ジャパンモビリティショーで注目される無人除雪ドローンは、まるでロボット除雪機だった!
2023年10月、東京モーターショー改め「ジャパンモビリティショー」が東京ビッグサイトで開催されています。それまで自動車ショーであった東京モーターショーは日本車メーカーで構成される「JAMA - 一般社団法人日本工業会」が主催し、日本車の販売促進や知名度向上を目的としたものでした。
初開催の1954年から約70年が経過、簡単にいえば、時代は変わってしまいました。日本マーケットの世界での立ち位置も変化していますし、さらにそこにコロナ禍という事情があり、2021年の開催はありませんでした。そこから2年経過して、4年ぶりに開催されたのが、今年の「ジャパンモビリティショー」だったわけです。
モーターショーからモビリティショーへ、自動車に限らず次世代モビリティも含めた様々な展示がある中、中でも注目すべきなのが「Startup Future Factory」です。なお、会場は西ホール2です。
Startup Future Factoryは、「今」を支えている事業会社と「未来」を支えるスタートアップとが手を取り「モビリティ産業を拡張・加速させる場」。そのために必要となる、資金調達・商談機会・PRと言った側面が展開されていました。つまりは、ここで、ブース展示やピッチコンテスト、ミートアップなどを通じて、VC(ベンチャーキャピタル)やアクセラレータの役目をこのジャパンモビリティショーで担おうというのが狙いであるわけです。展示会というのは、実際こういう用途もあるわけですが、これはこれまでのモーターショーではあまりなかった部分です。
例えば「岩谷技研」では気球による宇宙旅行を提案しており、その展示ブース「スタートアップストリート」では大きな気球、といっても展示用のモックアップで実際のサイズよりも小さなものが浮かんでおり、一際目を引いていました。
宇宙もあれば、海もあるのがこのスタートアップストリート。
なにしろモーターショーではなくて、モビリティショーですから、陸海空どれでもいいわけです。この点は、自工会会長の豊田章男氏も注目をしています。
また、エバーブルーテクノロジーズでは、帆船型ドローンや高機動型水上ドローンを展示していました。
さらに、今回初公開となる除雪ドローンのプロトタイプ展示もされていました。
水上ドローンを開発する会社が、なぜ陸上?しかも雪上で除雪するドローンを手がけたのか。代表と話をすることができ、いろいろと聞くことができました。
ーそもそもなぜ除雪ドローンを作ろうと思ったのですか?
エバーブルーテクノロジーズ 野間代表:話は昨年に遡ります。2022年、山形県酒田市での実証実験を東日本電信電話株式会社山形支店と共同で行いました。酒田市の沖合40kmの離島「飛島」へ無人帆走、島内の無人貨物輸送や密漁船見回り、海洋調査を無人の帆船型ドローンで行うものです。この時に立ち話で「次は草刈りドローンを作りたいんですよ」と私が話したところ「それよりも除雪をしてくれないか。草刈りは1度やると数ヶ月は生えてこないが、除雪は毎日の作業でとても大変なんだよ」とのことでした。
ー草刈りよりも除雪の方が毎日のことだから需要があるし、より切実だと
エ:雪かき経験がない私には目から鱗でした。なにせ実家は熊本で、すぐに草ぼうぼうになる地域ですから。草刈機の遠隔化や自動化は、すでに行われており、競合も多いマーケット。その点、除雪はまったくの未開拓の領域。それと目の前に潜在顧客がいるのがはっきりしているので、これは早速取り組まないとということでプロジェクトをスタートしました。
ーたしかに日本では除雪マーケットはありそうですね
エ:自治体でも除雪に対しては大きな予算を組んでいます。ただ、今回ターゲットにしているのは重機が入れないような狭い場所、つまりは私有地です。大型の重機を自動化するのは技術的にもハードルが高いうえ、法規制の問題もあります。そこで、まずは私有地から開始することにしました。そうなると自動的に小型の除雪機となりますが、人が操作する小型除雪機は調べると結構ありました。
ーまずは小型除雪機を自動化したんですか?
エ:市販の小型除雪機をハック(改造)して、まずは自動化実験を実施しました。するといくつか問題が分かったのです。
ーどんな問題ですか?
