北朝鮮の「新型地対地中長距離弾道ミサイル」と火星12の違い
10月10日、北朝鮮が9月25日~10月9日に12発を発射したミサイルを纏めて公式報告しました。その中に「ダム湖からSLBMを水中発射」という世界初の新兵器が紹介されていましたが、それ以外にも謎の多いミサイルの映像が登場しています。
新型地対地中長距離弾道ミサイル
10月4日に発射された中距離弾道ミサイルは日本列島を飛び越えましたが、飛行性能が以前から分析されていた中距離弾道ミサイル「火星12」と合致していました。今回公開された発表写真からも大きさや発射車両などの目立った特徴は火星12と同じです。しかし北朝鮮は「新型地対地中長距離弾道ミサイル」と呼称しています。
ミサイル呼称の比較
- 2022年10月10日発表(10月4日発射ミサイル)
신형지상대지상중장거리탄도미싸일
新型地対地中長距離弾道ミサイル
- 2022年1月31日発表(1月30日発射ミサイル)
지상대지상중장거리탄도미싸일 《화성-12》
地対地中長距離弾道ミサイル「火星-12」
- 2017年初発射当時の呼称
지상대지상중장거리탄도로케트 《화성-12》
地対地中長距離弾道ロケット「火星-12」
北朝鮮は以前はミサイルとロケットを一纏めに呼ぶロシア式の軍事用語を採用して「弾道ロケット」と呼称していましたが、最近になって「弾道ミサイル」と用語を変更しています。その点は今回の発表でも引き継がれていますが、これまで「火星12」と呼称していたミサイルの名称を言わずに「新型」であると主張しています。では完全に新型の中距離弾道ミサイルが登場したのでしょうか?
関連記事:火星12中距離弾道ミサイルを検収射撃試験、北朝鮮~ロケットからミサイルへ~軍事用語の変化(2022年1月31日)
ミサイル形状と構造の比較
- ミサイルの大きさは火星12と同じ
- 発射車両は6軸12輪で火星12と同じ
- 液体燃料ロケットで火星12と同じ
- 弾頭形状が少し異なる
- 姿勢制御用のバーニア・スラスターが確認できない
ミサイルの大きさと発射車両は同じ
10月4日発射の「新型地対地中長距離弾道ミサイル」と「火星12」のミサイルの大きさは同一で、発射車両も6軸12輪の同型です。ただし弾頭形状が若干異なるようにも見えます。これだけなら火星12の小改良型と推定できるのですが・・・
バーニア・スラスターが確認できない謎
火星12には主ロケットの脇に4つ装着されていた姿勢制御用のバーニア・スラスターがありましたが、10月4日発射の「新型地対地中長距離弾道ミサイル」には見当たりません。それどころか操作翼もジェットベーンも推力偏向ノズルの機構も見当たりません。一体どうやって姿勢制御しているのでしょうか? 分岐した排気ガスを主ロケットの排気ガスに横から当てて制御しているのでしょうか?
突然に液体燃料ロケットエンジンの形式を変更したのは驚きです。北朝鮮の公式発表には文章に詳しい説明が無く、発表写真もこれだけでは正体がはっきりしません。
「新型地対地中長距離弾道ミサイル」は火星12の改良型なのでしょうか? それとも別の名前が与えられた新型なのでしょうか? あるいは情報攪乱を目的とした加工写真の可能性も否定できません。ただし根拠がありません。
今後の分析研究の進展や北朝鮮の新たな発表があれば、また新しい事実が判明するかもしれません。