男子バレー2戦完敗のスタート。これからどう戦うべきか
「ワールドグランドチャンピオンズカップ2017」男子大会が開幕した。
4年に一度の国際大会ではあるが、正直に言わせていただくと、世界選手権やワールドカップ、オリンピックに比べるとその位置づけは低い。もちろん、世界の強豪チームと戦える貴重な機会ではあるが、各国ともオリンピックの翌年ということもあり、「この選手はどれくらい通用するのか」と、若い選手や初めて代表入りする選手を試すチームが多いように思う。アメリカ、ブラジルは主力メンバーも何名かは来日しており、日本にとっては両国との戦いから課題を洗い出し、今後の強化につなげていく良い機会となるだろう。
藤井と出耒田に注目していたが、スタメンは…
今年度の注目どころは、わたしは初めて代表に選出された東レ・アローズのセッター、藤井直伸と、堺ブレイザーズではミドルブロッカーを務めているものの、今年度の世界選手権アジア最終予選とアジア選手権からオポジットとして出場している出耒田敬だと考えていた。藤井はクイックを使うのがうまい選手で、その組み立てや相手のブロックを見る視野の広さが、リードブロックシステムで対応してくるアメリカ相手にどれくらい通用するのか、そのプレーを見られることが大いに楽しみだった。
出耒田にしても、オポジットとして試合に出場するのを見るのは、確か筑波大時代、つくばユナイテッドSunGAIAに参加していたときの、入れ替え戦以来である。あの最高到達点の高さが、世界の組織的なブロックにどれくらい通用するのか、とても楽しみにしていた。
しかし、初戦のスタメンセッターは深津英臣で、オポジットは大竹壱青だった。
もちろん大竹が期待の若手であることは理解している。今大会で試したいということも、納得できる理由である。しかしセッターに関しては、ある程度、国際舞台での経験がある深津ではなく、藤井でスタートしてほしかった。スタメンを深津にした理由について試合後、中垣内祐一監督は「レセプションが乱れた際に、迅速にボールの下に入れる身体能力を買って」と語ったようだが、それならばなおさら、乱れたレセプションでもクイックやbickを使える藤井が有効ではなかったか。疑問の残る采配となった。
皮肉なことに、その藤井、出耒田が揃って出場したフランス戦では、全日本の戦いは落ち着きを取り戻した。相手のブロックに隙のできるスロットを利用して、bickを序盤から使っていった藤井のトスワークは冷静だったし、出耒田も決してアタックを打ち降ろさず、コートエンド付近をねらって決めていた。まさに、大学時代に見ていた出耒田のプレーだった。
今年度の全日本が招集されたばかりのころ、出耒田に話を聞くと、当時はミドルブロッカー登録だったこともあり、こんなことを語っていた。
「高いミドルブロッカーは日本にも大勢いるんです。でもその高さを生かすトスを上げられるセッターが少ない。そういう意味では藤井のBクイックのトスを打つのは、自分はとても楽しみにしているんです」
オポジットへの転向でその願いは叶わなかったが、グラチャン開幕前の合宿では、オポジットとしてもスピードのある攻撃に挑戦していると語っていた。東レでの藤井のライトへのトスは速い。ニコラ・ジョルジェフが素早く助走に入り、ライトからアタックを決めるシーンも多く目にした。Vプレミアリーグ終盤に東レの小林敦監督に話を聞いたところ、「ニコ(ジョルジェフ)へのトスが速いために、相手のミドルブロッカーが追いつけない」と語っていた。もちろん、AクイックとBクイックで相手ブロッカーの意識をコート中央からレフト側に集めるという布石があるからこそ、そのライトへのトスも生きる。
「ニコまでとは言えないですけど、自分へのトスももっと速くできると思う。Dクイックを打つみたいなイメージですね」と、合宿中の出耒田も藤井とのコンビには自信をのぞかせていた。
高さを殺してしまう速さでは意味がない
速いトスというと、直線的になり、どうしても高さが出ないと思われがちだが、出耒田はきっぱりと言う。
「いくら速いといっても、高さを殺してしまう速さでは意味がない。それはブランコーチ以下、チームの共通認識になっていますから」
初戦、第2戦の藤井のトスを見る限り、「高さを殺さない速さ」は十分、効果的だったと思う。あとは、藤井が得意とする速攻の決定率を上げること。(これはアタッカーに大いに責任があるように思う)そのために、せめてクイックが使える範囲にレセプションを返すことが鍵となってくるだろう。大阪に場所を移してからの3試合では、全日本の「高さを殺さない速さ」を意識した攻撃に注目したい。
2メートル以上の選手が5名、ベンチ入りしていることが今大会の全日本の売りらしいが、それならば、思い切ってコンバート組(高橋健太郎、小野寺太志)もワンポイントではなく、どんどん試合で起用すべきだ。フランス戦では、高橋のブロックのワンタッチからの切り替えしでチームが波に乗るシーンもあった。
石川祐希、柳田将洋の両エースは、大会終了後、それぞれがイタリア、ドイツに渡ることがすでに決まっている。それならば、国内リーグでプレーすることとなる高橋、小野寺、山田脩造らにこの大会で国際舞台を経験させることも、東京オリンピックに向けては大きな収穫となるのではないか。
今大会をどう位置付けているのか
今大会でメダルを獲得してほしいと望んでいるバレーボールファンはおそらく少ないだろう。それよりも、東京オリンピックに向けて、どんなコンセプトで戦っていくのか、どんな選手が成長していくのか、希望を見出したい。全日本の戦い方や、理念を見せてほしいと思う。ケガをしている選手を酷使することはもっと望んでいない。
ここまで0勝で得セットも0という全日本男子。大阪に場所を移す第3戦以降では、何らかの収穫を得られることを願っている。