火星12中距離弾道ミサイルを検収射撃試験、北朝鮮~ロケットからミサイルへ~軍事用語の変化
2022年1月31日、北朝鮮は昨日発射したミサイルの写真を公開しました。発射されたのは中距離弾道ミサイル「火星12」で、単純に発射するだけでなく弾頭にオンボードカメラを仕込み地球を撮影するという派手なパフォーマンスを行っています。
なお北朝鮮は過去にも何度か衛星打ち上げロケットや弾道ミサイルにオンボードカメラを仕込み地球の撮影を行っていますので、珍しい行為ではありません。
- 2022年1月30日・・・高度2000km、距離800km、約30分 火星12
- 2017年5月14日・・・高度2111km、距離787km、約30分 火星12
最大高度2000km・水平距離800kmのロフテッド軌道で飛行した火星12は、通常軌道(最小エネルギー軌道)で発射した場合は5000km近く飛行することが可能な中距離弾道ミサイル(IRBM)です。
北朝鮮がこれから更に事態をエスカレートさせて大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射を再開すれば、新たなミサイル危機が訪れる可能性が高まるでしょう。
関連:北朝鮮が中距離弾道ミサイルをロフテッド軌道で発射か(2022年1月30日)
検収射撃試験(검수사격시험)
今回の火星12の発射の目的は「検収射撃試験(검수사격시험)」とあり、今年1月17日に発射された北朝鮮版ATACMSと同じ説明がされています。
「検収射撃試験」について北朝鮮版ATACMSの際は固体燃料ロケットモーターの性能確認試験(統計的な品質検査試験)と推定していましたが、液体燃料ロケットエンジンの火星12でも同じ「検収射撃試験」という言葉を使っていることから、実際には燃料の形式に関係無く、生産済みのミサイルの正確性と安全性、運用効果性を確認する目的の試験だったということが判明しました。
また火星12と同系統の液体燃料ロケットエンジンを用いている「火星8」「極超音速ミサイル」の試験では言及されていた液体燃料の「アンプル(암풀)」化という技術については、今回の火星12の試験では言及がありませんでした。
ロケット(로케트)からミサイル(미싸일)へ
今回の北朝鮮の公式発表では火星12のことを「弾道ミサイル(탄도미싸일)」と呼称しています。
지상대지상중장거리탄도미싸일 《화성-12》
地対地中長距離弾道ミサイル「火星-12」
ただし火星12が初めて試験発射された2017年当時には「弾道ロケット(탄도로케트 )」と呼称されていました。
지상대지상중장거리탄도로케트 《화성-12》
地対地中長距離弾道ロケット「火星-12」
ミサイルとロケットを一纏めにロケットと呼称するのはロシア語の用法です。北朝鮮はこれまではロシアから導入した技術の影響でミサイルをロケットと呼ぶことが多かったのですが(2021年1月9日発表の党大会報告ではまだ「大陸間弾道ロケット(대륙간탄도로케트)」という記述がある)、最近ではミサイルという言葉を使用する機会が増えてきたように思われます。
これまで北朝鮮の軍事用語はロシア式が主でアメリカ式が一部に交じっている傾向がありましたが(なお中国式はあまり見受けられない)、今後は北朝鮮軍の間でミサイルという呼称でなるべく統一されるのではないでしょうか。ただし「誘導弾(유도탄)」という呼称の方は併用されて残るでしょう。
ただし弾頭を指して「戦闘部(전투부)」と呼ぶ、ロシア軍事用語「戦闘ブロック(Боевой блок)」の影響が強い言葉を今回の火星12検収射撃試験の公式発表でも使っているように、ロシア式の軍事用語を全て改めるというわけではないようです。
ロケット・ミサイル、北朝鮮と韓国で発音の若干の違い
로케트(ロケットゥ: 北朝鮮式) 로켓(ロケッ: 韓国式)
미싸일(ミッサイル: 北朝鮮式) 미사일(ミサイル: 韓国式)
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