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仮想通貨がメディアを変える?

岡田有花フリーランス記者
(写真:ロイター/アフロ)

 仮想通貨の話題が盛り上がっている。代表的な仮想通貨「ビットコイン」が10月13日に60万円を突破。1月からの10カ月で約6倍にまで高騰した。

 日々の値動きが報じられ、投機対象として話題になることが多い仮想通貨だが、その可能性は投機だけではない。仮想通貨は、メディアを変える可能性も秘めている。

 仮想通貨は、広告などに代わるメディアの新たな収益手段として期待されており、仮想通貨ならではの仕組みを応用した試みが始まっているのだ。

広告の代わりに、あなたの計算能力貸して 「Coinhive」

 「多くのWebサイトには、押しつけがましくて邪魔な広告が表示されている。その代替手段を提供することが、われわれのゴールだ」――こんな目標を掲げているのは、仮想通貨を使ったメディア向けの収益プラットフォーム「Coinhive」の開発チームだ。

Coinhive
Coinhive

 Coinhiveは、サイトの運営者が、閲覧した人に広告を見せる代わりに、仮想通貨「Monero」(モネロ)を「採掘」させ、その収益を受け取れるサービス。有志の開発チームにより開発されており、9月14日に公開された。

※「仮想通貨の採掘」とは:仮想通貨は、「ブロックチェーン」と呼ばれるネット上の取引台帳に、取引を次々に追記する仕組みでデータの改ざんを防いでいるが、この追記作業には膨大な計算能力が必要。計算能力を提供し、追記に成功したユーザーには、報酬として仮想通貨が支払われる。仮想通貨の取引の整合性をチェックするために、コンピュータの計算能力を提供し、報酬を得ることを、仮想通貨の採掘(マイニング)と呼ぶ。

 Coinhiveを導入したサイトを閲覧すると、閲覧者のPCの計算能力を使い、仮想通貨の採掘が始まる。閲覧者がそのサイトを見ている間じゅう仮想通貨が採掘されるため、長く閲覧されるサイトほど多くの仮想通貨が掘り出され、運営者の利益も高まる――というわけだ。動画サイトやオンラインゲームなど、ユーザーの滞在時間が長いメディアに向いている、などと期待されている。

 課題も多い。Coinhiveを導入したサイトを閲覧すると、PCにかなりの負担がかかる。閲覧者のPCの計算能力を、サイト閲覧だけでなく、仮想通貨採掘にも使っているのだから当然だ。しかも、初期設定では、端末の計算能力のほとんどを使ってしまう仕様になっており、「サイトにアクセスしただけでスマホがフリーズした」なんて事態も起き得る。

 閲覧者に無断で導入できてしまうことも大きな問題で、「ユーザーの計算能力を勝手に使うマルウェア(悪意のあるソフト)でしかない」という批判も強い。Coinhiveをユーザーに黙って導入したサイトは軒並み批判を浴びており、多くの広告ブロッカーがCoinhiveをブロックしているほか、一部のアンチウイルスソフトにもブロックされている状態だ。導入サイトも、違法コンテンツを流通させる“アングラサイト”が多く、健全に発展しているとは言いがたい。

 こういった事態を受けて開発チームは、サイト閲覧者が明示的にOKした場合のみCoinhiveを走らせるオプトインの仕組みを必須にするなど、ユーザーの迷惑にならないよう対応を進めていくという。「われわれのサービスの可能性は非常に大きいと考えているが、エンドユーザーには敬意を払わなければならない」としている。

「良い記事」に仮想通貨で報酬がもらえる「Steem」

 2016年に米国でスタートした「Steem」も、仮想通貨を使ってメディアのあり方を変えようとする試みだ。

Steem
Steem

 読者の評価を集めた記事に、報酬として仮想通貨「Steem」が支払われる。記事の書き手だけではなく、記事を評価したユーザーにも報酬が配分されるため、評価が高い記事を書く人や、評価が高まる記事を発掘した読者が、直接利益を得られるのだ。

 「FacebookやTwitterなど巨大SNSは、ユーザーの投稿によって成り立っているにも関わらず、プラットフォーム運営企業の株主に利益が渡る」――そんな現状を問題視し、「SNSに貢献したユーザーに、報酬のほとんどを返す」新たな仕組みとして構築したという。

 Steemを手本にした新メディアが、日本にも登場しつつある。日本のベンチャー企業が2018年4月にスタート予定の「ALIS」だ。読者が「良い」と思った記事を評価すると、書き手に独自のコイン「ALISトークン」が配布されるほか、良いと認められた記事をいち早く評価した人にもトークンが配られる。仮想通貨を使った資金調達「ICO」(Initial Coin Offering)を成功させ、4.3億円を調達したことでも話題になった。また、同様な仕組みで、ゲームメディアを設立する企画も、国内で立ち上がっているようだ。

広告モデルの限界と、仮想通貨による「その先」

 ネットメディアはこれまで主に、広告収益で成り立ってきた。ただ、広告料を稼ぐために、話題になりやすい偽ニュースを拡散させる「フェイクニュース」問題や、広告費を受け取っているのに、それと明記せずに宣伝記事を書く「ステマ」が問題になるなど、広告モデルの限界も見えつつある。

 そんな中で現れた、仮想通貨を使ったメディアの新たなビジネスモデル。広告に代わる新たなスタンダードになれるのか。チャレンジはまだ始まったばかりだ。

フリーランス記者

1978年生まれ。京都大学卒。IT系ニュースサイト記者、Webベンチャーを経て、IT・Web分野を軸に幅広く取材、執筆するフリーランス記者。著書に「ネットで人生、変わりましたか」(ソフトバンククリエイティブ)。

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