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実は教職員も任意加入のPTA 退会した先生の姿がもっと評価されたほうがいい理由

大塚玲子ライター
PTA退会・非加入を選んだ9人の先生に、経緯や方法を聞かせてもらいました(写真:アフロ)

 PTAは入退会自由な団体で、加入を義務付ける法的根拠はありません。以前は皆そのことを知らず、強制は当然と思われていましたが、「実はPTAは任意」と知られるようになり、ここ数年は退会や非加入を選ぶ保護者がだいぶ増えてきました。

 それだけではありません。最近は、学校の先生や職員さんたちのなかにもPTAのやり方に疑問を感じ、退会や非加入を選ぶ人が少しずつ増えています。

 PTAは「保護者(特に母親)の義務」という印象が強いですが、実は教職員も同様の面があります。先生や職員さんたちも同意がないまま会費を徴収されていることが多く、また学校によっては管理職だけでなく一般の先生たちにも活動強制が見られます。

 しかも一般の教職員は、PTAの本部役員になることができない(想定されていない)ので、「やり方を変えたい」と思ってもできることはほとんどありません。退会や非加入を選ぶことが、ほぼ唯一可能なアクションといえるでしょう。

 今回話を聞かせてもらったのは、実際にPTA退会や非加入を選んだ9人の先生たちです。誰に、どんな形で、それを伝えたのか? その後、何が起きたか? まずは、3人の先生の実例をお伝えしましょう。

*「家庭の事情で、無理なんです」と説明/U先生

 神奈川県の公立小学校に勤務するU先生(30代)がPTAを退会したのは、去年の春です。校内に置かれたPTAの「ご意見箱」に、PTA会長宛てで「退会届」を投函。「今年度からは加入しないので、口座からの会費引き落としを停止してください」と書き添えました。

 U先生は以前からPTAのやり方に多々疑問を感じていましたが、退会を決めた最大のきっかけは、コロナ禍で行われた「大抽選会」でした。多くのPTA活動が縮小・取りやめになるなか、余った予算を消化するために行われたようですが、なぜ返金せず無理に使うのか? 各種景品を取り揃えたこの抽選会にはさすがに違和感を拭えず、ついに「やめよう」と決心したのでした。

 数日後、校長先生に呼ばれて事情を聞かれたU先生は、「家庭の事情でPTAを退会することにしました。家のローンや子どもの教育費、自分や家族の医療費などがかさみ、会費を支払えません」と説明。

 校長はなんとか退会を思いとどまらせようと、いろんな口調で説得を試みてきましたが、U先生は「ごめんなさい」「無理なんです」「申し訳ありません」と繰り返し、数十分後にようやく校長室を退出。その後、会費の引き落としは止まったということです。

 なお、昨年度はPTAを退会したことを同僚たちには告げず、校務分掌で割り当てられたPTA活動をこなしていたそうですが、今年度は退会を周囲にオープンにすることも考えているそう。「教職員も必ずしもPTAに入らないといけないわけではない、ということを、ほかの先生や職員さんたちにも知ってもらいたい」と、U先生は話します。

*「同意を得ず会費を集めるのはおかしい」/G先生

 「最初にPTAを退会したのは、3年くらい前です」と話すのは、U先生と同じ神奈川県に住む、公立中学校の教員・G先生(30代)です。

 以前から「入会の同意を得ないまま、会費を集めるのはおかしい」と感じていたG先生は、3年前に現在の勤務校に着任した際、校長先生に考えを伝えることに。はっきりした返事はありませんでしたが、G先生は「入会に同意していないのだから、自分はPTAには入っていないし、会費を求められることはないだろう」と考えていました。

 ところが半年ほど経ったある朝、管理職の先生が「これから今年度のPTA会費を集めるので、学年主任に現金を渡してください」と全教職員に呼びかけたのです。会費を集めるなら先に同意をとってほしいと伝えたのに、なぜ? G先生は驚きましたが、やむなく学年主任にも、自分の考えを伝えることにしました。

 「PTAは任意で加入する団体なので、希望をとったうえで会費を集めるべきであり、それをせずに会費を徴収するのは筋が通らない」――学年主任にそう話したところ、幸い理解を得ることができ、管理職の先生には学年主任から話を通してくれることに。それからは、会費の支払いは求められなかったということです。

 「僕は部活動顧問の強制についても問題提起しているので、たぶん面倒なやつと思われて、PTAのほうはスルーされたのかもしれません(笑)」と、G先生は話します。

 その後、G先生は年度末の会議でも「PTAは任意で入る団体なので、入会の同意をとらないのはおかしい」と意見したそう。校長先生とは最後まで意見が折り合いませんでしたが、会議の後に廊下で「PTAって入らなくていいんですか!?」と尋ねてきた先生がいたとか。G先生の発言は、無駄にはならなかったようです。

