東京都台東区/上野・東京都美術館「いのちをうつす」展で、戦前~現代の「熱視線」な動物アートが大集合!
今回は東京都美術館で開催中の展覧会「いのちをうつす ―菌類、植物、動物、人間」をご紹介。
上野恩賜公園は、都内で最も身近に「いのち」に触れられる場所のひとつです。公園自体の豊かな緑に加え、不忍池周辺の野鳥、上野動物園のアニマル達、科学博物館の動物関連展示など、動植物について知れる&近づけるスポットが盛りだくさん。
そんな上野公園の一角にあたる東京都美術館で、展覧会「いのちをうつす ―菌類、植物、動物、人間」が開催中。その題のとおり、いのち≒動植物を、古今のクリエイター達が美術作品としてどう写し取ってきたか、その在り方を見せます。
◆時代を超えた6人のクリエイター&動植物の共演
動物や植物という題材そのものは、美術のテーマとしては非常にポピュラーなものです。そのなかでの本展の特徴は、作品のつくり手達が特定の「いのち」「いきもの」へ熱い情熱を傾けていること。数十年以上にわたって一つのいきものを追いかけ続けてきた、戦前〜現代までのクリエイター6人の絵画、立体、写真を展示しています。
展示作品はどれも、対象を深く観察して精密精緻に写し取る方法で作られています。作り手の芸術性や情熱の感じられるアート作品としての側面と、動植物の生きた姿の学術的記録としての側面の、その両方から楽しめますよ。
小林路子(こばやし みちこ)さんの展示はキノコの細密画。
偶然の出会いからキノコの生態に引き寄せられ、都会や山林など様々な場所にニョキニョキ伸びる、個性的なキノコ達の姿を精密精緻に描いています。
キャプションでは小林路子さん自身が食用か否か、毒性の有無、トリビアや小話を解説していて、見ても読んでも楽しい構成。「うわぁ…こんな外見のキノコがあるの!?」「エッ!?この見た目で食べられるの!?美味しいのかな!?」とビックリするものもあります。
こちらは日本バードカービング協会会長・内山春雄(うちやま はるお)さんの展示。
アホウドリや、日本の国鳥であるトキなど、リアルで生命感のある鳥の彫刻が立ち並んでいます。内山春雄さんは国内のバードカービング文化の浸透に多大な貢献をされた方です。
明治~昭和の美術界で活躍された辻永(つじ ひさし)さんの作品は草花の写生画。
野山に入り込んで描いたものから、街中や自宅庭先のものまで被写体は様々。いずれも繊細かつ柔らかい筆致で、どういう環境で生育していたのかを想像させてくれます。
戦時中、日本に併合されていた台湾・台北植物園で写生されたものなどもあり、描かれた当時の時代性が感じられます。植物には国籍も国境もありません。草花の生き方に、今のような時代だからこそ、私たち人類が学ぶべき所は多いのかもしれないですね。
今井壽惠(いまい ひさえ)さんの作品は、サラブレッド馬の姿を撮った写真の数々。
牧場や競馬場などで馬体を写真に収めることに、今井壽惠さんは文字通り半生を捧げました。写真の中のサラブレッド達はしなやかで力強く、堂々として躍動的でありながら、時にはどこか詩的で淡々とした雰囲気をもまとっています。
中にはトウカイテイオーやスペシャルウィークなど競馬史に残る名馬の写真もあり、競馬ファンに加えて「ウマ娘」ファンでも見所が多そう。
冨田美穂(とみた みほ)さんの作品は、北海道の酪農家で飼育される乳牛の姿を木版画で起こしたもの。
大学在学中に牧場の牛に魅せられ、それから酪農業と兼業で創作活動を続けられているとのことです。
ほぼ原寸大の作品もあり、結構な迫力。経済動物として番号管理され、飼育・消費されていく乳牛達にも宿る「個性」「感情」が浮き彫りになっているようで考えさせられます。
国内外の動物園や野生でのゴリラを追いかけている阿部知暁(あべ ちさと)さんの作品は、そのゴリラの絵画の数々。
ゴリラの風貌は威厳や迫力のほか、ユーモラスさやキュートさも感じさせてくれます。
◆上野らしいインタラクティブ展示も。「古代の野鳥の鳴き声」とは…?
最後のコーナーでは、前述の内山春雄さんが制作した野鳥の「タッチカービング」39点が展示。
こちらは視覚に障害を持つ方が鳥の形を知ることができるように、実際に触って野鳥の大きさや羽のざらつきを実感できるコーナー。なお、触ることは障害の有無に関わらず、どなたでもOKです。
スタッフの方にツールを借りて、カービング横の穴に差し込めば野鳥の声も聞けちゃいます。さながら野鳥の森に入ったような、こういうインタラクティブな展示があるのも、美術館に加えて博物館も多い上野ならではですね。
中生代末期にあたる6670万年前に生きていた、現生鳥類としては世界最古の「ワンダーチキン(アステリオルニス)」も展示されていました。
先述のツールを使って、この鳥さんの鳴き声を聞こうとすると…??その先は現地へ実際に行って、確かめてみてください!
「いのちをうつす ―菌類、植物、動物、人間」の展示作品で表現される動物や植物は、どれも装飾や誇張を排して、徹底したリアルタッチで描写されています。それが私にはクリエイターさん達の、対象となる動植物への真っ直ぐで真摯な姿勢のようにも感じられました。
「この作者は対象の動植物にどんな思いを抱いているのか?」「対象になった動植物は、その後どうなったのか?」など、色々なことを想像させてくれる展示です。
◆隣接する「動物園にて」展も上野らしい内容でオススメ
なお、「いのちをうつす」展と連動して、コレクション展「動物園にて —東京都コレクションを中心に」も開催中。こちらは観覧無料です。
明治以降〜現代における日本の動物園の成り立ち〜変化を、絵画、記録、写真等を通じて紹介しています。日本最古の動物園である上野動物園に程近い、東京都美術館らしい展示で、こちらもオススメです。
「上野アーティストプロジェクト2023 いのちをうつす ―菌類、植物、動物、人間」
【会場】
東京都美術館 ギャラリーA・C
【住所】
東京都台東区上野公園8-36
【最寄駅】
JR上野駅・公園改札より徒歩7分
【会期】
2023年11月16日(木)~2024年1月8日(月・祝)
【休室日】
2023年11月20日(月)、12月4日(月)、12月18日(月)
12月21日(木)~2024年1月3日(水)
【開室時間】
9:30〜17:30
※入室は閉室30分前まで
【夜間開室】
2023年11月17日(金)、11月24日(金)、12月1日(金)
12月8日(金)は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
【観覧料】
当日券 一般:500円 / 65歳以上:300円 / 学生以下:無料
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料
※いずれも証明できるものをご提示ください
※同時期開催の特別展「永遠の都ローマ展」のチケット提示にて入場無料
【リンク】
展覧会ページ