノンイーグルス)…敵陣22メートルエリアに入るや落ち着き、かつ攻撃的にさばく。球を持ち出す折の最初の一歩が防御へ脅威を与える。

10,田村優(横浜キヤノンイーグルス)…自軍のミスと向こうの用意された攻めで圧倒された前半、コーナーへの絶妙なキックパスを重ねて局面の打開を図った。流れを手繰り寄せた。総じて防御ラインに近い位置に仕掛け、パスを回す。その周りに大きなチャンスができる。

11,木田晴斗(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)…キックチェイス、強靭な走りでスピアーズのエリア管理を最適化。フルバックにいたリアム・ウィリアムズも一時、悔やまれるエラーに泣くも、総じて多彩なキック、好カバー、ジャッカルで異彩を放った。

12,ナニ・ラウマペ(コベルコ神戸スティーラーズ)…強烈な突進、ジャッカル。

13,ジェシー・クリエル(横浜キヤノンイーグルス)…ダイナボアーズのワイドアタックをシャットアウトさせるタックル。相手の絶妙なキックをカバーしてからの好ラン。前半36分には防御を引き寄せながらのラストパス。

14,チェスリン・コルビ(東京サントリーサンゴリアス)…長距離を走って味方のキックを追いかけリーグワン初トライ。防御でも身体を張った。

15,アイザック・ルーカス(リコーブラックラムズ東京)…鋭いステップワークでトライを奪った。エリア獲得のロングキックも映えた。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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