*少額訴訟で2年分の会費の返金を受けた/T先生

 「4年前にPTAを退会した」と話すT先生(30代)は、関西の公立高校の教員です。

 最初の勤務校にはPTAがありませんでしたが、4年前に着任した高校にはPTAがあったため、T先生は教頭先生に「PTAへの加入は必須か?」と確認したところ「必須だ」と言われたそう。「規約を見せてほしい」と頼んだものの見せてもらえず、翌年も同じやりとりを繰り返すことに。この2年間、T先生の給与口座からはPTA会費が引き落とされていました。

 しかし、PTAはもともと任意加入の団体です。3年目、ようやく自分で入手したPTA規約にも「教職員が全員会員になる」とは書かれていないのを確認したT先生は、引き落とされた会費の返還を求め、少額訴訟を起こすことにしました。必須ではないものを「必須だ」と言った、教頭先生が相手です。

 裁判はすぐ終わりました。和解となり、T先生は2年分のPTA会費と、訴訟にかかった費用(収入印紙代)を受け取ることに。その後はもちろんPTA会費の引き落としは止まり、次に異動した現任校でも会費は引き落とされていないということです。

 なお、T先生がPTAについて最も「おかしい」と感じたのは、保護者に役員を無理強いすることでした。2校目では当初、管理職の指示に従って保護者の家に電話をかけ、役員を引き受けてくれるよう頼みましたが、一人の保護者が「絶対に嫌です」とこれを拒否。それまで2年連続で役員をやってくれていたのですが、その間に学校やPTAへの不信感を募らせる経験をしていたのでした。T先生は保護者の話に共感し、PTAをやめようと決意したそう。

 自分がPTAを退会したことは、「教員でも退会できるんだから、保護者もどうぞ退会してください、という意思表示でもある」とT先生は話します。

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 以上、3つの事例を紹介しましたが、ほか6人の先生たちもそれぞれの経緯ややり方で、PTA退会を実行していました。

<退会を決めた経緯>

・クラス役員決めの際、欠席した保護者の代わりにクジを引くよう求められ、PTA会長を引き当ててしまい、無理をお願いしなければならないことを辛く感じた。また休日にPTA活動として学校の草刈りを強要されたことにも違和感を抱いた。人権教育を担当する自分が「おかしい」と思うことにちゃんと声をあげなければ、生徒たちに顔向けできないと感じた(長野県・中学校教員・H先生)

・入学式のあと保護者を監禁状態にして行う役員決めなど、活動に疑問があった。意思確認ないまま外部団体に会費を徴収されている状態にも疑問をもった(関東地方・高校教員・E先生)

・それまで勤務した学校のPTAでは、教職員は会費の負担を求められることがなかったので、そうでないPTAがあることに逆に驚いた(関東地方・小学校教員・東和誠先生) 

・地元のP連(※PTAのネットワーク組織)が、特定の教職員組合とだけ協力関係を持っていることに反感があった(中部地方・小学校教員・I先生)

・給与からPTA会費を天引きされることや、勤務時間外にPTAの仕事をさせられることに疑問を感じていたところ、SNSや「#教師のバトン」で、教職員もPTAを退会できることを知った(東海地方・小学校教員・C先生)

<退会方法と、その後>

・校務分掌の希望用紙に「来年度はPTAへの加入を希望しません」と記入。校長との面談でも「公務員は感情論より法律順守を優先すべき」と主張した。ほかにも部活動顧問の強制や残業の問題等々を伝えたせいか、PTA退会は比較的あっさり認められた(長野県・中学校教員・H先生)

・学校事務職員さんに給与からのPTA会費天引きを止めるよう頼み、引き落としは止まった。管理職に呼ばれることはなかった。キャリアが長いことや普段からモノ言う教員であること、組合員であることなども影響したかもしれない(関東地方・高校教員・E先生)

・校長と話した際「PTAは任意ですよね?」と確認し、「申し訳ないですが入りません」と口頭で伝えたところ、そのまま受け入れられた(関東地方・小学校教員・東和誠先生) 

・教頭からPTA会費を集金する封筒を渡された際、「加入しません」と口頭で伝えた。「わかりました」と言われた(関東地方・中学校教員・B先生)

 総合してみると、PTA退会・非加入を選んだ先生たちは、普段から「おかしい」と思ったことを「おかしい」と指摘できるタイプの先生たちのようでした。

 なかには、校長先生に退会を伝えたものの拒否され、閉鎖的な土地柄も考慮して退会を見送らざるを得なかった先生もいましたが、筆者が話を聞けた先生たちの多くは信念を曲げず、なんとか退会を貫いたようです。

 読者のなかには「先生がPTAをやめるなんて!」と眉をひそめる方もいるかもしれませんが、「おかしい」と思うことにただ黙って従う先生たちに子どもたちを託すことのほうが、ずっと心配だと筆者は感じます。

 「おかしい」と思ったことを「おかしい」と言える先生は、おそらく学校現場ではまだまだ少数派でしょう。それでもゼロではないことを、筆者はありがたいと感じました。こういう先生が子どもたちの近くにいてくれたら、社会は少しずつ良い方向に変わっていけそうです。

 保護者も教職員も、納得いかないことには「NO」と言い、現状を少しでも変えていく。そういった姿を、これからの社会を担う子どもたちに見せていきたいと感じます。

ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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