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右翼も左翼も敵も味方も関係なかった!異端の政治活動家、鈴木邦男の死を偲ぶ機会に

水上賢治映画ライター
「愛国者に気をつけろ!鈴木邦男」より

 今年1月、政治活動家、鈴木邦男氏の訃報が伝えられた。各メディアが報じていたので、そのニュースに触れた人も多いのではないだろうか?

 ご存知の方も多いと思うが、鈴木邦男は、新右翼団体『一水会』元顧問。ただ、時代が変化したのか、国家・政治が変わったのか、いつからか彼は左翼、右翼にとらわれない民族派リベラリストと呼ばれるようになっていた

 それほど彼は右翼も左翼も関係ない、さまざまな立場の人間と交流をもち、さまざまな意見に耳を傾けた。

 自分の主義主張だけを振りかざして、ほかの意見には一切耳を傾けない。そういう人物ではなかった。

 いまから3年前に公開された中村真夕監督のドキュメンタリー映画「愛国者に気をつけろ!鈴木邦男」は、その鈴木の半生と人間性に迫った。

 亡くなったいまとなっては、鈴木の晩年を知ることができる貴重な記録といえる。

 そして、そこには、彼の「遺言」ともいうべき言葉の数々が収められている。

 その残された言葉は、不誠実で不寛容ないまこそ響いてくるところがある。

 追悼の声が集まりアンコール上映が決定した本作について、改めて中村真夕監督に訊く。(全四回)

中村真夕監督
中村真夕監督

「ナオト」と「鈴木邦男」の不思議な縁

 以前のインタビュー(2020年のインタビューはこちら)で触れているが、中村監督が鈴木邦男氏の存在を知ったのはかなり前のこと。中村監督の父で詩人の正津勉氏と鈴木氏に昔から交流があり、直接話したことはなかったが顔は知っていた。

 実際にきちんと会って話す機会をもったのは、2015年に発表した「ナオトひとりっきり」の劇場公開。トークイベントでゲストに迎えたことで知り合い、そこから「愛国者に気をつけろ!鈴木邦男」へとつながっていく。

 つまりお互い面識をもったのは「ナオトひとりっきり」となる。

 そして、いま、中村監督は、「ナオトひとりっきり」の続編となる「劇場版 ナオト、いまもひとりっきり」が全国公開中。そこに「愛国者に気をつけろ!鈴木邦男」のアンコール上映も加わることになった。

 勝手ながら、不思議なめぐりあわせと思えてしまうところがあるが?

「そうですね。

 ある意味、わたしと鈴木さんを引き合わせてくれたのが『ナオトひとりっきり』で。

 そのひとつの区切りとなる『劇場版 ナオト、いまもひとりっきり』が公開されているときに、鈴木さんの追悼上映がこうして始まることになりました。

 そういえば、鈴木さんの訃報の知らせを最初に受けたときも、実はわたし、福島にいたんです。

 ちょうど『劇場版 ナオト、いまもひとりっきり』の公開が決まって、一度、ナオトさんと話そうと思った。

 ただ、ナオトさんは自由人なので、なかなか連絡がつかない(苦笑)。もう、直接いったほうがつかまると思って、福島に行ったんです。

 それで移動していて、もう間もなくナオトさんのご実家に着くとなったときに、知人の映画関係者から電話がかかってきた。

 出てみると、『鈴木さんが亡くなったのお聞きになりましたか』と。ナオトさんの家を訪ねる直前に『1月11日に亡くなってたそうです』と聞いたんですよね。

 そして、いまこうして『劇場版 ナオト、いまもひとりっきり』と、『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』が上映されている。

 なんだか不思議な縁を感じます」

「愛国者に気をつけろ!鈴木邦男」より
「愛国者に気をつけろ!鈴木邦男」より

手厳しい質問も必要じゃないかと思うんです

 いま改めて「愛国者に気をつけろ!鈴木邦男」をみると、中村監督がかなり手厳しい質問もしているように思える。

 インタビュー時、なにか意識したことはあったのだろうか?

