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拳銃タクシー強盗が発生 「走る密室の恐怖」をどう回避するか

小宮信夫立正大学教授(犯罪学)/社会学博士
(写真:アフロ)

先月末、埼玉県川口市で強盗殺人未遂事件が起きた。現場は路上に停車したタクシーの車内。停車後、容疑者は「金を出せ」と脅し、後部座席から運転手に向け、拳銃を発砲した。それにより、運転手は臓器損傷による4週間の重傷を負う。

容疑者は現場から逃走したが、県警は、ほどなくしてJR大宮駅で容疑者を発見。強盗殺人未遂容疑で逮捕した。

タクシーを狙った強盗は、これまでにもたびたび発生している。犯罪白書によると、タクシー強盗は、毎年100件近く起きているという。富士市や鳥取市など、未解決のままのタクシー強盗殺人事件もある。

こうした犯罪を防ぐにはどうしたらいいか――。それには「犯罪機会論」が有効である。

「犯罪原因論」が犯人の動機に注目するのに対し、「犯罪機会論」は犯罪が起きる場所に注目する。防犯にとって重要なのは、見ただけでは分からない「危険な不審者」ではなく、見ただけで分かる「危険な場所」というわけだ。

長年にわたる「犯罪機会論」の研究から、犯罪が起きやすいのは「入りやすく見えにくい場所」であることが、すでに分かっている。

したがって、犯罪を防ぐには、場所を「入りにくい場所」と「見えやすい場所」にすることが必要だ。いわゆるゾーン・ディフェンスである。

もっとも、タクシーがサービス業である以上、車体自体を「入りにくく見えやすい場所」にすることはできない。であれば、運転席を「入りにくく見えやすい場所」にすればいい。

まず、運転席をパーテーションで仕切る(透明な仕切り板を設ける)。そうすれば、「入りにくい場所」になる。ニューヨークやロンドンでは、防弾ガラス仕様のパーテーションが普通だ(写真参照)。

ニューヨークのタクシー(筆者撮影)
ニューヨークのタクシー(筆者撮影)

ロンドンのタクシー(筆者撮影)
ロンドンのタクシー(筆者撮影)

支払いは電子マネーやクレジットカードを使えば、運転手が乗客と接触する必要はない。現金払いを希望する乗客に対しても、小窓で対応すれば、刃物は使えないし、銃口を向けることも難しい。ただし、日本で普及している程度のパーテーションでは、横腹を刺すことができ、今回の事件のように、拳銃で腹部を撃つのも容易だ。

現代のようにデジタル・トランスフォーメーションが進展する前、欧米では、降車した乗客が助手席の窓越しに支払うことも多かった。これも運転席を「入りにくい場所」にする手法だ。もちろん、窓は全開ではなく半開の方が、より「入りにくい場所」になる。

さらに、この方法はタクシーを「見えやすい場所」にすることでもある。なぜなら、衆人環視の中で支払いが行われるからだ。

ドライブレコーダー(車載カメラ)で車内を撮影するのも、「見えやすい場所」にする手法だ。ただし、乗客に「監視カメラ」の存在を気づかせなければ抑止力にはならない。レコーダー(録画機)なので、乗客が気づかなくても「捜査カメラ」にはなるが、気づかなければ「防犯カメラ」にはならない。

例えば、イギリスでは巨大なポスターが電車内に掲示され、「監視カメラ」の存在をアピールしている(写真参照)。乗務員に暴力を振るった者は、「監視カメラ」を利用して起訴されるというメッセージ、強烈な警告である。

イギリスの電車内ポスター(筆者撮影)
イギリスの電車内ポスター(筆者撮影)

ロンドンのタクシーでも、「監視カメラ」の存在をしっかりアピールしている。前掲の写真で、パーテーションの左上に見える標示が下記のものだ。全国共通のピクトグラムなので、字を読めなくても、メッセージは伝わる。

ロンドンのタクシー(筆者撮影)
ロンドンのタクシー(筆者撮影)

タクシー会社にとって、運転手を守るためにやれることは、まだたくさんある。そのための第一歩が、「犯罪機会論」をよく知ることだ。「機会なければ犯罪なし」、そして「憂いなければ備えなし、備えあれば憂いなし」である。

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士

日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ――遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

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