エ:オーガと呼ばれる雪を飛ばすものは、除雪能力は高いものの雪の飛ばす向きによっては近隣トラブルになりやすい。またパワーが必要なのでエンジン式となり、排気ガスや騒音の問題もあり、あまり自動化と相性がよくないことがわかりました。
ー確かに除雪のトラブルはたまに聞きますよね
エ:そのため雪を飛ばす向きを自動で制御するのは技術的難易度が高いことから、排土板式、つまりブルドーザーのように雪を押す方式に変えました。
ーしかしそれでは積雪が多いとパワー不足で押しきれないのでは?
エ:その通りです。そこでコンセプトチェンジをすることとしました。
ーなにを変えたんですか?
エ:「積もってから除雪」から「積もる前に掃く」です。通常雪かき、人間が行う場合は朝起きてから夜中降り積もった雪を除雪します。しかしドローンであれば、実質自動ロボットなので、夜中ずっと除雪しつづければ雪はたまりません。数センチの雪の段階で除雪すればパワーもそんなにいりません。
ーなるほど!だから「積もる前に掃く」なんですね。
エ:そうです。それにはやはり電動化は重要です。エンジン式のものでは夜中稼働するとうるさくて寝てられません(笑)。
・エバーブルーテクノロジーズ、無人自動除雪ドローンver.2を開発
ーこの無人自動除雪ドローンver.2プロトタイプの足回りは何を使っているのですか?
エ:今回スズキ株式会社の電動モビリティを使用しています。これは電動車椅子として元々開発され、そこから車椅子部分を外し、電動モビリティとして汎用化したものです。そのためこれまでの実績があり、品質や耐久性は折り紙付きです。
ー実績のある自動車メーカー製なら安心ですね。しかしクローラーじゃなくタイヤなんですね。ぱっと見、タイヤだと滑りそうですけど。
エ:それはよく言われます(笑)。ただ上から荷重がかかっているので、想像以上にトラクション(押す力)が高く、人と押し相撲したら圧勝します。ですから、人力よりも除雪できると考えています。あとはこの冬、北海道や山形県での実証実験で実際に自動除雪を行ってみてタイヤの種類変更やスパイク、チェーンの併用などを検討する予定です。
ー自動運転の制御部分はどうなっているのでしょう。
エ:制御についてはこれまで水上ドローンで使っていたオリジナル自動制御ユニット「eb-NAVIGATOR」をそのまま利用しています。またソフトウェアについてはこれまで使っていたオリジナルソフトウェア「eb-CONNECT」も利用可能ですが、現在除雪に特化したバージョンを開発中です。
ー除雪に特化とはどういうことなんですか?
エ:除雪エリアを指定したり、タイマー動作や、雪センサーと連動してのオンデマンド動作、またラジオコントロールなどを行うことができるものです。
ーまるでロボット掃除機のようですね。
エ:まさにその通りです。ロボット掃除機も散らかった部屋をいきなり掃除できず、ロボット掃除機が掃除できるようにある程度片付けて環境を整備して運用します。ロボット掃除機は小さくて薄く、吸引力が弱いですが、ちょっとした埃をずっと吸い続けているので実用的になっています。まさにこの除雪ドローンも同様の考え方です。
ーとはいえ、ロボット掃除機と違って、室外での稼働になりますよね。どっかに行ってしまったりしないんですか?
エ:位置測位にGPS、GNSSやQZSS(準天頂衛星みちびき)を使い、誤差数センチで制御していますので、ご安心ください。
ーそれは安心ですね。ところで、販売予定はありますか?
エ:この冬は実証実験をもとに仕様を検討し、来年度冬シーズンの商品化、市場導入を計画しています。すでに事業者や官公庁からの問い合わせも多く、手応えを感じています。
正直、ジャパンモビリティショーを見に行って、まさか自動で雪かきをしてくれる除雪ドローンのインタビューをすることになるとは思いませんでしたが、あたらしい取り組みを見るという意味では、実にわくわくする時間でした。
まだまだ実用化に向けて課題も残っているでしょうが、雪国では除雪機は生活必需品。少子高齢化が進み、過酷で危険な除雪作業の自動化、無人化は社会課題解決としても重要な技術と言っていいでしょう。
また、会場では海外からの訪問と思える人たちも注目しており、海外への展開も期待できそうです。
それもこれも、モーターショーではなく、モビリティショーになったからこそ見ることができるようになったわけです。たかが名前、されど名前。モビリティショーという名前になったからこそ展示されているものにも注目するのをおすすめしたいジャパンモビリティショー2023です。なお、会期は今週末の11月5日までなので、それまでにぜひ会場へどうぞ。