「わたしはあまり周囲の空気を読める人間ではないので、ほかからするとちょっと躊躇うような質問もしちゃうんですよね。

 ただ、わたしの基本としてあるのは、『聞きたいことを聞く』というだけで。

 鈴木さんのことを知りたい、取材したいと思って撮影は始まったわけですけど、最初の段階で、わたしがめちゃくちゃ右翼に詳しいかというと実はそんなことはなかった。

 むしろ知らないから、知りたくて取材をはじめるようなスタンスなんです。

 今回の鈴木さんの取材だったら、まず鈴木さんのことを知りたい。そこで、まずご本人の著書を手にとった。

 本を読むと『新右翼』とはなんぞやという話からはじまって、鈴木さんにとっての大切な考えや大切な存在がみえてくる。

 その中でもっと知りたいことや掘り下げたいことが必ずでてくる。そのことを聞いていく感じなんです。

 ただ、そういう中には当然ですけど、ご本人にちょっと聞きずらい質問も出てくる。

 『気分を害されないかな?』とか、『怒られないかな』とか意識する質問がどうしたって出てくる。

 そういう質問は、相手の心をおもんぱかって聞かないでおくというのが、もしかしたら日本人的な配慮なのかもしれない。

 ただ、わたしは、そこは恐れずに聞いてみたい。

 たとえば、鈴木さんだったら、作品の中に出てきますけど、赤報隊の犯人のことは聞かれたくないと思うんです。

 案の定、明確なことは一切答えてくれなくて言葉を濁す。

 おそらく鈴木さん本人にとって嫌な質問だったと思います。

 ただ、確かに回答はないんですけど、質問をぶつけたことでみえてくることがある。

 『犯人を知っていますか?』という質問に対して、鈴木さんは『知らない』とは言わない。

 いろいろなことを考えるとめんどうなので、たとえ知っていても知らないとしらを切ってもいいと思うんです。

 でも、鈴木さんは『知らない』とは言わない。

 そこに人間性が現れている。嘘をつけない、どんな人に対しても誠実な対応をする鈴木さんらしい答えだなと思うんです。

 いまの政治家はすぐに『絶対ない』とか断言して、嘘がバレバレでその言葉をほとんど信用できないことが多々ある。

 説明するといって説明しないまま終わることがほとんど。

 でも、鈴木さんは答えられる範囲内で答えて、そこに嘘はない。

 そういうことが、みえてくる。

 だから、手厳しい質問も必要じゃないかと思うんです」

気を付けたのは、煙に巻かれないこと

 そういう質問をきちんと投げかけられるよう距離感は考えたという。

「作品を作る上では、信頼関係は必要です。

 今回の場合だったら、鈴木さんとわたしの間にきちんとした信頼が成り立っていないと、取材も撮影もうまくはいかない。

 ただ、適度な距離は必要で。

 親しくなりすぎてはダメ。仲良くなってしまうとどうしても甘くなってしまう。そうなると当たり障りのないように流れていってしまう。

 フィクションの監督と役者と同じで。変に仲が良くなると甘えが出て、変な妥協が生じてしまったりする。

 同じ方向に向かっていく同志でお互いに信頼はありつつも、ある程度の緊張感が保たれていないとダメなんですよね。

 だから、鈴木さんの撮影も同じで。距離はかなり考えて向き合いました。

 たぶん、仲良くなりすぎていたら、赤報隊のこととかはきけなかったと思います。

 あと、鈴木さんにお話を聞く上で、気を付けたことがひとつあります。

 それは、交わされないこと。

 鈴木さんは、いろいろなところに出向いて話していますし、あることについてコメントを求められることも多い。

 だから、いろいろと心得ていて、さきほどのようなちょっと本人にとって困った質問とか、かわすのがうまいんですよ。

 嘘は言わないんですけど、なんか気づくとちょっと煙に巻かれるようになるところがある。

 だから、どうかわられないで、そこをうまく突っ込んで食い込んで話を聞き出すのか、けっこう苦労しました。

 そこはかなり悪戦苦闘したところがあります」

(※第四回に続く)

【「愛国者に気をつけろ!鈴木邦男」再上映 中村真夕監督第一回インタビュー】

【「愛国者に気をつけろ!鈴木邦男」再上映 中村真夕監督第二回インタビュー】

【「愛国者に気をつけろ!鈴木邦男」2020年インタビュー】

「愛国者に気をつけろ!鈴木邦男」メインビジュアル
「愛国者に気をつけろ!鈴木邦男」メインビジュアル

「愛国者に気をつけろ!鈴木邦男」

監督:中村真夕

出演:鈴木邦男、雨宮処凛、蓮池透、足立正生、木村三浩、松本麗華、上祐史浩

公式サイト:http://kuniosuzuki.com/

下高井戸シネマにて6月16日まで上映中

写真はすべて(C)オンファロスピクチャーズ/シグロ

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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