右翼も左翼も関係ない!いまこそ出会ってほしい異端の政治活動家、鈴木邦男。その死を悼む
今年1月、政治活動家、鈴木邦男氏の訃報が伝えられた。各メディアが報じていたので、そのニュースに触れた人も多いのではないだろうか?
ご存知の方も多いと思うが、鈴木邦男は、新右翼団体『一水会』元顧問。ただ、時代が変化したのか、国家・政治が変わったのか、いつからか彼は左翼、右翼にとらわれない民族派リベラリストと呼ばれるようになっていた
それほど彼は右翼も左翼も関係ない、さまざまな立場の人間と交流をもち、さまざまな意見に耳を傾けた。
自分の主義主張だけを振りかざして、ほかの意見には一切耳を傾けない。そういう人物ではなかった。
いまから3年前に公開された中村真夕監督のドキュメンタリー映画「愛国者に気をつけろ!鈴木邦男」は、その鈴木の半生と人間性に迫った。
亡くなったいまとなっては、鈴木の晩年を知ることができる貴重な記録といえる。
そして、そこには、彼の「遺言」ともいうべき言葉の数々が収められている。
その残された言葉は、不誠実で不寛容ないまこそ響いてくるところがある。
追悼の声が集まりアンコール上映が決定した本作について、改めて中村真夕監督に訊く。(全四回)
鈴木氏本人の自宅でインタビューをできた理由
前回(第三回はこちら)に続いて、改めて「愛国者に気をつけろ!鈴木邦男」を振り返る。
作品の中で、ひとつ気になることがある。主軸となるインタビューを鈴木氏本人の自宅で行っていること。
これは当初から考えていたのだろうか?
「鈴木さんに取材を申し込むと、決まった喫茶店があって、そこで話をすることになると、事前に知人から知らされていました。
なので当初は、絶対、そこでのインタビューになるのかなと思っていました。
ただ、それだと予定調和で終わってしまう気がして。
きちんと場をセッティングして、きっちり質疑に応答してもらうというより、もっとリラックスした感じで話したかった。
鈴木さんのホームでもいいので、世間話をするような感じで対話をしたかった。まあ、赤報隊のこととか、結婚のこととか、手厳しい質問をするんですけど(苦笑)。
そこで、思い切って聞いてみたんです。『鈴木さんの自宅で(インタビューを)お願いできないか』と。
すると、『じゃあ、この編集者の方を連れてきて』と言われて。
一応、わたしが女性なので、二人きりはまずいだろうと配慮してくれて、その編集者の方を連れてきてくれたらいいよということで、OKしてくれたんです。
てっきり断られると思っていたんですけど、とりあえず言ってみるもので、あのようなご自宅でのインタビューになったんです」
鈴木さんが自宅でどんな生活を送って、
どんな感じで執筆しているかは知らなかった
この自宅でのインタビューもまた貴重な記録になったという。
「鈴木さんは、著書に自宅の住所を入れられていたことは有名。
ただ、実際に鈴木さんのご自宅に行ったことのある人というのは意外と少ないみたいで。
先日行われた、お別れ会のときに、『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』から映像を抜粋して10分ぐらいにまとめたものを、会場で流したんです。
その映像に、わたしが鈴木さんの自宅を訪ねるシーンを入れたんですけど、けっこう参加された方々が食い入ってみていました。
やはりご自宅を訪れたことがある人は限られていたみたいで『こんな質素な木造のワンルームアパートなんだ』とか、『こんな資料でいっぱいだったんだ』とか、興味深くみていらっしゃって。
映像に残しておいてよかったなと思いました。
公の場での鈴木さんは、みなさん知っている。でも、鈴木さんが自宅でどんな生活を送って、どんな感じで執筆しているかは知らなかった。
その姿を記録できて残せたのは良かったなといま思っています」
鈴木氏の自宅の風景がきちんと映っている唯一の映像かもしれないという。
「一度、某テレビ局が赤報隊についてききたいということで、ご自宅での取材になったと本人から聞きました。
ただ、基本的に背景にカーテンが映っているぐらい。自宅の様子がどうかはわからないような撮影だった。
そのことをご本人から聞いて、この機会に撮って残しておかないとと思って、通い続けたところもあります」
自宅の映像は、よく見ると鈴木氏の変化が映りこんでいる
実は、この自宅の映像は、よく見ると鈴木氏の変化が映りこんでいるという。
「そこまで明確に映し出されるわけではないので、気づかなくても仕方がないのですが、わたしが話を聞き始めて、1年ちょっとぐらいで、鈴木さんの生活状況が一変したんです。
最初は布団を押し入れから出して敷いていた。
でも、足腰がちょっと弱くなって介護ベッドが途中で導入された。
それから、はじめはなかったんですけど、家の玄関のところには手すりが設置されたんです。
そういったことが思い出されて……。
わたしとしては、自宅の変化をみるだけで、鈴木さんに最期が迫ってきていたんだなと、感じるところがあります」
鈴木さんにいまものすごく感謝しています
最後に、取材した日々をこう振り返る。
「鈴木さんには、人としての在り方を教えてもらったような気がします。
ほんとうにどんな人とも分け隔てなく接する方だった。
だから、鈴木さんのことを悪くいう人に会ったことがない。
政治思想が違う人も、その点は相反しても人としては認めているところがあった。
右も左も関係ない。誰とでも話し合うことができる。
わたしもそういったスタンスで人と向き合えたらと思っています。
なかなか鈴木さんのようにはなれないんですけど(苦笑)。
あと、鈴木さんにいまものすごく感謝しています。
鈴木さんにつないでいただいたおかげで、たぶん鈴木さんと出会っていなかったらまず出会わなかったであろう方々と出会うことができた。それぐらい貴重な出会いの機会を、鈴木さんにはいただきました。
そのご恩返しというわけではないですけど……。
今回の追悼上映で、鈴木さんのことをひとりでも多くの方に知っていただけたらなと思っています」
【「愛国者に気をつけろ!鈴木邦男」再上映 中村真夕監督第一回インタビュー】
【「愛国者に気をつけろ!鈴木邦男」再上映 中村真夕監督第二回インタビュー】
【「愛国者に気をつけろ!鈴木邦男」再上映 中村真夕監督第三回インタビュー】
「愛国者に気をつけろ!鈴木邦男」
監督:中村真夕
出演:鈴木邦男、雨宮処凛、蓮池透、足立正生、木村三浩、松本麗華、上祐史浩
公式サイト:http://kuniosuzuki.com/
下高井戸シネマにて6月16日まで上映中
写真はすべて(C)オンファロスピクチャーズ/シグロ