ナナちゃん人形50歳。五十路ブレイクの秘密は「広告解禁」と「SNS」だった(!?)
「ナナちゃんバースデーウィーク」を過去最大規模で開催
名古屋駅の巨大マネキン、ナナちゃん人形。1973年生まれの彼女は、2023年4月28日に50歳の誕生日を迎えます。
ナナちゃん人形が“所属”する名鉄百貨店では、これを祝う「ナナちゃんバースデーウィーク」を4月26日(水)~5月9日(火)の2週間にわたって開催。コラボグッズの発売、プレゼントが当たるキャンペーンなど、多彩な企画が展開されます。
「一昨年、昨年もバースデーイベントを行いましたが、今年は過去最大規模。昨年と比較して、関連グッズは62アイテム→94アイテム、販促企画は5企画→10企画と拡充しています。売上も前年比195%だった昨年のさらに2倍を目標としています」と同社販促担当者。
年に約40回の衣替えで、これまで620着を着用
さて、ここであらためてナナちゃん人形(以下、ナナちゃん)のプロフィールを紹介しておきましょう。誕生は1973(昭和48)。その前年にオープンした名鉄百貨店セブン館(現・メンズ館)の一周年を記念し、同館のシンボル兼名鉄百貨店の広報部員としてデビューしました。名前はセブン館(=7=ナナ)にちなんでつけられました。
身長は6・1m。スレンダーなスタイルを活かして、フェアやセールと連動した衣装を着用。年間40回ほど着替えをし、これまでにおよそ620着以上の衣装を着用してきました。
18年前から衣装を撮り続けている筆者。当時は冷ややかな視線も
今回、大々的なバースデーイベントが開かれる通り、名鉄百貨店の期待度も、周囲の注目度も非常に高いナナちゃんですが、これほどまでに人気上昇したのは近年のことです。
実は筆者は2006年からナナちゃんのすべての衣装を撮影・記録しているのですが(2006年~2019年までWebガイドサイト「AllAbout」で紹介)、この定点観測を始めた当初は、同じようにカメラを向けている人に出くわすことはほぼ皆無でした。それどころか行き交う人たちに「何やってるの?」と冷ややかな視線も送られたもの。地元では水着やドラゴンズのユニフォームなど時々着替えをすることは知られていて、便利な待ち合わせスポットとしても親しまれていましたが、それ以上の関心を寄せる人はほとんどいなかったと思います。名鉄百貨店も今でこそHPに「ナナちゃんコレクション」のページを設けて、最新衣装をアップし、アーカイブも見られますが、これも筆者が記録を始めて数年後からのことだったと記憶しています。
「企業広告解禁」で衣装・演出のインパクトがアップ
このように、あって当たり前の存在として名古屋駅の風景になじんでいたナナちゃんですが、ひときわ存在感を発揮するようになったのは10年ほど前から。きっかけは2012年、企業広告が解禁されたことでした。それ以前の衣装は、名鉄百貨店の企画に関連したもの、公共の啓もう活動に限定されていたのですが、一般企業のプロモーションにも活用されるようになったのです。
これによって映画やアニメのキャラクターに扮したり、よりカラフルだったり奇抜だったりする衣装を身に着けるように。横の壁面に巨大なポスターを貼ったり、路面にもイラストを描いたりという立体的な演出もこの頃からのものです。同時に名鉄百貨店も、ナナちゃんのあごが地面を突き抜けるほどに伸びたり、おじぎをしたり、鼻息をブシューッと噴き出したり、インパクトの強い演出に次々とチャレンジするようになっていきました。
SNS時代の本格到来でナナちゃんの魅力が世界へ発信
ナナちゃんの衣装、演出のクオリティーがぐんぐん高まっていった時期、世の中ではもうひとつ大きな変化がありました。SNS時代の本格的な到来です。2008年に日本でもiPhoneの発売が始まるやスマホが爆発的に普及。その後、2011年の東日本大震災をきっかけにTwitterの利用者が急増し、2017年には「インスタ映え」が流行語大賞に。身の周りの出来事からお出かけ先の食事や風景などを撮影してSNSに投稿するのは、今や日常的なプチエンタメとして一般化しています。
そうなると当然、ナナちゃんもSNSユーザーの被写体に。新しい衣装に着替えるたびにその姿がSNSで拡散されるようになり、広告主もそれを意識したプロモーションを積極的に取り入れるようになりました。アニメのキャラクターなどファンの“推し”心理に訴求することや、衣装は基本的に一週間限定という希少性も、SNSに投稿する意欲を刺激し、折々の衣装の価値を高めることにつながりました。
名古屋駅に行けば必ず会えて、写真を投稿すればひと目でそこが名古屋だと分かる、でもその衣装はその時にしか見られない。そんな公共性とレア感をあわせ持っていることがSNS時代に見事にマッチし、ナナちゃんは50歳を前にして、“ブレイク”といってもいいほどの人気を獲得するにいたったのです。
「裸にしないで」の声の内容にも変化が
ずっと同じ場所に立ち続けながら(過去に2度、一時的に“引越し”したことがありますが)、立ち位置は変化しているナナちゃん。名鉄百貨店に寄せられる地元の人の声、そして対応の仕方にも、ある変化が見られるといいます。
「2000年代より以前は衣装を着ていない状態も珍しくはありませんでした。その当時からしばしば『裸のままにしておかないで』という声は寄せられていたのですが、当社としては『マネキンですから(気にしないで)』と対応していました。しかし、だんだん同様のご意見でも『女性であるナナちゃんが裸なんてかわいそう』というニュアンスが含まれるように。単なるマネキンではなく、“ナナちゃん”という人格があるものとして、皆さんが愛着を抱いてくださるようになったのです」(名鉄百貨店担当者)。そんな声を受けてか、2012年の企業広告解禁以降は、基本的に何かしらの衣装を必ず着用しているそうです。
多彩なグッズ、企画が目白押し。筆者の関連企画も…!
今回の「ナナちゃんバースデーウィーク」では、大人気ブランド「アナ スイ」をはじめ、グッズからグルメまで様々なメーカー、ブランドとのコラボ商品を販売する他、衣装もデザインした画家、古家野雄紀氏による特製紙袋のプレゼント、お客さんから初めて募集する衣装デザインコンテスト(最優秀作品は実際に衣装を作成・着用!)、ナナちゃんの目線まで上れるレア体験イベントなど、多彩な企画が目白押し。
そんな中で名鉄百貨店関係者が「実はこれがイベントの成否のカギなんです!」というのが「歴代ナナちゃんをめぐるクイズスタンプラリー」(4月26日~5月9日)です。これは名鉄百貨店本店の7ヵ所に設置されたチェックポイントをめぐってクイズに参加すると、ナナちゃんグッズ詰め合わせなどがプレゼントされるというもの。「コラボグッズの販売箇所などにポイントを設置し、館内にお客様を誘導する仕かけになっています。ナナちゃんをきっかけに館内を回遊してお買い物を楽しんでいただければと思っています」(名鉄百貨店担当者)。そしてスタンプラリーの写真、クイズは筆者が提供、考案したもの。コツコツ積み重ねてきた写真コレクションと豆知識がナナちゃんに対するバースデープレゼントとなり、ウオッチャーとしては感無量です。
商業施設のオブジェやシンボルで、これだけ長く愛され、さらにはみんなで楽しむソーシャルアートとしても機能している存在は世界でも稀なはず。みんなでナナちゃんの50歳の誕生日をお祝いし、ナナちゃん、そして名鉄百貨店、さらには名古屋への愛着を深めてください!
(写真撮影/すべて筆者)