静岡豪雨災害から2ヶ月以上が経過 しかし、道路も旅館も土砂に埋もれたままの地域がある 温泉宿の苦悩
今年9月24日未明に発生した台風15号による豪雨災害。静岡県各地に断水や浸水、土砂崩れによる被害をもたらした。
あれから2ヶ月以上が経過。中心地では日常を取り戻しつつあるが、実は、今も復旧の目処さえ立っていない深刻な被害に悩まされている地域がある。
JR静岡駅から車で約30分。静岡市葵区の山間、油山温泉。
あの日、山の斜面が崩落し土石流が発生、油山川が決壊して、下流の温泉宿は土砂や流木、濁流に襲われた。
半世紀以上続く温泉宿「油山温泉元湯館」の3代目、海野博揮さんは猛烈な勢いで茶色い水が窓を突き破って旅館の室内に流れ込んでくる様子をスマートフォンで撮影し映像に残した。
「とにかくお客さまの安全を確保し、救助を求めなくてはいけませんでした。役場の人とは携帯電話で繋がっていたものの、深刻な様子は伝わりきっていませんでした。映像として記録に収め、SNSに投稿して必死に窮状を知らせるしかありませんでした」
海野さんの旅館の隣には自宅がある。そこには、中学生と小学生の子どもが父と母の帰りを待っていた。
海野さん夫妻は、宿泊客の安全を確保しながら、自らの家族を守るためにも行動しなくてはいけなかった。
濁流に襲われる中、夫婦は手を握り合い、その泥水の中を腰まで浸かりながらなんとか自宅に戻った。子どもたちのもとに帰りそして再び、旅館に。夫婦は力をあわせて宿泊客のケアにあたった。
海野さんたちの責任ある行動が効いたのか誰1人、怪我をしたり命を失ったりすることはなかった。
大変なミッションを海野さん夫妻はやり遂げた。
しかし、あれから2ヶ月。夫妻の苦悩は今も尽きない。
12月2日、現場を訪ねた。
温泉郷に差し掛かると、アスファルトの道路は茶色く変わり、砂利道はやがて大きな岩や流木に覆われた土砂に変わった。
道路沿いには、破壊され基礎や柱が剥き出しになった木造の建物などが連なっていた。
何台か重機が現場に入り作業を続けていたが、目の前に広がる景色は土石流災害が発生した直後と印象が変わらない。
実は、私が現場を訪ねる数日前、この地域でも集中的な大雨に見舞われていた。それによって新たな土石流が発生。約2ヶ月かけて復旧させた道路はほぼ全てが土砂に埋まってしまい、この間の努力は水泡にきしてしまった。
海野さんは、目の前で土砂に埋まった油山川を指差しながら苦しい胸のうちを聞かせてくれた。
「ここからさらに上流に1キロから2キロ行ったところの山が崩落しています。雨が降るとそこから大量の土砂が流れ出て、再びここに被害をもたらしてしまいます。市から委託を受けた土木業者が一生懸命、旅館の目の前の道路を修繕し、川を掘って水が溢れ出ることがないよう作業を続けてくれていますが、結局、大元の原因が改善されない限り、また同じことが起きてしまいます。来年の梅雨までにはなんとかしたいと土木事業者側は語っていますが、正直、現場の実感としては復旧の目処を感じられない状況です」
海野さんの旅館の室内は、今も雨が降ると川から溢れた泥水の通り道になってしまっている。土砂を取り除くこともままならず、宿の再開は見通しが利かない状況だ。
発災から2ヶ月以上経った今も、この現場はまるでなかったかのように手薄い支援しかない。
それでも、海野さんは言う。
「応援してくださっている方の期待に応えたいと思っています。今は私がたまたま旅館の運営をしてきましたが、元々は湯治場。歴史がある温泉地です。ここを楽しみに通ってくださるお客様もいます。そうした方々の期待に応えたい。私が諦めさえしなければまだまだチャンスがあります。だからこそ、時間が必要だと思っています。少し待っていただきながら、応援していただけたら嬉しいです」
正直、現場の深刻な被害を目の当たりにすると、私も「自治体は何をやっているんだ」、「国が介入しないと解決しないほどの被害じゃないか」と憤ってしまう気持ちもある。
災害発生から2ヶ月以上が経った今も、復旧の目処さえつかない現場への違和感は、多くの人たちと共有したい。
そして、声を上げたい。
一刻も早く、対処してもらいたい。もう見て見ぬふりはできない。