業界キーマンが語り合う ポストコロナ時代ライブ復興のシナリオ「“負け”を認めて未来へ」
コロナ禍の昨年、大規模コンサートやイベントが開催できず市場の8割以上が消失する深刻なダメージを受けたライブエンタテインメント業界。感染者数はいまなお増減を繰り返すなか、業界団体トップであり、ライブシーンをけん引するキーマンである3人が『ライブ・エンターテイメントEXPO』にて一堂に会し、今年のシーンの復興シナリオ、ライブ業界の未来への道すじを示した。
登壇したのは、コンサートプロモーターズ協会・会長の中西健夫氏(ディスクガレージホールディングス・グループ代表)、日本音楽事業者協会・会長の堀義貴氏(ホリプロ・代表取締役社長)、日本音楽制作者連盟・理事長の野村達矢氏(ヒップランドミュージックコーポレーション・代表取締役社長)。それぞれからは、昨年の1年間でライブエンタテインメント従事者が陥った深刻な状況とともに、業界団体としてのこれまでの取り組み、いまだ先の見えぬ緊急事態の真っ只中に置かれている現況の厳しさ、シーンの未来へ向けた決意が語られた。
■ポストコロナ時代に求められる“エビデンスとやる気”
【中西】昨年のライブエンタテインメントは、劇的と言えるほどの売上減になりました。音楽に関しては前年比約88%減。それくらい落ち込みが激しい。その状況はいまもまだ続いています。政府のガイドラインに沿った考え方でいくと、大規模コンサートは成立しない。日本武道館など1万人くらいまでの公演でも利益はほとんど出ません。
【堀】昨年2月26日の首相の緊急会見以降、音楽や演劇は止まりました。それから1年、いろいろな産業が大変な思いをしているなかでも、完全に業務が停止したままなのは我々だけではないでしょうか。
現状でライブは、エンタテインメント全般において、やっても赤字、やらなくても赤字。それでも継続しないと雇用を守れない。感染対策を徹底しながらの公演でなんとか持ちこたえていますが、このままだともう持たないという状況まで追い込まれています。
ポストコロナのポストがいつになるのか。ワクチンが行き渡るまでには、1年はかかるでしょう。この先の1年間、この状況が続くことを前提に、できることを続けていくしかないという覚悟をしているのが実情です。
配信ライブが盛況とも言われていますが、そこで収益を上げているのはふだんのライブチケットが買えないような一部の限られたアーティストだけ。それ以外のアーティストはライブハウスから配信しても、コスト回収もままならないのが現実です。
【野村】未来に向けて希望を持てる明るい話をしないといけないが、現状は未来が見えていない。そんななかで希望になっているのは、コロナ禍のライブに来てくれるお客様が、大きな拍手で感動を表現してくれること。お客様はライブを待っていてくれている。楽しみにしてくれているんです。
ポストコロナの時代に必要なのは、“エビデンスとやる気”。それを起こさせるように社会が仕向けていかないといけない。みんなで自粛する時代が続くと、この先は1年も2年も持たない。ポストコロナでは、お客様が待っていてくれていることをまず信じて、“やらない”という選択をしない。“やるなかで考える”という選択をしていくべきです。
■いま立ち上がらなかったらポストコロナ時代のアジアで勝てない
【中西】感染リスクポイントは“場所”ではなく、“行動”です。それはエビデンスで証明されています。ただ、音楽ファン以外の多くの一般の人々にとって、いまは行動にいきつくまでの“動機”がない状況です。
いま業界は、“やるも地獄”のライブを開催していますが、そこではお客様の拍手が鳴り止まない。指先から感動が伝わってきます。ふと周りを見回すと涙を流しているお客様もたくさんいます。コロナ禍のライブは、日常のライブとは違う意味の大きな感動を生んでいる事実もあります。
【野村】最近、武道館のロックコンサートを観てきました。お客様は拍手だけで、自分たちはここにいてちゃんと聴いている、音楽は届いている、楽しんでいるという意思表示をしてくれる。美しい光景でした。お客様もルールを守らないとこの場所が失われることを自覚していて、ここを守るという気持ちがすごく表れています。たくさんの意識の高いお客様がいらっしゃることを目の当たりにして感動すら覚えます。
【堀】ライブがこれだけ厳しい状況になっていますが、エンタテインメント全般にひしひしと不況が押し寄せています。この1年間のエンタテインメントで誰が勝ったのかというと、動画配信サービスと韓国ドラマ。我々は負けたことを認めないと、この先の国際交流が再開されたときに負けっぱなしのままになる。
日本のエンタテインメント産業そのものがこの1年で大きなダメージを食らってダウン寸前になっているとしたら、いま立ち上がらなかったらこの先のポストコロナ時代のアジアで勝てない。そのくらいの危機感をもってこの先の5年、10年を考えていかないと未来はないと思います。
■不要不急論を一掃するくらいやり続けないといけない
【野村】世の中が暗くなるなかで、人々に元気を与えることができるのはエンタテインメントの力。経済的な満足だけでなく、人々が生活的な満足を得られるような状況を作っていかないといけない。文化の存続において、我々は重大な責任を負っている自覚を常に持っていないといけないでしょう。
【堀】エンタテインメントをやるにあたっては三段論法しかない。「おもしろいかおもしろくないか」「損か得か」「やるかやらないか」、この3つの方程式で物事を考えるようにしています。いままでは「おもしろいけれど損になるからやらない」という判断もありましたが、これからの数年は「損でもやらないといけない」とき。エンタテインメント不要不急論を一掃するくらいやり続けないといけない。
【中西】ニューヨークのブロードウェイの復活は明るい気分になれる。そういう言葉を日本の政治家からも欲しい。コロナで塞ぎがちな社会における人の気持ちの部分の回復は、エンタテインメントの得意分野ですから。ライブエンタテインメントは、いま苦悩しながらも少しずつ前に進んでいる状況。やるも地獄、やめるも地獄ですが、やるという選択をした人たちを温かく見守っていただきたいです。
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